第69話「もうひとつの姿」
「凪沙、なのか……?」
佳純と凪紗が火花を飛ばし合うなか、佳純の動きに視線を向けていた陽は驚いたように声を出した。
それに対して佳純は不機嫌そうに陽の顔に視線を向け、真凛は疑問を浮かべながら陽の顔を見上げる。
そして肝心の凪沙はといえば、先程までの険悪な雰囲気など感じさせない人懐っこい笑みを浮かべてかわいらしく首を傾げた。
「何をそんなに驚いてるの? 僕が女の子で驚いたかな?」
「いや……女子じゃないかってことには気付いてたけど……」
「あれ、気付いてたの? てっきり佳純ちゃんに僕が男の子だって吹き込まれてて、ずっと男の子だと勘違いしてるんだと思っていたよ」
そう言って凪沙が意地の悪い表情を浮かべて佳純に視線を向けると、佳純はバツが悪そうにソッポを向いて凪沙の視線から逃げた。
言葉にしなくてもその態度が真偽を物語っており、陽の傍で不思議そうにしていた真凛が物言いたげな目で佳純のことを見つめ始める。
「……何よ?」
「いえ、そこまでするのですか、と思っただけです」
真凛の視線に気が付いた佳純が声をかけると、真凛はニコッとかわいらしい笑みを浮かべて答えた。
しかし、表情とは裏腹に言葉からはなんとなく佳純のことを軽蔑しているのが伝わってくる。
それに対して佳純はムッとして口を開こうとするが、これ以上二人が言い争いをしないように陽が佳純と真凛の間に体を入れて二人の視線を遮った。
そして物言いたげな目をする佳純の手を握り、少しだけ落ち着かせた後凪沙に向けて口を開く。
「まぁ佳純に吹き込まれていた云々はどうでもいいとして、お前短髪じゃなかったか? なんでこの短期間でそんなに髪が伸びているんだ? ウィッグってやつか?」
現在凪沙の髪は佳純や少し前の真凛と並ぶぐらいの長さになっている。
今まで見ていた凪沙の髪の長さは肩にも届かないほどだったのに、この短期間で大きな変化を見せたことが陽には不思議で仕方がなかった。
「いや、いつもは帽子に入れて短く見せてただけだよ」
「なんでそんなことを?」
「だって、なるべくプライベートの自分からは切り離して配信活動はしたいじゃないか。僕の場合凄く恨みを買うしね」
どうやら、凪沙も一応身バレなどに気を遣っているようだ。
確かに陽は言われるまで凪沙に気が付かなかったわけであり、一定の効果はありそうだった。
「まぁでも、顔の形自体が変わるわけではないから勘がいい子には気付かれちゃうんだよね。真凛ちゃんには会った頃から女の子だってバレてたみたいだし」
「はい、ネットでは明言されていませんでしたが、凪沙ちゃんはとてもかわいらしい顔をされてますのでわかってましたよ」
真凛はそう言って凪沙のことを褒めるが、言われた当の本人は微妙そうな顔を浮かべてしまった。
圧倒的な美少女にかわいいと言われてもあまり嬉しくないのかもしれない。
「まぁ正直言うと、いつもの恰好でこようかどうか悩んだんだけど、真凛ちゃんと行動するならこっちのほうがいいかなって思ったんだ」
多くの恨みを買う動画配信者の凪沙が一緒に行動をすると、真凛が思わぬところで逆恨みをした人間に襲われる可能性がある。
そう考えた凪沙はプライベートの恰好で来たというわけだ。
そのことに関しては陽も同意見なので、素直に凪沙の気遣いに感謝をする。
しかし、傍から見れば男二人、女二人の状況になる予定だったのに、今は男一人、女三人の状況だ。
挙句の果てに佳純と真凛がいなければ凪沙も十分人目を惹く顔つきをしているため、陽は少しだけこの三人と行動することを気後れしてしまった。
「助かるよ。まぁとりあえず……全員仲良く、な?」
「さぁ、それは佳純ちゃん次第じゃないの?」
これ以上揉められたら敵わないと思った陽が釘を刺すと、凪沙は肩をすくめながら視線を佳純へと向けた。
しかし陽と凪沙の視線を向けられた佳純はといえば、だらしない表情を浮かべて心ここにあらずの様子だった。
「……まぁ、君がいればどうにでもなるか。その代わり、もう一人の子も同じ扱いをしてあげないと、そっちが問題になると思うよ?」
「えっ?」
佳純から視線を逸らして別方向を見た凪沙の視線と言葉に釣られた陽が同じ方向を見ると、そこには拗ねた表情で佳純と陽の手に視線を向ける金髪美少女が立っていた。
「あちらを立てればこちらが立たず、ってね。がんばってみんなの仲を取りまとめてよ、首謀者さん?」
そう言う凪沙は、『君が集めたんだから、僕に丸投げするんじゃなく自分でどうにかしてね』という思いをこめた視線を陽に向けてきたのだった。
いつも読んで頂き、ありがとうございます!
ちょっとタイトル変更を考えており、以下二つのうちだとどちらがいいか意見を頂けますと幸いです!
『失恋少女の相手をしたら懐かれ、疎遠だった幼馴染がやたらと絡んでくるようになったんだけど?』
『失恋少女の相手をしたら懐かれ、疎遠だった幼馴染が怒り修羅場になった』







