第65話「幼馴染みの勝利」
新作短編『氷の女王様と呼ばれる美人教師と半同棲生活してるだなんて言えるわけがない』
を載せました!
よかったら読んで頂けますと幸いです(*´▽`*)
「にゃ~さんの動画デビュー……?」
てっきり毎日甘やかせと言ってくると思っていた陽は、思わぬ内容に戸惑いを隠せない。
そして佳純が掲げるにゃ~さんに視線を向けるが、抱っこされていると思っているのか尻尾をゆっくりと大きく揺らしていた。
完全にリラックスしているし、ご機嫌な様子だ。
「常識の範囲内でしょ? だって、陽だって私を秋実さんの動画に出そうとしてるんだから」
佳純が言ってることはもっともで、佳純に動画に出るよう求めている以上陽も簡単には断れない。
しかし、やはりにゃ~さんにストレスを与えたくないという考えは変わらないため、陽はどう返事をしたものか悩む。
「……一応聞くが、どうしてそんなににゃ~さんを動画デビューさせたいんだ?」
「かわいいから! 人気者になるから!」
「にゃ~さんを金稼ぎに利用しようっていうのなら――」
「違う! かわいい我が子をみんなに自慢したい!」
そう言う佳純は興奮したようににゃ~さんを上下に振る。
さすがにその行為はにゃ~さんも嫌だったらしく、佳純の手をバシッと叩いて飛び降りてしまった。
それにより佳純はシュンとしてしまうが、陽は自分の足元に擦り寄ってきたにゃ~さんを抱き上げ、にゃ~さんを見つめながら考え始める。
(まぁ、佳純が言うこともわからないわけではないんだよな……)
にゃ~さんは見た目がかわいいだけでなく、芸もしっかりと覚えている。
だから誰かに自慢をしたいというのは陽にもわかるのだ。
ましてや、その芸を仕込んだ佳純からすればみんなに見てほしいと思うことは不思議ではない。
(でもな……猫ってレンズを向けられるの嫌うっていうし……)
前に陽は真凛とのビデオ通話でにゃ~さんを出したが、あれは画面に真凛が映っていたことでにゃ~さんの気を引くことができていた。
だからストレスにはなっていなかったのだが、撮影となるとそうも言ってられない。
ましてや長時間レンズを向けることになる可能性もあるわけで、どうしても気乗りしなかった。
「にゃ~さん、レンズ平気か?」
「にゃ?」
腕の中にいるにゃ~さんに尋ねると、にゃ~さんは不思議そうに首を傾げた。
「駄目みたいだ」
「違うでしょ! にゃ~さん、レンズが何かわかってないだけじゃん!」
「でも、嫌そうだぞ?」
「それは陽の偏見! にゃ~さん、これ大丈夫だよね!?」
陽が断る気満々だとわかった佳純は、スマホを取り出してレンズをにゃ~さんに見せる。
するとにゃ~さんは佳純のスマホに向かって両手を伸ばし始めた。
「ほら、興味持ってる!」
「……本当だな。でも、あまり近付けるなよ? 引っかかれると困る」
「大丈夫だよ、にゃ~さん頭いいもん!」
そう言って陽の忠告を無視してにゃ~さんにスマホを近付ける佳純。
すると、にゃ~さんの目が一瞬キラリと光、バシッと蠅叩きのように佳純のスマホを思いっきり叩いてしまった。
それにより佳純のスマホが音を立てて地面へと落ちてしまう。
「あぁあああああ! 私のスマホがぁあああああ!」
「だから言ったのに」
スマホが落ちて大声を上げる佳純に対し、陽は呆れたように溜息を吐いた。
そして佳純の声で驚いてしまったにゃ~さんの頭を優しく撫でて落ち着かせる。
「にゃ~さん、あぁいうのはおもちゃ以外でやったら駄目だぞ?」
「ふにゃ~」
注意をする陽だが、にゃ~さんは気持ち良さそうな声を上げるだけで聞いているのかどうかはわからなかった。
それに、よく佳純が先程のようにおもちゃをにゃ~さんに見せて遊ぶことが多かったため、佳純のスマホのことをにゃ~さんは遊び道具だと思っていた可能性が高い。
だからそこまで本気で注意する気にはなれなかった。
要は、忠告を聞かなかった佳純が悪いのだと。
「スマホが……」
「悪い、傷ついたなら弁償するよ」
「うぅん、平気……ただ、写真が飛んでたらショック……」
そう言って佳純はスマホの中身を確認し始める。
中にはスマホを親に買ってもらってから撮ってきた陽との写真があり、それがなくなっていないかの確認をしていた。
涙目になっているそんな佳純を見つめながら、申し訳なく思った陽はゆっくりと口を開く。
「……まぁ、嫌がっていたようには見えないし、長時間じゃなかったらやってみるのはいいよ」
「本当!?」
そして陽の言葉を聞いた佳純は目を輝かせて顔を近付けてきたのだけど、それにより陽はさっきの態度は演技ではないのかと思ってしまった。
しかし、次に発せられる佳純の言葉でそんなことはどうでもよくなる。
「言っておくけど、できる限り毎日撮影だから!」
「なるほど、そういう狙いか……」
どうして佳純が先程言葉を呑み込み、自分が甘やかされることよりもにゃ~さんの動画デビューを優先したのか。
その狙いがわかった陽は心の中でやられたと思った。
(やっぱり、なんだかんだ言ってこいつ頭がいいんだよな……)
陽はにゃ~さんを外に連れ出すことをよしとしていない。
それは変な虫に取りつかれることを恐れているのと、動物などに襲われることを恐れているからだ。
だから、外での撮影はまずありえない。
となると、室内のどこかで撮影をすることになるのだが、にゃ~さんのストレスを考えて慣れ親しんだ陽の家で撮ることは目に見えている。
そうなれば必然、佳純は陽と毎日一緒にいられるというわけだ。
佳純の中では毎日陽といるという提案は断られる可能性が高いと思っていた。
それどころか一日だったのを二日に増やすという要求しか呑まない可能性すらあると思っていたため、佳純はこの策に出たのだ。
こうすればにゃ~さんの動画デビューだけでなく、佳純は毎日陽と一緒にいられると考えた。
そして一緒にいさえすれば、なんだかんだ甘やかすのが好きな陽は自分のことを甘やかしてくれるとも。
にゃ~さんのストレス云々に関しても、撮影時遊んであげればにゃ~さんはストレスを感じるどころか凄く喜ぶとわかっている佳純は、そのにゃ~さんを見せつければ陽は納得せざるを得ないと理解していた。
だからこの策を取ったのだ。
陽はそこまでを読み、大きく溜息を吐く。
「撮影、俺が担当ってことでもいいか?」
「そんなの駄目に決まってるでしょ!」
「だよな~」
本当に佳純にやられたと思い、陽は渋々彼女の要求の呑むのだった。







