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第9話「お前、それで幸せなのかよ?」

 あの後、夜が遅いということで陽は真凛を家の近くまで送った。

 さすがに家まで行ってしまうと真凛が嫌がると思ったので、近くで待機し、彼女から家に着いたというメッセージが来てから自分の家へと引き返した。

 家付近でタクシーを降りるともう夜はすっかり深まっており、シーンとした静寂の空間が陽を包み込む。

 そんな中、本当に家まで後少しという距離で見知った顔とすれ違った。


「――ねぇ」


 陽が玄関のドアノブに手をかけると、先程すれ違った女性が声をかけてきた。

 陽は無視をするつもりだったけれど、彼女は無視をするつもりはないらしい。


「なんだ?」


 女性のほうを振り返ることはせず、陽はドアノブに手をかけたまま返事をした。


「いったいどういうつもり?」

「なんのことだ?」

「そう、とぼけるのね」


 陽の答えを聞き、女性は不機嫌そうに眉を顰める。


「とぼけるも何も、お前が何を知りたいのかがわからないんだが?」


 女性の言葉には主語がなかった。

 大方何を知りたいのかは予想がついてはいるが、確定でない以上陽は迂闊に喋らない。


「わかってるくせに……ほんと、嫌味ったらしい男」


 呆れたようにそう発した女性は、自ら陽に近寄ってくる。

 足音が聞こえたことで陽も仕方なく彼女のほうを向くと、丁度雲から満月が出てきたところで彼女の顔を照らした。


 月明かりによって照らされた女性は、長くて綺麗な黒髪を右手で軽くかきあげながら陽の顔を見つめてくる。


「そんなんじゃあ友達を無くす――いえ、そもそもあなたには友達がいないんだっけ、葉桜君?」

「こんな深夜に出歩くなんて、いつからお前は悪い子になったんだ、根本?」


 陽と根本佳純は、お互い挨拶がわりとでも言うかのように嫌味を言い合う。

 彼らを知る者たちに『一緒にいさせては駄目な組み合わせは?』と聞けば、まず間違いなくこの二人の名をあげるはずだ。


 混ぜるな危険――昨年のクラスメイトたちは皆が陽と佳純のことをそう表すことだろう。

 それだけ、二人は犬猿の仲なのだ。


「深夜に出歩いていること、あなたには言われたくないわね」

「俺は別にいいんだよ、別にそこまで珍しいことでもないしな。問題はお前だろ。こんな時間にわざわざ一人で外にいるなんて、襲ってくださいと言っているようなものだ」


 佳純は真凛同様学校の二大美少女と呼ばれるほどに見た目が整っている。

 そんな美少女が、夜が更けた時間帯で暗闇に包まれた空間にいるなど危険極まりない。

 そのことを陽は指摘しているが、佳純は特に気に留めた様子はなかった。


「防犯対策はしっかりとしているから大丈夫よ。それよりも私の質問に答えて。あなた、どういうつもりで首を突っ込んでるの?」


 そう言う佳純は睨むようにして陽の顔を見つめてきた。

 いや、実際ほとんど睨んでいる。


「なんのことだ?」

「とぼけないで、秋実さんのことに決まってるでしょ。何、振られた直後の彼女を慰めて彼氏ポジションに収まろうとでも考えているわけ?」


 どうやら佳純は陽と真凛が接触していたことを知っているらしい。

 それにより変な誤解を生んでいそうだった。


「俺が秋実と話していたことを知っているということは、お前付いてきていたのか?」

「別に付いて行かなくてもわかるわよ。木下(・・)君たちと話している時、あなたが顔を出したのが見えたの。すぐに顔を隠していたけれど、秋実さんがそっちに曲がった後もあなたは出てこなかった。だから、首をツッコみに行ったんだとすぐにわかったわ」


 佳純も真凛同様頭がよくて鋭い。

 状況証拠から十分陽の行動は想像できたのだろう。


「確かに、俺は秋実と話しはした。しかし、だからといってお前に咎められないといけないことなのか?」


 誤魔化すのは無駄だと言わんばかりに陽はすぐに認め、その代わりに『だったらどうなんだ?』という意味を込めてボールを返した。

 それに対し一瞬だけ佳純は渋い顔をしたが、すぐに何事もなかったかのような平然とした表情で口を開く。


「傷心している秋実さんがこれ以上傷つかないで済むように、忠告をしにきてあげたの。あなたはあの子を必ず不幸にする、だから関わらないでちょうだい」


 殺意でも込められているのかと思うほどに冷たい声で佳純はそう言ってきた。

 それに対し、陽は鼻で笑う。


「ふん、勝者の余裕って奴か」

「別にそんなつもりはないわ。ただ……不本意ながらも、私は彼女を傷つけてしまっている。だから、これ以上傷つく姿を見たくないのよ」


 佳純と真凛は一人の男を巡って争い、結果佳純が勝利した。

 それにより敗北した真凛は傷ついてしまったのだから、佳純が言う自分が傷つけたということは間違っていないだろう。


 しかし、陽は知っていた。

 他のことならともかく、恋愛のような仕方がなく傷つく人間が出るようなことで佳純が心を痛めるような人間ではないことを。

 佳純はそういうところをしっかりと割り切れる人間なのだ。


 だから、陽にはこれが別の意味を持った言葉だと簡単に読み取ることができた。


「お前、今はもう新しい道を進んでいるんだろ? いつまでも過去に縛られるなよ」

「――っ!」


 陽がそう言った直後、佳純の表情が一変する。

 クールを気取っていた表情は、みるみるうちに怒りの表情に変わってしまった。


「あなたが……それを……言うの……?」


 聞こえてきた声は先程の冷めた声ではなく、怒りを大いに含んだとても低い声。

 見れば、殺意を秘めた瞳で佳純は陽を睨んでいた。


「やっぱりな……」


 その佳純の態度と目を見た陽は、真凛と話していた時に浮かんだ憶測が正しかったことを確信する。


「もう家に入れよ。こんなところ誰かに見られたら、折角付き合い始めた彼氏に誤解されるぞ」

「…………」


 陽が忠告しても、佳純は動こうとしない。

 黙って陽の顔を睨みつけていた。


「なぁ、佳純(・・)


 そんな彼女に対し、陽は昔の呼び方で話しかける。

 すると、佳純の瞳が大きく揺らいだ。


「お前が俺を恨むのは勝手だ。だけどな――お前、今それで幸せなのかよ? 嫉妬や俺への復讐のために他人を巻き込んだのなら、もうやめろ。今ならまだ取り返しがつく」


 陽はそれだけ言うと、佳純から目を背けて家の中へと入ってしまった。


 そして、そんな陽を睨んでいた佳純は――

「ふざ、けないで……」

 ――陽に対する憎しみが増し、歯を強く噛みしめるのだった。



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