古書ナンセンス堂へようこそ2
僕の名前は月坂芳雄、一般的には男子高校生だと分類される。留年だってしてないし、真面目に学校に行っている。今年度の三月には卒業予定だ。
「お前たちは飽きもせずにこんなところによく集まれるな。」
ルカさんは、レジカウンター前を占拠している若者たちに物申したいらしい。翡翠の瞳がねっとりとこちらをにらみつけている。上手から僕、リオ、道人の順で座っている。
「ふふ、ルカの人徳が人を呼んでるのですよ。」
「万年、閑古鳥を飼ってるけどな。」
「それはそれは。」
リオさんは楽しそうに微笑み、ルカさんと会話を続ける。僕たちの日常だ。大体はルカさんとリオが話すか、僕と道人が話すかのどちらかである。
「ねー、そういえばさ。」
「何?道人。」
「芳雄の学校、殺人があったらしいね。」
「あー。」
彼はスマホの画面をこちらに向ける。そこには、大々的に『女子高生死亡!』だったり、『女子高生死亡、事件性あり!』なんて、みんなが飛びつきそうなキーワードがてんこ盛りだ。
「それ、私も聞きました。大丈夫ですか?」
「噂が広まるの早いなぁ。」
余談だが、道人が通っている大学は附属の高校を持っていて、そこに通学しているのがリオである。僕の学校はそこから車で二十分ほどの場所にあった。
「おかげで朝から暑い体育館の中で注意喚起されたよ。帰るのも少し早くなったし。」
話を聞いた二人の顔は、でしょうね。という表情を隠せていない。リオに至っては、蜂蜜色の瞳に翳りを見せていた。
「気を付けてくださいね。」
絶世の美女が心配そうにこちらを見つめている。僕はこれでもかというくらいぶんぶんと首を振った。
「吸血鬼の仕業かもな」
ルカさんの声がかび臭い古書堂で反響した。一斉に静まる。
冗談ではない、彼は冗談を言うような人物ではない。つまり、本当にそう思っているのだ。
僕たちはそれが分かっていて、笑い飛ばせずにいる。『吸血鬼』という単語は、此処にいる全員がファンタジーの化け物ではなく、現実に存在する化け物だと認識しているからだ。