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59作品目  作者: Nora_
8/9

08話

 ひさめとぬいを送って、風呂入って、もう寝る! となった時のこと。


「おぅ……なにやってんだこいつ」


 俺のシャツだけを着てベッドで寝ている姉、なつめ。

 パンツは履いているようだから安心できる――とはならない。


「おい姉貴」

「うるさい……」


 なんで年下であるひさめやぬいの方がしっかりしているんだよ。

 こいつは一応成人している人間だぞ、さすがにここまであれなのはどうかと思う。

 部屋を間違えたのか? 服に関しては昔から似たようなものだから気にならないが。

 とりあえず風邪を引かれてもあれだからと布団をかけておいた。

 それに目のやり場に困るというのもあったのだ、さすがに姉に欲情するのは不味い。

 だが、


「ふっ、こういう格好をしていれば襲われると思ったんだがな」


 甘くするとやはり裏切られるというもの。

 むかついたから逃げられないように押さえつけておいた。

 大丈夫、布団をかけているというのもあってやばい雰囲気は一切ない。


「姉貴、俺の勘違いだったんじゃないのか?」

「……ど、どけよ」

「このまましてもいいんだぞ」

「だから……どけって」


 布団を剥いでこういうことをしたらどうなるのかを教えなければ。


「ほ、本気……か?」

「襲われたくなければいますぐ出ていけ、わかったな?」

「……わかった」


 ださい話である。

 が、どうしようもなくなりそうなぐらい時があるからやめてほしいのだ。

 俺も男だ、非モテだ、真と違って誰からも求められない人間だ。

 それでもまだなんとかなっているのは必死に抑えているから。

 でもいつかそういうものは爆発する、だからそうならないように適正な距離でいたいわけで。


「大地……」

「なんだ?」

「床で寝ていいか?」

「床ならな」


 今度はちゃんとズボンも履いているから断りはしなかった。

 さすがに服を着ている状態で刺激されたりはしない。

 どうやら俺の布団の端にくるまって寝るみたいだ。


「これぐらいでいいか?」

「ああ……大丈夫だ」

「おやすみ」

「おやすみ」


 勇気があるのか考えなしなのかわからない姉。

 普通ああいうことされそうになった後、こうして寝られないだろという話。

 これが信用というものなのか? それとも童貞だからできないと舐められているだけ?


「……さっきはごめん」

「これからはあんなことするな、我慢できなくなったら姉貴も困るだろ」

「うん……」


 昔モード、いまの男勝りな感じは強がっているだけか。

 舐められたくないという感情から作り上げられた性格。

 家でぐらいはそういうのをやめてもらった方が休まるのかね。


「姉貴、家でぐらいは昔みたいな喋り方をしたらどうだ」


 いつまで経っても返事がないから見てみたらもう夢の中のようだった。

 まあいい、したければ本人がそうするだろうからな。




「それじゃあこれで、はい、明日もよろしくお願いします」


 電話を終えたタイミングで姉貴が入ってきて横に座ってきた。

 なんだか様子がおかしい、いつもなら「いちゃいちゃすんじゃねえ」と言うところだが。


「電話の相手はたえか?」

「まあな、明日も一緒に学校に行くって約束をしたんだ」

「そうか」


 兄貴となにかがあったのかもしれない。

 この前だって意味深なこと言ってたしな、距離感を戻す、だっけか?

 そこまで姉弟らしからぬ行動をしているわけじゃなさそうだけどな。


「兄貴となにか――」


 単語が出た瞬間にビクリとはねる肩。

 ここまで隠すのが下手くそだったか? 前までは指摘されても平然と笑っていた気がしたが。


「兄貴に聞いてくるか」

「ね、寝ているからやめた方がいい」

「おいおい、もしかして殺したとか?」

「なわけないだろ! あっ、そんなことはしない……」


 当たり前だ、殺されていたら困る。

 兄弟仲は普通にいいし兄貴は優しい奴だ、まだまだ生きていてもらいたい。

 いまたえ先輩といい感じになれているのは兄貴のおかげというのもあった。

 気になるのはひさめとぬいのこと、でも中途半端な態度は取れないからどうしようもないでいる。

 そういうのを兄貴がなにかしてくれているみたいなので、やはりというか感謝しかないというか。


「つまり姉貴はさ、兄貴のことが好きだってことか?」

「……なわけないだろ、私たちは姉弟だぞ!」

「その割には姉貴――」

「言うな! そんな感情はないぞ!」


 これ以上に追求は無理か。

 部屋に戻って寝る準備をする、前に兄貴の部屋に寄る。


「まだ起きてたのか」

「兄貴こそ寝てたんじゃないのか?」

「姉貴が消えてな、リビングにでもいるのか?」

「ああ、ソファに座ってるぞ。それよりさ、なにかあったのか?」


 思ったより簡単に吐いてくれた。

 簡単に言えば、姉貴が誘い、兄貴が演技で襲い、やめてくれと言い、一緒に寝たという感じか。


「姉貴がもし好きだと言ったらどうするんだ?」

「正直に言って、常識的に考えれば有りえないことだよな」

「なるほど、大体わかった」


 さっさと部屋に戻って寝よう。


「俺はたえ先輩と上手くいくように頑張らないとな」


 ただまあ、兄貴もまた遠回りな言い方をしたよなと苦笑しかできなかった。




 あれから結局数時間待っても姉は戻ってこなかった。

 別に一緒に寝られなくちゃ死ぬというわけでもないから寝て、翌日になったら学校に行って。

 たえやひさめ、ぬいと会話をして、なんてことはない時間を過ごしていく。

 

「もしもし?」

「休憩中だから電話をかけた」

「まあそりゃそうだろうな」


 適当に静かな場所で姉と話して。

 でも、こうして電話で会話していると遠距離恋愛中のカップルみたいだなと思った。


「終わったら校門で待ってる」

「寧ろ俺の方が早く終わるだろ」

「……迎えに来てくれるってこと?」

「どうせ帰る場所は同じだし、買いたい物があったからな」

「……なら待ってるね」


 先程たえの家に泊まらせると本人から聞いたからふたりきりか。

 飯をお互いに大量に食べておけば変な雰囲気にもならなくて済むか?

 俺らは姉弟だからクリーンな感じでずっといきたいものだが。


「あ、戻ってきた」

「なにか用があったのか?」

「今日大地のご飯食べてからでもいいかな?」

「いいぞ、寧ろ食ってくれ」


 ふたりきりの時間はなるべく少ない方がいい。

 なんならそのまま真の部屋で寝てくれればいい。

 しかしそれを言ってみても駄目だった、完全にふたりきりがいいらしい。


「やらしいことするなよ?」

「しないよ、でも、告白しようと思うんだ」

「なるほど、頑張れよ」

「ありがと! うん、頑張る」


 そう考えると放課後は結構早く動かなければならないか。

 買い物に行って、買う物買って姉貴と一緒に帰ってからになるからな。

 告白前の人間はなにを食いたくなるんだ?

 そっちに割きたいだろうからあっさりしたものの方がいいだろうか。

 あっさりしたものか、茹でた豚肉をキャベツまたはレタスと一緒に食べるとかいいかもな。

 ドレッシングを変えれば複数の味を楽しめる、よしこれでいこう。

 放課後になるまでが長かったが早速実行。


「遅いよ」

「姉貴、少し急ぐぞ」

「なんで?」


 違和感はあるがたえの話をする。

 昔モードも嫌いじゃないが、別人になったみたいで気になる。

 まあいい、それについては飯を食ってもらってから考えればいい。

 今日だけのを購入すると何度も行かなければならなくなるからまとめ買い。

 鮮度の関係で数食分しか買はない姉には文句を言われてしまったが無視だ。


「速いっ」

「あんまり待たせるとあれだろ?」

「今日部活でしょっ」


 あ……なんだ、なら焦る必要はないか。

 最近は部活動もより真面目にやっているのだから当たり前の話だった。

 なのにこちらばかりが盛り上がってしまえば必ず良くないことが起きる、落ち着こう。


「真一が泊まりに行くってことはふたりきりってこと?」

「飯食った後はな、つかなんで今日は最初からそのモードなんだ?」

「大地が昔みたいな話し方をしたらどうかって言ったんだぞっ」

「いや、家でって……ま、姉貴がそうしたいならいいがな」


 やはりすぐには慣れないが、とりあえず家に帰ろう。

 家に着いたら食材たちを冷蔵庫にしまって少し待機。

 帰ってきてからでは遅いので大体30分ぐらい前から調理を始めた。


「ただいま」

「お邪魔します」


 なんと言っても簡単なもの、ちょうどそのタイミングで味噌汁とかも作り終える。

 やたらと難しそうな顔でいるたえに大丈夫だと言ったら、ぎこちなさを残しながらも笑ってくれた。

 で、ふたりともすぐに食べ終えて家から出ていったと。


「早いね」

「確かにな、もうふたりとも気が急いているんだろ」


 こっちはもうゆっくりできるからいいが。

 食器とか洗って風呂入る前に休憩タイムを設ける。


「お風呂に入ってくる」

「おーう」


 ああ、こういう時にあのベランダにいられたら最高だろうな。

 アイスを食べたり、冷たい飲み物を飲んだりしながら綺麗な光景を眺めると。

 そこに親しい人間がいてくれれば会話しながらゆっくりできるし。


「大地」

「早いな」


 あ、でももう30分も経っていた。

 風呂に入ってこよう、後は部屋でごろごろしたいから。


「はぁ……上手くいくといいな」


 恐らくたえが告白する前に真がしそうだ。

 女子に告白させるというのは情けないところではあるし。


「大地」

「今日は俺の名前好きすぎだな、どうした?」


 小さい子どもではないのだからそのまま用件を言ってほしいところではある。

 相手になにかを言われる前に遮るという形ではなくていいけどさ。


「やっぱり無理だった、捨てるの」

「なにを?」


 答えないから出るために開けたら姉がいなかった。

 いやまじでホラー展開すぎてびびったが、洗面所の扉が開いていたため一安心。

 服を着てリビングに行ってもいない、俺の部屋及び姉の部屋にもいない。

 靴を確認してもあるから家の中にはいる……はず?


「大――」

「うわぁ!?」


 いきなり外から現れたら驚くわ!

 なにしに外に行っていたんだよ、しかもサンダルとかも履かず。


「部屋に行こ」

「あ、ああ」


 元々そのつもりだったからそれは否定しても意味がない。

 部屋に戻ったら遠慮なくベッドに寝転ぶ。

 姉は入り口近くの床に直接座ってこちらを見てきた。


「で、なにを捨てられなかったって?」

「大地への気持ち」

「童貞だって煽ってくれていたのは?」

「……照れ隠し、ごめん」


 そうか、まさか本当にこうなるとは。


「本気か?」


 頷いたうえに俯くという最強の攻撃。

 なんでだ? 俺らは確かに仲良かったが紛らわしいようなことはしていないつもりだったんだが。


「ちょっと時間もらってもいいか?」

「……うん」


 無自覚にしていることもあるか。

 それでこうなってしまったのなら責任を取らなければならないのではないかということ。

 そもそも即関係ないと断ることもできたのに待たせたことが……なにをやっているんだ。


「お、おやすみ」

「は? 別にここで寝てもいいぞ?」

「えっ」

「あ……いやまあ、姉貴が選んでくれればいい、部屋がいいなら戻ってくれればいいし」


 一般的ではないことはわかっている。

 同性愛なんかよりもやばいことだとわかっている。

 昨日、真に聞かれて答えたことはつまりそういうことだ。


「な、なら……今日こそ床で寝る」

「あ……ベッドで寝たらどうだ? 俺が代わりに床で寝るから」

「い……そ、そんなことしたって評価は変わらないぞ」

「別に嫌ならいい」


 姉は再度同じことを口にしながらベッドにうつ伏せになった。

 こちらも風邪を引かないように小さい毛布をかけて対策。


「告白、上手くいったかな?」

「大丈夫だろ」


 他者のことを考えている場合かって感じだが。

 姉は告白して返事待ちという状態だ、それとも話を逸らしたかったのか?


「ふん、仮に失敗していてもこの姉が慰めてやるけどな」

「そんなこと言うな」

「あぅ……」


 保留はあっても振られるということはないだろう。

 なんならもう上手くいったうえにたえのベッドで寝っ転がっている可能性もある。


「ならさ……」

「おう」

「信じても……いいの?」


 いつの間にかこちらを見下ろしていた姉と目が合った。

 電気だって消えているというのになぜにこんなにしっかり見えてしまうのか。

 ぎこちない笑みを浮かべてこちらを見てきている姉の額を突いておく。


「いいから今日は寝ろ」

「でも……」

「大丈夫だから」


 人様に迷惑かけるわけじゃない、大事なのは俺らの気持ちだ。

 別にやることやろうとしているわけでもないのだから問題もない。


「お、おやすみ」

「ああ、おやすみ」


 とりあえずいまは寝ることを優先しよう。

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