吸血鬼・特異体質
―――『吸血鬼』。
それは血を吸い、生きながらえる化け物。様々な民話に姿を現す、謎の生命体。
ファンタジーの産物だと思われているが、僕は違うと確信している。なぜならば、僕の父は吸血鬼に殺されたからだ。詳細は省く、今は考えたくもないことだ。
ルカさんの言葉に、一触即発の空気が流れる。
「そうだとしたら。」
道人が口を開く、彼の柔らかい声音は、時に人を迷宮へと追いやる。
「俺は殺すよ。それが俺の役目だから。」
「ふぅ、かっこいー。」
ミイラ男は茶化す。道人は睨み返す。
「でも、調べてみる価値はありませんか?どうやら、連続殺人のようですし。」
「聞きました…ってそういう。」
「ふふ…、ルカ、情報は高いんですよ。現場はここから十五分ほど歩いた場所の駅のようですし。」
蠱惑的に笑い、蜂蜜色の瞳をとろけさせる。暗に「行きましょう。」と滲ませている。
「僕も気になるし、行きたいな。」
「ほんとにお前らっていやなやつ。」
ルカさんは若者三人には勝てないらしい。
外は雨が降っている。いやな雨だ。雨粒が、僕の顔を濡らす。
フラッシュバック。
雨、血、懐中電灯、死体、吸血鬼。
僕と道人は所謂吸血鬼ハンターというやつでペアで活動している。リオと出会ったのはハンターとしての仕事を失敗してしまったから。
そう、ちょうどその日にも雨が降っていた。
ルカさんの車で行けば早いもので、古書堂から五分と経たずに現場に着いた。
近くの駐車場に駐車して、それぞれが傘をさして、外へと出る。相合傘なんて夢のまた夢だ。駅の近くに野次馬は既にいないものの、パトカーが駐車しており、制服警官や鑑識と思われる人物らが忙しなく働いている。もし、僕たちが話しかけようものならにらまれて十秒もかまってはくれないだろう。暗雲が空を覆っている。
残念ながら僕らには警察にコネがあるわけではない、普通ならば来ても無駄足なのだが。
「死亡したのは、鈴村茜さん。高校二年生で、学校から帰る途中でかどわかされたようですね。その後、殺害。生前に瀉血した痕があるようですね。死因は出血多量によるショック死。」
「瀉血、ねぇ。」
道人は声音に憎悪を滲ませる。ぞくりとした悪寒が背中を走る。瀉血とは医療行為として血液を人体から抜く行為である。一連の殺人事件の特徴の一つである。
「抑えろ、公共の場だぞ。」
ルカさんが傘をさしていないほうの手で、道人のストールを引っ張る。ミイラ男が男子大学生と絡んでいるのだから、目に付くらしい。通行人の好奇の目がこちらを向いている。リオは憎そうに形の良い唇をぎゅっと結んでいた。それは彼女がこの事件が『吸血鬼』の仕業であると確信しているからだろう。
僕らは普通の人間ではない。それぞれが特異体質である。例えば、リオ。彼女は異常なほど耳が良い。それは血液の循環音で、感情を聞き分けることができるほどだ。彼女が言葉にした情報はすべて警官同士の情報共有の賜物である。
次に道人、彼は『声』で人を支配することができるのだ。耐性が無ければ、彼に命令されるがままになるだろう。
ルカさんは、知らない。しかし、何かしらの特異体質ではるようだ。明かしてはくれないけれど。
そういう僕は―――。
「あ。」
「どったの。」
「今、警察の人たちが遺体の写真を持ってたけど、右腕に瀉血された痕と、首に二つ穴が開いてるみたい。」
「アウト。上出来。」
道人が僕を指さして言う。僕は生まれつき眼が良かった。数十メートル離れた、ほんの数ミリしかない証拠写真を見ることができる。動体視力も、視力も良いのだ。
「断定できたなら帰るぞ。」
ルカさんはさっさと自分の車へと向かってしまった。リオもそれについてゆく。この二人は、以前からの知り合いらしく、マイペースなところが似ていた。
僕と道人は顔を見合わせる。僕たちのやることは一つなのだから。