第36話「甘えん坊の幼馴染み」
「――えへへ、陽〜」
あれから何時間経ったのだろうか。
まるで今までの時間を埋めるかのように、佳純は飽きもせずずっと陽に頬ずりをしていた。
たまに首元にも頬ずりをしてくるため、陽はくすぐったいのを我慢するのでいっぱいだ。
(見た目は成長してるのに、中身は子供のままなんだよな……)
大人のように振る舞っている佳純だが、実は根はとても子供だったりする。
佳純は幼い頃から陽のように他人を突っぱねる態度を取ってきた。
しかしそれは彼女の根が冷たいというわけではなく、実は陽の真似をしていただけなのだ。
陽は佳純との関係を嫉妬する人間やからかってくる人間が嫌になり、拒絶という形を取るようになった。
そしてその分、幼い頃から一緒にいた佳純をかわいがるようになったのだ。
それにより自分は陽に特別扱いされていると思った佳純は、陽以外の存在を取り合わないことで陽と二人だけの空間を作れると思った。
そのせいで他人を突き放すようになってしまったのだが、根は甘えん坊なのだ。
だから、陽と二人きりになってしまうと途端に甘え始めてしまう。
そしてそんな佳純を陽が甘やかし続け、佳純の我が儘のほとんどを許し、何か困れば陽がすぐに手を差し伸べて解決してしまうので、彼女の根は子供のままになってしまっていた。
幼い頃から変わらない幼馴染みに対し、陽は自分の罪を再認識する。
しかし――。
「陽、手が止まってる。ちゃんと撫でて?」
こんなふうに甘えられると、突っぱねるのは気が引けてしまうのだ。
そのため、上目遣いでお願いをしてきた佳純に対し、陽はまた優しく頭を撫で始める。
それだけで佳純はデレデレだった。
(こんなところ、学校の奴らが見たら全員驚愕するだろうな……)
普段の様子からは想像がつかないほどに甘えん坊となっている佳純。
クールで素っ気ない態度の佳純しか知らない学校の生徒たちは、この光景を見たら別人と疑うことだろう。
それくらい今の佳純は学校の佳純と性格が違った。
「――にゃ〜」
そうして佳純を甘やかしていると、にゃ〜さんが陽の部屋に来て佳純の太ももの上に乗っかってきた。
そして、自分も撫でて、と鳴いて陽にアピールする。
しかし、現在陽の手は空いていない。
左手は佳純の背中からお腹にかけて回しており、佳純の体を固定する役目を担っている。
そして右手はといえば現在佳純の頭を撫でているわけで、これをやめると佳純が途端に拗ねてしまう。
そのため、陽ににゃ〜さんを撫でる手は残っていなかった。
すると、陽の代わりに佳純がにゃ〜さんに手を伸ばす。
「にゃ〜さんは、私が撫でてあげるね」
「にゃっ」
佳純が優しく抱き上げると、にゃ~さんは満足そうに佳純の胸へと頭を預ける。
そのため、佳純は陽に抱かれたままにゃ~さんの頭を撫で始めた。
その表情は母親のような母性に満ち溢れており、にゃ~さんのことをとてもかわいがっているのがわかる。
(普段からこの表情をしていればいいのにな……)
佳純の優しい表情を見ながら、陽は思わずそんなことを考えてしまった。
「ねぇ、陽」
「ん?」
「にゃ~さんの動画デビューの件、考えてくれた?」
佳純の顔を見つめていると、佳純はにゃ~さんの頭を撫でながらそう聞いてきた。
それは、二年前から佳純が陽に持ち掛けている企画だ。
「いや、前も言ったけど、にゃ~さんの動画を載せる気はないぞ?」
「むぅ……折角芸を覚えさせたのに……」
陽に駄目と言われ、佳純は不服そうに頬を小さく膨らませる。
「にゃ~さんを見世物にするようなことはしたくないんだ。佳純だって、顔出しは嫌なんだろ?」
「そうだけど……絶対に人気になるのに……」
「まぁ俺たちのチャンネルなんだから、にゃ~さんに負担をかけることはなしで行こう」
にゃ~さんなら余裕でカメラ目線でポーズを決めてくれそうな気はするが、あまり負担をかけたくない陽は絶対にそこを譲るつもりはない。
そのことがわかっている佳純は溜息を吐き、にゃ~さんの肉球でプニプニと遊び始めた。
そして、ゆっくりと口を開く。
「でも、そろそろサブチャンネル作りたいなぁ。みんな持ってるし、風景動画だけだといつか頭打ちになるかもしれない」
それは、二年前から佳純が懸念していたことだ。
幸い今はまだ視聴者が増え続けているし、陽もいろんな風景を求めて動画を撮ることができているけれど、いつかは限界がくると佳純は思っていた。
それに対しては陽も同感で、何か新しいことを始めないといけないとは思っていたのだが――その頃佳純と衝突してしまい、結局その問題は先延ばしになってしまったのだ。
仲直りした今、二人は今後のチャンネル運営について考えないといけない。
「佳純は歌も上手だし、歌ってみた、とかしたらいいんじゃないか?」
「でも、それだと喉を痛める可能性があるから……。ナレーションの声は大切にしたい」
「う~ん……」
「あっ、そうだ! 陽と二人でカップルチャンネルなら顔出しで――」
「却下だ」
「――っ! ――っ!」
「痛い痛い。そんな叩くな」
佳純のとんでもない提案を間髪入れず突き放すと、佳純は頬をパンパンに膨らませて陽の胸を叩き始めた。
よほど気に入らなかったらしい。
結局二人はその日答えを出すことができず、傍から見るとカップルにしか見えないようなことをし続けるのだった。
今日日間5位に浮上してましたありがとうございます!
これからもがんばりますので、どうかよろしくお願いいたします!







