第34話「甘えたがりの幼馴染み」
「――遅い」
真凛との話し合いが終わった後、家に着くとドアの前で私服姿の佳純が仁王立ちをして待っていた。
露出度の高い服を着ている佳純に対して目のやり場に困りながら陽は口を開く。
「悪い」
陽は何をしていたかは言わず、短くそう謝った。
そして佳純の横を通り、ドアの鍵を開け始める。
「わざと焦らしてたの?」
「そういうつもりはない」
不服そうに見上げてくる佳純に対し、陽は首を横に振って答える。
今日は佳純としていた約束の日だ。
陽が何をしていたか知らない佳純からしたらいじわるをされている、と思っていたのかもしれない。
しかし――。
「開いた、入れよ」
「…………」
陽がドアを開けると、佳純は一瞬だけ目を輝かせ、そしてしおらしい態度になり陽の服の袖を摘んできた。
どうやら先に入るつもりはないらしい。
そうしていると、いつも陽の帰りを心待ちにしているにゃ〜さんが玄関に現れた。
そして、かわいらしく口を開けて鳴き声をあげる。
すると――。
「にゃ〜さん!」
先程のしおらしい態度はどこへやら。
佳純のテンションは跳ね上がり、学校では絶対に出さないような声を出してにゃ〜さんに飛びついた。
「にゃっ!」
「にゃ〜さん久しぶり! 相変わらずかわいいね〜!」
「にゃにゃ」
スリスリと頬ずりをする佳純に対し、にゃ〜さんは嫌がるどころか嬉しそうに頬ずりを返した。
久しぶりの再会ににゃ〜さんも喜んでいるようだ。
そんな佳純たちを眺めながら、陽はこう思った。
(ほんと、女子って猫を前にすると性格変わるよな……)
――と。
「にゃ〜さん、大福!」
「にゃっ!」
「にゃ〜さん、甘えポーズ!」
「にゃっ!」
「凄い凄い、ちゃんと覚えてるんだね! よしよし!」
「にゃ〜」
出した指示に対してにゃ〜さんがきちんとポーズを決めたため、ご機嫌そうににゃ〜さんの頭を撫でる佳純。
実は、にゃ〜さんに芸を仕込んだのはこの佳純だったりする。
「おやつもちゃんと持ってきたからね」
「にゃ〜!」
佳純がチューブ状の猫のおやつを取り出すと、にゃ〜さんはご機嫌そうに食べ始めた。
その様子を見ていて陽は二年前の光景を重ねる。
そして、不思議と温かい気持ちになった。
「もうこのままにゃ〜さんと遊べば?」
「何、約束を破るわけ?」
佳純たちの様子を見て陽は善意的な意味で言ったのだが、逆の意味で捉えた佳純はとても怖い目をして陽の顔を見上げてきた。
そのせいでにゃ〜さんはシャッと佳純の手から逃げ、陽の後ろに隠れてしまう。
「あっ! 陽のせいでにゃ〜さんに逃げられたじゃない!」
「いや、今のはお前のせいだろ……」
文句を言ってくる佳純に呆れながら、陽は怯えてしまった可哀想なにゃ〜さんを抱き上げよしよしと頭を撫でてあげる。
すると、にゃ〜さんは気持良さそうに目を細めてスリスリと甘えてきた。
「…………」
そんな陽とにゃ〜さんを佳純は羨ましそうに見つめ、クイクイと陽の服の袖を引っ張り始める。
「どうした?」
「早く、お部屋」
まるでおねだりをするかのように上目遣いでそう言ってきた佳純に対し、陽は思わず息を呑んでしまった。
そして、にゃ〜さんを佳純へと預ける。
「とりあえず、服を着替える」
このまま空気に流されてはいけないと思った陽は、そう言って佳純から距離を取った。
すると――。
「いじわる……」
佳純は途端に拗ねてしまい、昔の彼女と重なって見えた陽は頭を抱えたくなるのだった。
(これ、ずるずると昔のように戻るパターンだろ……)
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