第14話「(堕)天使の報復」
いじわるをされて拗ねた真凛は、ソッと音を立てずに席から立ち上がる。
あまりにも静かに立ち上がるものだから、スマホに視線を落としていた陽はそのことに気が付いていない。
真凛は食堂に居合わせた生徒たちの視線を全身に集めながら、陽の真後ろにへと回り込んだ。
そして――。
「昨夜はとてもお優しかったのに、一夜が明けるとこんなにも冷たくなってしまわれるのですね……」
いつものかわいらしい声ではなく、わざと作った妖艶な声でそう囁いた。
「――っ!?」
突如肩に両手を置かれ、そして耳元で色っぽい声を出された陽は思わず固まってしまう。
そんな陽に対し、更に真凛は追い打ちをかけた。
「私のこと、もう飽きてしまわれたのでしょうか……?」
思わず陽が振り返ると、真凛は悲しそうに表情を曇らせていた。
しかし、口元は若干微笑んでいる。
「お前……」
この時、陽は真凛に抱いていた評価が間違っていたことを理解する。
先程自分をからかうようにしてきた真凛をあえて突き放せばもう同じことをしてこないと踏んでいたのだが、真凛は陽が今されると一番困る方法で報復をしてきたのだ。
「――ど、どういうことだ、昨夜優しくって……」
「真凛ちゃん、嘘だろ……? 嘘だと言ってくれ……」
「あの男、俺の真凛ちゃんになんてことを……! 絶対に許さん……!」
真凛は囁くように言ったわけだが、耳を澄ませて待機していたすぐ近くの生徒たちにはしっかりと聞き取れる声量で声を発していた。
そしてその聞き取れた生徒たちの抽象的な発言で更に誤解は広がっていく。
水面に石を投じれば波紋が一瞬のうちに広がっていくように、陽たちを中心としてその誤解は一瞬で食堂の全域に到達した。
しかし、真凛の追撃はまだ終わっていない。
この後来る言葉がわかった陽は、すぐに両手を挙げて白旗を揚げた。
「参った、降参だ。だからそれ以上は言うな」
このまま真凛を放置していた場合、次に真凛が言う言葉はこうだった。
『これから休日の度に一緒にいるご予定なのに、私とはもう一緒にいたくないのでしょうか?』と。
さすがに陽も一語一句完璧に読み取れていたわけではないが、大方こういうことを言ってくると理解していた。
だから、そんな致命的な言葉を言われる前に押さえたのだ。
――まぁ、既に手遅れ感は否めないのだが。
「おい、あの男の情報求む」
「いいな? 姿が見えない夜中が狙い目だぞ」
そんな言葉が全方位から聞こえてきて陽は頭が痛くなった。
真凛のことを一部では天使と崇める生徒たちもいるのだが、そのことを思い出した陽は思わずこう考えてしまう。
(天使は天使でも、堕天使だろ……)と。
◆
「ふふ」
一人で教室に戻る中、先程の陽の顔を思い出していた真凛は思わず笑い声がこぼれる。
真凛がやり返した時、陽は大層驚いた表情を浮かべてしまった。
一年生の時からクールな陽はそんな表情を見せたことがなく、滅多に見られない表情が見られた真凛はご機嫌になったのだ。
(いじわるをした葉桜君が悪いのです)
真凛はそんなことを考えながらニコニコ笑顔で廊下を歩く。
すると、教室の入口で見知った女の子が壁にもたれるように立っているのが視界に入った。
「…………」
それによりご機嫌だった真凛の感情は一気に降下してしまう。
思い出したくなかったことを思い出してしまい、ズキズキと胸が痛んだ。
しかし、相手は何も悪くないので真凛はグッと感情を押し殺す。
そして、ペコッと頭を下げて女の子の前をさっさと通りすぎることにした。
普段誰とでも仲良くできる真凛ではあるが、今は彼女と笑顔で話せる気がしない。
だからさっさと通り過ぎようと思ったのだが――。
「――ねぇ」
なぜか、向こうから声をかけられてしまった。
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