勇者の帰還
「……ク…ソガッ」
爆炎や氷結といった魔法による破壊と破滅の音が交錯し、だんだんと崩れてゆく魔王城にて、
平穏を望む者達の仇敵にて最強最悪の男、魔王が倒れていた。
「まだ……まだだ………ワシにはまだ…使命が……残っテッ!!」
「いい加減に……たおっれろおぉおお!!!!」
まだ死なぬと抗う魔王に向け、世界最高峰と呼ばれる聖剣を振り下ろす一人の少年
「が……ァッ……」
胸部の魔核を聖剣にて貫かれた魔王は、しだいに醜い姿から砂化が始まる。
「よもや……ワシの予言が外れる思わなんだ……」
砂化してゆく身体を眺める魔王は、抗うのを諦めたのか憎悪に燃えた目から冷静さを感じさせた。
「……ふっワシも…ここまでのようじゃの……」
自らの死期を悟った魔王はそう呟くと、静かに目を閉じていった。
「あぁ……ユラン……今行く……」
そして魔王は、完全に砂と化した。
「倒した……のか?」
「やったのね、ノゥト!」
「人類の勝利だ!」
後方にて、これまで少年を支えてきた仲間達が喜びを表す。
これでこの世界に平和な時代が幕を開けるのだと、仲間の死は無駄ではなかったのだと。
だが、魔王を殺した少年……勇者ノゥトは彼等と喜びを分かち合う時間は残されてなかった。
「……コレは…!!」
ノゥトの足元に幾重にも描かれた純白の魔法陣が創られる。
それは、ノゥトが日本から異世界に召喚された時のものと酷似していた。
「そんな、戻っちまうのかよノゥト!」
「仕方ないよ、ノゥトは元の世界に帰る為に戦っていたんだ…」
「お前のこと、絶対に忘れないからな!」
この世界に召喚されたばかりの頃からか、自暴自棄となっていたノゥトを常に支えてきた
仲間達の言葉に、ノゥトは言おうと思っていた別れの言葉の数々を忘れてしまった。
ーーだが
「俺も……俺も!!」
今にも頰に溢れそうな涙を堪えて
「お前らの事……朽ちても忘れねぇ!!!」
それが最後の言葉だった。
ノゥトの体は完全に消え、意識も暗闇の中に落ちる。
ああ、幸せな日々だった――
▽ ▲ ▽
「はっ!!この程度で気を失うとは、やはりムノウトは無能だなぁ!!」
懐かしい声が、失った俺の意識を呼び戻す。
周囲を見渡すと、見知らぬ制服を見に纏う多くの生徒達が囲んでるのが見える。
「えっと…これはいったい、どういう状況だ……?」
「起きたか、ほら、さっさとその震えた脚で立て!!俺の魔法の練習台として役に立て!!」
「……ま…ほう?」
異世界で聴き慣れたその単語に反応しながらも、大の字にして倒れてた身体を起こそうとすると……
「!!?…イッツ……」
身体の痛む所を見ると、そこには火傷している肩があった。
「……こ、この火傷は…?」
「なんだ、俺の魔法が見えなかったのか?益々無能だなぁおい!!」
「まほう……魔法!!?」
そんな、ありえない!!!俺は現代に帰還した筈だ……魔法なんてあるはずがない!!!
現状把握するつもりが逆に、更にこんがらがってしまい、落ち着いたら考えようと、思考を一時放棄する。
「フンッ!!この俺を待たせやがって!!許さん!!」
目の前で醜たi……怒りを撒き散らす男、モルクは俺に向かって手を伸ばし、
「ーーー【火炎散乱弾】!!!」
「なっ!!!?」
そう叫びながら、モルクが放ってきたのは複数の拳大の炎の塊ーー炎系統の中級魔法【ファイヤショット】だった。
この現象を見て、自分の知ってる現代では無いとようやく理解した。
だが、幼少期から虐めてきたモルクが目の前にあることから、完璧に違う世界ではないと、
そこまでは理解してーー
「ーーーフッ」
「「「…ハァ!!?」」」
居合の構えからの下段から上段へと振り上げた手刀にて、炎の塊は二つに分かれ、俺の左右へと通り過ぎてゆく。
「……うむ、あまり変化はないな」
炎を切り裂いた掌を見つめながらボソリと呟く。
身体能力や動体神経等が異世界の時と変わらないのを確認して、
「もう終わりか?」
「ーーーハ?」
取り敢えず、ウォーミングアップついでに、とモルクを挑発する。
「おい、無能が挑発したぞ」
「てかあれなに」
「不正かなんかしたんだろ?」
「ぶち殺す!!!」
俺の反抗的な言葉に苛立ったのか、顔を真っ赤にして声を張り上げている。
「【蒼炎の散乱弾】!!!!」
周囲の酸素を捻じ込む事により、ただのファイヤショットに火力が増すーーーが
「無駄だ」
先程と同じ動きの手刀の居合により、蒼炎の塊をも斬り捨てる。
「なっ嘘だろ!!?」
「今度は……俺だな?」
異世界にて使っていた魔法の感覚を手探りで掴む。
俺は魔力を体内で循環させ身体強化を行うと、地面を強く蹴る。
一瞬でモルクの背後に回ったが、それを視認できたものは一人もいない。
「ど、どこに行きやがった!!!」
「騒ぐな煩い」
「ーーーカハ」
モルクの首元に手刀を振り下ろしてモルクの意識を奪う。
挑発してから意識を奪うまで、およそ5秒。
中級歩兵レベルのモルク相手なら、まぁ妥当か
なんにせよ、俺の勝ちだ。
「冗談だろ、モルクが負けた?」
「てか、あの無能は何をしたんだよ、何も見えなかったぞ」
「何か卑怯な手を使ったんだろ!? そうに違いない!」
俺が勝ったことが信じられないんだろう。
周囲のざわめきは、一層強くなっていた。
それを聞き流しながら、俺は思考に沈む。
さて、この後はどうするべきだろうか。
この場の事態の収拾についてではなく、力を得た俺がこの世界でどう生きていくかだ。
異世界では俺は勇者として、何をおいてもまず魔王を倒すために行動してきた。
魔王を倒し、現代に戻ったものの、何故かそこにも魔法が存在しており、この世界がどうなっているかが分かってない。
今の俺の力が、この世界でどれだけ通用するのかを確かめたい。
そんな気持ちがあるものの、取り敢えずは情報収集だ。
その後のことは、その時考えればいい。
「うしっ……どこに行こうかな?」
こうして、俺の新しい人生が始まったのだった。
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