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59作品目  作者: Nora_
2/9

02話

「大地大地!」

「今日も元気だな」


 たえはいつもこの調子だ。

 雨が降ろうと台風がこようと変わらなさそうだ。

 夏も冬も好きとか言ってしまうタイプだからおかしくはないが。


「今度は私と大地と真一くんの3人でお出かけしよ!」

「ふたりきりじゃ駄目なのか?」

「う……い、いやあ、それが理想ではあるけどさあ……」


 小泉と同じ感じか、そこまで大胆にはなれるなら苦労はないと。

 真がいいならと了承して会話終了――とはならず。


「大地もいいけどさ、真一くんって可愛くていいよね」

「か、可愛いか?」

「可愛いよ! ちゃんと敬語使ってくれるところとかもさ!」


 あー、いい奴であることは確かだからな。

 運動部に所属しているというのもあるのかもしれない。

 関係が長く続いていてもしっかりできるあたりが好印象だと。

 でもいいのか? それってなんか距離があるように感じるけどな俺は。


「あー……大地と双子だったらなあ」

「違う学年だと会う機会もな」

「そうそう!」


 つか意外とこちらのことを悪く言うわけじゃないんだな。

 俺じゃなくて真が2年生なら良かったとか平気で言いそうなのに。


「それにさ、あの小さい子――あ」

「ん? あ」


 入り口には小泉が立っていた。

 こちらが気づいたからなのか小泉が笑ったように見えた。


「気づくまでに180秒かかったぞ」

「はは、普通に声かけてくれ。それでどうした?」


 ライバルがこうして顔を見せたわけだが、たえはにこにこと笑っているだけ。

 慌てているような雰囲気は伝わってこない、純粋に小さくて可愛い程度にしか考えていないのだろう。


「出かけたいのだ」

「同じクラスなんだから誘えばいいだろ?」

「大地と出かけたいのだ」

「へえ、それはどうして?」


 色々探りたいのであれば真も誘うのがベスト。

 それをしないのはそういうつもりではないと捉えられても文句は言えないぞ。


「またあのパンを買って、いい景色が見えるところで食べたい」


 いい景色が見えるところなんてあるか?

 しかも、コンビニのパンでいいのか?

 別に馬鹿にするつもりはないが、そこは弁当を作ってとかそういう風にするべきではないだろうか。


「えっと、小泉ちゃんは大地に興味があるの?」

「恐らく真一に興味があると思う」

「え、それならなんで大地と?」

「わからない、だから一緒に過ごして確認しようとしているのだ」


 あの女子との雰囲気をすぐ近くから見て日和ったか?

 それこそまだそうと判断するのは早いと思うが。


「よし、それなら今日行こっか」

「は? お前部活は?」

「今日はお休みですー」

「小泉はいいのか?」

「ああ、大地がいいなら構わない」


 じゃあ1回金を取りに帰らなければいけないと。

 あ、でもそうするとまた姉貴に叱られることは確実だ。

 しかもたったひとつだけ食べて終わりじゃ移動した意味がないし、複数になるだろうし。

 小泉は「放課後によろしく頼む」と口にし、教室から出ていった。

 横に突っ立っていたたえは勝手に他人の席に座って「喋り方が独特だねー」と呟く。


「たえはなんで来ようとするんだ?」

「小泉ちゃんに悪さしそうだから、それに今度付き合ってもらうつもりだしね」

「ああ、真には言っておくよ、その時にはふたりきりにしてやるから任せておけ」

「えぇ!?」


 でもまあ、あいつは俺のことを知っていたんだよなと。

 悪く言う奴らもいて、そういう噂を聞いたと言っていたのにこちらを悪く言うことはなかったと。

 それこそわからないから一緒に過ごしてみて判断するしかないか。


「ほら、席戻れよ」

「うん……あっ、まだふたりきりじゃなくていいから!」

「遠慮するなよ」

「違うからー!」


 取られたらもっと後悔することになるんだから行動することはそれほど恥じゃない。

 それにふたりきりになるのが初めてというわけでもないのに大袈裟なやつだなと内心で呟いた。




「――で、ここが小泉の家か」


 確かにいい景色というか色々見渡せる場所。

 そのベランダで下を眺めながらコンビニで買ったパンを食べているのが大変シュールだ。


「なかなか移動が大変だからな、まずはお試しだ」

「女子がほいほい家を教えるんじゃねえよ」

「だからこの前は相当前のところで別れただろう?」


 ああ、でも夜とかに下を眺めていたら落ち着きそうだ。

 部屋の電気は消して、街の光だけを眺める時間なんて良くないだろうか。

 親しい人間が側にいたりしたらなおさらいい、それでずっと語るなんてこともな。


「結局教えていたら意味ないがな」

「ま、悪用する人間ではないだろうからな」

「で、いいのか? 満足できてるか?」

「そうだな……少し違うと思った」


 だろうな、なんかもっと上の方に移動するのがいいと思うんだ。

 家から眺めるそれとは違うはず、帰ることを考えたらここの方が間違いなくいいが。

 落ち着かない点は相手の家族がいまにも帰ってくるかもしれないということ。

 さすがに親なら知らない男を連れ込んでいて平静ではいられないだろうから。


「ふかふかぁ……」

「たえは満足しているようだな」

「あいつはいつもあんな感じだからな」


 景色なんかそっちのけでソファの感触を楽しんでいやがる。

 まあ、そこまでベランダが広いというわけではないから3人よりふたりの方が気楽でいい。


「たえは真一のことが好きなのだろう?」

「ああ、みたいだな」

「でも今日は迷いなく付いてきた、それはおかしく感じないか?」

「おいおい、まさか俺にも興味があるなんて言わないよな? ねえぞそんなの、小泉に興味があったんだろ、お前に気づく前にお前の話をしていたからな」


 たえはスポーツが大好きで恋愛脳で小さいのとか可愛いのが大好きな人間でもある。

 だから小泉の身長や雰囲気がそれをくすぐったのだろう、抱きしめたいとか考えているに違いない。

 

「大体、そんなこと言ったらお前もおかしいぞ、真のことが気になるならなぜ俺を家になんて招く?」

「……正直に言って、真一はあの女子のことを気に入っているからだ」

「だからって諦めるのかよ、そんな考えだったらそもそも無理だぞ」


 恋ってのはその人間に恋人ができるまで努力するしかない。

 自分がその人間の恋人になれたら嬉しいだろうし、そうじゃなかったら悲しいという単純なこと。

 頑張った結果なら実らなくてもいいなんて偽善者みたいなことを言うつもりもなかった。

 そういう嬉しさや悔しさを次へ次へと利用していくしかないのだ。

 そういうのに興味がないのなら無関心で生きればいい。

 幸い、興味を抱けることなんて世の中にはたくさんあるのだから。


「いやまあそれは自由だからいいけどよ、だからって次に移すのが早すぎないか?」

「迷惑なら迷惑だと言ってくれればいい」

「別に迷惑じゃない、でもお前は知っているんだろ?」


 俺が身の程知らずで無理やり奪おうとしたとかそういう噂が流された。

 そんなことをしたのは奴だろうが、簡単に変えてしまえるということに驚いたものだ。


「ならお前は彼氏持ちの女に言い寄ろうとしたのか?」

「するわけないだろ、あいつは元々俺の元友に興味があっただけだったんだよ」

「だろう? なのにどうして過去の話を持ち出す?」

「他人ってのは散々根拠もない話で盛り上がれるからだよ」


 俺もそうだが口先だけのやつが多いんだよ。

 言わないからとか言っておきながら平気で別の友達に話す。

 気づけば広まっていることを知らない馬鹿な人間の出来上がりだ。

 しかもやたらと拡散力が高いんだ、なんでお前が知ってるのってぐらいの範囲にまで下らない情報が届いてしまっている。


「つまり信じられないということか」

「いや、いまそれはどうでもいいんだ、簡単に諦めるなって言いたいんだよ」


 幸い真の奴はみんなと仲良くしたいって言っているんだから。

 勝手にいま退いてしまったらもったいないだけ。

 後に辛い思いをしたくないということならもう相手の名前なんて出さなければいい。

 そうすれば余計なことだって言わねえよ、本人が望んでいるならってしか周りは動けない。

 なのに中途半端な態度だから気になるんだ、そう言われるのは自分にも責任があるのだと理解しておいた方がいいぞまじで。


「たえの応援はしてあげなくていいのか?」

「別にお前だけを贔屓するわけじゃない、気になるなら、好きなら頑張れって言うよ」


 ただまあ、いいやつだから可能性は高いとは考えているが。

 いやでも、たえもなんか大人しくなったからそれはそれで上手くいってほしい気がする。

 優柔不断は俺か、その先で自分が傷つくことがないからって勝手言ってるんだな。


「取られた時はどうだったのだ?」

「ぶっちゃけ、まじでショックだったな。引きこもりになろうと思ったぐらいだ、その後の悪口もセットだったからな」


 ちなみに姉貴は人間関係が上手くいかなくて正社員ではなくなっている。

 いまは近くのスーパーで働いている、パートとかアルバイトってくくりで。

 夕方頃に家にいられるのはそういうこと。

 だからそこまで気張ってくれなくてもいい、もっと頼ってくれればいい。

 部活をやっている真と比べて帰宅部の俺は暇なんだからな。


「ま、下らないことを気にしていないで頑張れ」

「ふむ、つまり大地は真一と付き合ってほしいと考えているのだな?」

「気になっているならな、お前はいいやつだからさ」


 俺はごろごろしているたえを無理やりソファから立ち上がらせる。


「帰るぞ」

「あ、話は終わったの? それじゃあ名残惜しいけどしょうがないね」

「じゃあな」

「ああ、気をつけてくれ」


 地上に下りたらなんだかほっとした。

 なんだろうな、俺は上から見下ろせるような人間ではないからかもしれない。


「もう、ひさめちゃんばっかり応援して」

「お前がだらだらしているからだろ」

「だってあのソファが柔らかかったんだもん」


 恋と違ってすぐにその感触に触れられるからか。

 目先の物に飛びつきたくなる気持ちはわかる。

 それで告白して付き合った結果があれだったわけだが、笑えねえ。


「大地はひさめちゃん推しなんだ」

「いいやつだからな」

「私は?」

「面倒くさい絡みをしてこなければ普通のやつだな、明るいのはいいところだ」


 なにより男友達っぽく対応できるのがいい。

 さすがに下ネタを振ったりはしないが。


「あ、真一くんのお兄さんじゃないですか」

「おう」


 同じ学校に通っているとこうなるよなと。

 活動範囲が似ているものだから遭遇してしまう。

 たえにとっては気になるところだろうな、実際のその目で仲良くしているのを見ているわけだし。


「ちなみに、もうたえ先輩とはお友達ですから」

「お、おう……なんでそれを俺に言う?」

「私たちはライバルですからねー」


 だからなんでそれを俺に言う?

 またにこにこ笑顔で対応しているだけだし、たえも相当甘い。


「真一くんはもう家ですか?」

「って、一緒にいたんじゃないのか?」

「ずっと一緒にはいられませんよ、あまり出しゃばりたくもないですから」


 臆しているわけではなく3人とも真のことを考えて動いているということか、だったら余計なことを言うのはやめようと決めた。


「お兄さんはひさめちゃんと真一くんが付き合ってほしいそうですね」

「別にそんなことはない、ちゃんと真のことを考えられる人間なら誰でもいい」

「仮に選ばれなくても私は悪く言ったりはしませんよ、みんながみんなそうだとは偏見を持たないでくださいね」


 下の学年の人間に筒抜けすぎないか? もっと自分の影響力を考えろよあいつら……。

 いや、単純に興味がある話題だったのか、自分は関係ないからと好きに言いふらす。

 ぶっちゃけ俺が偉そうに頑張れとか言うのも似たような行為だから気をつけなければならない。


「たえ先輩、私は真一くんのことが好きです」

「うん、私も好きだよ」

「だから正々堂々と戦いましょう、それはひさめちゃんも一緒ですが」

「そうだね、常識的にね」

「はい」


 3人どころじゃないんだろうな。

 真は確かにいい奴ではあるがどこをそんなに気に入っているんだろうか。

 やはり顔がいいから? 多少面倒くさがりなところがあっても許容できてしまうと。


「それではこっちなので」

「うん、気をつけてねー」


 相手がライバルでも笑顔で接することができるのは女子特有の強さだろうか。

 それは名前も知らないあの女子も同じこと。


「たえ、お前ってすごいな」

「え、なんで?」

「いや、笑ってるからさ」

「だって喧嘩なんかしたくないじゃん、どうせなら楽しくお話ししたいし」


 その割には俺、結構ぼろくそに言われたのだが……。

 ま、まあ、確かに常時喧嘩みたいになってしまうよりかはいいなと判断して片付けておいた。 

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