第73話「二人きりに」
「――っ」
笑顔で真凛に見つめられている佳純はダラダラと汗を流し、半ば無意識にギュッと陽の服の袖を指で摘まんだ。
佳純は普段強がっているだけで実際は小心者である。
だから一度受けに回ってしまうと脆く、そうなってしまえば必然陽に頼ってしまっていた。
しかし、その態度がより真凛の神経を逆撫でする。
「そうやってすぐによ――葉桜君を頼られるから、依存のしすぎと言われるのではないですか?」
真凛は陽の服の袖を摘まむ佳純の手に視線を向けながら、聞き心地のいい優しい声でそう言ってきた。
だけど、かわいらしい笑顔のはずなのになぜか空気は張り詰めている。
「べ、別に、そんなこと秋実さんに言われる筋合いないし……」
「いえ、依存してないなどと否定をされるのであれば、今根本さんがされている行動はおかしいと思います」
「こ、これは、私たちが幼馴染みだから……! だから、仲良くしててもおかしくない……!」
真凛に指摘をされ、佳純は完全に的外れな答えを返してしまった。
それどころか、この場においては避けたほうがいい話題を出し、凪沙は絶望したような表情になる。
そして陽も真凛の様子が更におかしくなる気配を感じ、反射的に動き出していた。
「秋実、二人だけで話をしよう」
「えっ……?」
陽は優しく真凛の手を掴むと、そのまま立ち上がるように促した。
しかし、突然のことで戸惑ってしまっている真凛は動くことができず、混乱したように陽の顔を見上げてくる。
逆に佳純はこのままだと陽と真凛が二人きりになってしまうと思い、慌てたように口を開こうとしていた。
「ちょっと待っ――」
「――君、本当陽君のことになると空気読めないなぁ。ここは一旦陽君に任せようよ」
これ以上佳純が入ったら話がこじれるとしか思えなかった凪沙は、佳純に恨まれることは覚悟で陽と真凛を二人きりにすることにした。
陽たちが戻ってくるまでの間は佳純の文句を甘んじて受け入れようと覚悟を決めてのものだ。
しかし――。
「…………」
意外にも、佳純は黙りこんで席に着いた。
不服そうに頬を膨らませて窓の外をジッと見つめ始める。
どうやら我慢することにしたようだ。
その佳純の態度を凪沙は意外に思うが、安心したように陽を送り出した。
「――行こう」
「えっ、あの……」
陽に優しく引っ張られると、真凛は戸惑いながらも席を立ち陽の後ろを歩き始める。
そのまま二人は車両の隅にまで歩いて行き、陽はまっすぐに真凛を見つめた。
「ごめん……秋実の気持ち、蔑ろにしてしまった。いや、嫌な気持ちにさせることはわかっていたんだ。だけど……勝手に、秋実なら佳純とも仲良くやってくれると期待を押し付けてしまった。本当にごめん」







