09話
「え、なつめさんに告白されたんですか!?」
「ああ」
「ふっ、やはり私の予想通りだったな」
「だな」
ちなみにまだ返事はしていなかった。
姉は今日仕事が休みだから帰ったらするつもりでいる。
無意味に焦らしてしまったのは申し訳ないが。
「大地はどうするの?」
「受け入れるよ」
「そっかっ」
「おう。それよりおめでとう」
「えへへ、ありがとー」
わざわざ律儀に連絡してきたのがたえだ。
叶わなかったひさめもぬいも祝っていた。
大人の対応だ、俺にもそういう対応力がほしい。
今日は買い物とかもないし終わったらすぐに学校を出た。
当然のように付いてきたひさめとぬいをそのまま引き連れて家に帰る。
その後の対応は同じだ、飯作って食べてもらって送っていくだけ。
「お兄さん、早く言ってあげてくださいね」
「おう」
「今日も美味しかったです、ありがとうございました」
「サンキュ、おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
残るは買い与えたアイスをまだもしゃもしゃと食べているひさめだけ。
「ここまででいい、早く言ってやれ」
「いや、危ないだろ?」
「いい、大丈夫だ。それではな、今日もありがとう」
「あ、おう、こちらこそありがとなー」
そうだよな、早く帰って言ってやらないとならない。
で、家に帰ってきたら姉はソファで寝ていた。
突いてみても反応がない、でもまた明日と返事を伸ばすとこちらの方が気になりそうだから。
「なつめ、起きろ」
超超至近距離で久しぶりに名前を呼んでみた。
瞬間的にではなかったが起きてくれた姉、こちらを見てもの凄く驚いているのはなぜだ?
「は、早くない?」
「ふたりに早く帰って言ってやれと言われてな、いいか?」
「あ、う、うん」
「いまはあのモードで頼むわ」
「えっと……こう、だよな?」
よし、これでまだマシになった。
「なつめ、受け入れるよ」
「……大地からもしてくれよ」
「ふぅ、正直に言って女として見たことは結構あるんだ。最近、洒落た格好をしていた時なんか特にそうだな、後はいまさっきみたいな喋り方とかをしているとな」
安易に好きだと言うのは違うからそれっぽいことを口にしておく。
受け入れると口にしたのだから細かいことは言わないでほしい。
確かに考えなしかもしれない、他人に迷惑をかけていないのなら問題ないと受け入れたわけだし。
でもなにをどう言おうが、言われようが俺は受け入れたのだからそれ以下にはならないわけだ。
「大地、今日も――」
「ただいま」
「おかえり」
どうせ今日も寝るとかそういうのだから大丈夫。
おかずを温めてやって真に渡しておいた。
「ん? あ、ついに受け入れたってところか」
「ああ、それを真が邪魔してくれたことになるな」
「悪い、早く帰って飯を食いたくてな」
「冗談だよ、飯を食ってくれ」
俺は黙ったままのなつめを引き連れて部屋に戻る。
適当に寝転ばせて、俺も適当に床に寝転んだ。
「なつめって名前、可愛いよな」
「は? なに言ってんだ急に」
「あ、戻していいぞ」
「……急に変なこと言わないで」
すげえな、この使い分け。
言っていることが凄く変わるから面白い。
「まあ……嫌いな名前じゃないからね」
「俺らの名字は派手派手しいけどな」
荒尾ってなんだよ、俺らは実は荒ぶってるということなのか?
確かに少し前までのなつめはそんな感じか、口調が荒々しかったからな。
でもいまのなつめからはそんな気配微塵も伝わってこない。
あのモードであったとしてもあの時の弱々モードと酷似しているぐらいだ。
「なつめ、これからもよろしく頼む」
「こ、こっちこそ……よろしくね、大地」
手を差し出したら握ってくれた。
俺はそれを握り返して、また少しずつ返していこうと決めたのだった。