第70話「仲良くさせる算段」
「何を怒ってるんだよ?」
頬を膨らませてしまった真凛を前にし、陽は内心焦りを抱きながら声をかける。
すると真凛は一度陽の顔を見上げたが、すぐに陽と佳純の繋ぐ手に視線を戻して口を開いた。
「いえ、なんでもないです」
「なんでもないという表情はしてないと思うが……」
真凛の表情はどう見ても子供が拗ねている時の表情だ。
さすがの陽もここまであからさまにされると気が付かないはずがなく、真凛が視線を向けている手を放してみた。
すると、今度は背後から黒いオーラを感じるようになり、確かにこちらを立てればあちらが立たずだな、と陽は思う。
「やっぱり人選ミスなんだよなぁ」
「うるさい、最初はこうなることは覚悟の上だ」
真凛と佳純が仲良くできるはずがないと思っている凪沙が呆れたように呟くと、陽は若干苛立ちながらそれを否定した。
こう見えても陽は佳純のおかげで人一倍――いや、二倍、三倍は苦労してきた男だ。
やると決めた以上はこんなことで根をあげたりはしない。
「でも、このままだと余計仲が悪くなるだけだよ?」
「一応、簡単な解決策はあるんだけどな……」
「そうなの? だったら早くすればいいのに」
どうしてしないのか、という意味を込めながら凪沙はそう陽に聞いてきた。
そんな凪沙に対し、陽は溜息を吐きながら口を開く。
「簡単っていうのは理論的にってだけで、運よくそういう場合に陥らないと難しいんだよ。まぁ、実際に陥ったとしたら普通は運が悪いんだろうけどな」
「何、その変な言い回しは。なんだか気持ち悪いんだけど?」
「お前、時々本性を見せるよな……」
容赦なく気持ち悪いと言ってくる凪沙に対し、陽は呆れながら指摘をした。
しかし、こんなことを言っても凪沙はなんとも思わないとわかっているため、無言で見つめ合い始めた佳純と真凛に視線を向けながら再度口を開く。
「陥ったらあいつらが必然的に仲良くなる、そういった状況だ」
佳純の性格をよく知り、真凛がどういう人間なのかを大まかに理解した陽には一つの算段があった。
しかし――。
「まぁ、そうそう陥ることはないんだけどな」
陽は、自分が考えている案を実現できる状況が起きることは滅多にないと告げた。
今の状況ではピースが足りず、実現は厳しいと思っているのだ。
「じゃあ駄目じゃん」
そうそう起きないのであればこんなところで言っていても意味がない。
そういった意味を込めて凪沙は指摘をする。
「人為的にそういった状況を起こそうと思えば起こせるが」
「じゃあやりなよ」
しかし、人為的に陽は起こせると返してきたので、できるならやれと凪沙は返した。
やれるのにやらないのは意味が分からない。
今度はそういう意味を込めて凪沙は陽の目を見つめる。
だけど――。
「やらせは嫌いだ」
陽は、そう言って凪沙に背を向けてしまった。
そして、目だけで牽制をしあう二人を止めに入る。
そんな陽の背中を見つめながら、凪沙は口元に手を当ててニヤッと笑みを浮かべた。
(ふ~ん、なんとなく察しはついたかなぁ。でも、そういう状況なら陽君が言うほど難しくないと思うけど。なんたって、こっちには陽君に近寄ろうとする女にはすぐ噛みつく佳純ちゃんがいるんだから)
短めの話ばかりなので、
いつか今までの話をしっかりとまとめて出したいと思ってます(*^_^*)







