追放されたのは誰のせい?
酔っ払って書き殴りました
「ロドリゲス、お前との縁は今日限りでおしまいだ」
四人組冒険者パーティ『虹色ボンバー』のリーダー、ドメスティスの宣告。
「そんな……! どうして! 幼い頃から一緒にいたのに……僕だって役に立ってきたじゃないか!」
「役に立ったァ? どの口がほざいてんのよ」魔法使いフリョコが睨む。
「剣士のドメスが傷付けばポーションを投擲したし、フリョコが魔力切れを起こせば、魔力供給魔法で僕の魔力を分け与えた……僕は僕の仕事を精一杯こなしていたじゃないか!」
「ふざけんな! そもそもポーションは投げるもんじゃねぇんだよ! コルクを抜いて飲むもんなんだよ! 飲み物を粗末にするなってママに教わらなかったのか!? オォン!?」
ドメスは白目を剥きながらロドリゲスに食いかかる。めっちゃキモい。
「そーよそーよ! 魔力供給だってそんな未知の魔法使われたって困るのよ! 知らない魔法を受けたアタシに悪影響が及んだらどうするつもりなのよ! 例えば肌が荒れるとか!」
そもそも元々綺麗ではないだろう、その肌は。誰もツッコまないのか?
「「なぁ、カゲオはどう思う!?」」
おっと、ここで俺に振られるのか。困ったな、全力で気配を殺していたのに。
うぅんしかし。
俺には不自然でしかないんだよな、現状が。
近頃多くのA級冒険者パーティが壊滅している。
理由はパーティにとって重要なメンバーの追放だ。
追放された者が有用だと判明するのは、パーティが崩壊する直前だというのはお約束。
強者を失ったパーティは骨を無くした人間みたいにブヨブヨ崩れ去っていく。
くたばるパーティを見下し、追放された者は必ず叫ぶのだ。
「ザマァ!」と。
「俺は、そうだな。ウナギは美味しいと思うぜ」
「「やっぱりそうだよな!」」
「え!? どういう事!?」
ふむ、正気なのは追放されるロドリゲスただ一人か。
ドメスとフリョコは俺が何を言ってもロドリゲスを追放する事に賛成だと受け取るのだ。
「ほらよ、ロドリ下衆。カゲオもあぁ言ってんだし、とっとと失せろよ」
「カゲオくんはウナギの話をしてたよ!?」
「うるさいのよ下衆! とっとと糞便撒き散らしながら死んでくれる!?」
そりゃないだろ……ここ、ギルドだぜ? 掃除すんの誰だと思ってんだよ。
とにかく、ロドリゲスは悲しそうに去って行ったよ。
あぁ可哀想に。幼馴染パーティを追放されたあいつの気持ち、俺にはわからないけどなんとなく可哀想だ。
「ねぇドメス。役立たずが消えた事だし、みんなで飲みに行かない?」
「いいじゃねぇか。カゲオももちろん来るだろ?」
うぅん。他のパーティと同じ未来を辿るとしたら、俺はここにいたら底辺に成り下がるんだよな。
「いや、俺はお腹壊したから、暴れ出した獣達の濁流を流してくるよ。つまりこれから数年間トイレに籠るから、二人で楽しんで来てくれ」
「おう、わかった。お大事にな」
いやわけわかんねぇよ……まあいいや。こいつらの頭が悪くなってる内にロドリゲップの所にでも行くとしよう。
「お邪魔しまーす」
「うわ! ノックもしないで入ってこないでよ! ていうか鍵かけてなかった!? あぁもうこれだから盗賊は嫌なんだよ!」
宿屋“キャベツモリモリ亭”の一室にて、俺は着替え中のロドリゲスと遭遇した。これが一糸纏わぬ姿ってやつか。
「くっ! こんなところにいたか魔王! この破廉恥大魔王め! ここで成敗してやる! アイスエイジ!」
「嘘でしょ!? なんで盗賊が上級氷魔法使えるの!? 寒い、寒いよ! やめてよ頭おかしいんじゃない!?」
おふざけはこの辺にして、俺は本題に入る。
「やはりドメスティスとフリョコは頭がおかしくなっている」
「君が言う!?」
俺はもう一度アイスエイジを唱えて、ロドリゲスの首から下を凍りつかせてから言った。
「つまりだ。近頃冒険者ギルドを騒がせている“幼馴染パーティ崩壊事件”が、うちのパーティ、虹色ボンバーでも起きようとしている」
「ていうかもう起きたよね。終わったよ。因みに魔法を解いてくれないと僕の命も終わりそうだよ」
俺は氷魔法を解いて獄炎魔法を唱えた。消えぬ炎だ。
「熱い……いや、もういいんだ。君の頭のおかしさを、僕はずっと昔から知っていた。だからもう何も言わないよ」
ロドリゲスは炎に包まれながらも苦しむ様子はない。
「さすが支援魔術師ロドリゲスだ。魔王をも苦しめる俺の獄炎を、汗を流すだけで耐えるとは。熱耐性魔法にそこまでの効果があるなんて、世界では認められていないぞ?」
「もう君が勇者になればいいのに……」
ロドリゲスは呟いた後に言った。
「褒めてくれるのは嬉しいけど、僕は虹色ボンバーで過ごしてる内に、自分は大した事無いんじゃないかって思ってしまっていたんだ。だから追放されても僕のせいだと思ったし……それに、一体どうすれば僕の努力を認めてもらえるって言うんだ……」
「努力か。才能より努力を誇るとは良い心がけだ。さすがオクトパスだな」
「ロドリゲスだよ」
一つ咳払いをした後、俺は鼻をほじった。
「なんで!? どうして鼻をほじるの!?」
「つまりな、ハナクソゲス」
ロドリゲスは凄く顔を顰めた。
「何者かがこの状況を作り出して楽しんでるんだ」
「そんな……!」
裸の大将は悔しそうに拳を握った。
「一体誰がそんな事を! 自らの愉悦の為に他者の不幸を願うなんて、何様のつもりだ!?」
「知らね。魔王じゃね?」
「急に投げやり!?」
「それでな、他のパーティと同じ運命を歩むとすると、お前は美少女にスカウトされてハッピーエンドなわけだが――」
「やったね! 僕の人生不運ばかりじゃないみたいだ!」
「――しかしそれは俺が許さん」
「なんで!?」
「そういうわけだから、お前は明日から俺と二人で魔王討伐に向かう」
「……」
「心配するな、死んでも骨も残らない」
「君との意思疎通は諦めるよ」
かくして、虹色ボンバーを追放されたロドリゲスと、虹色ボンバーをトイレに行く為に休止中のカゲオは魔王討伐に向かう事となった。
「ふっふっふ。魔王よ、よく来たな。」
「いや、来たのはお主じゃからな?」
「うるせぇ! カゲオパンチ!」
「……ねぇカゲオくん、魔王が既に瀕死状態な件について」
荘厳な魔王城にて、魔王レインボーを引き摺り下ろした俺様カゲオ様は、その玉座に座って問い掛ける。
「なぁレインボーよ。人間の間では、近頃追放が流行っているんだ。幼い頃から仲良しこよしで、今まで順風満帆だったパーティが、一人を追放した事によって崩壊の一途を辿る、そんな悲劇がな」
レインボーは顔を歪ませた後に叫んだ。
「知らん! 知らんぞワシは! そもそもそんなの……」
俺は魔王の舌を切り落としてから続けた。
「うわ……どっちが魔王だっけ」
ロドリゲスの言葉は聞こえない。
「おかしいと思わないか? ずっと一緒にいた幼馴染の能力を、見誤るなんて。いくら目立たない役割――例えば支援だとしても、そいつのお陰でパーティが救われる事なんて何度もあるはずだし、救われた張本人だって理解している筈だ。それなのに、追放しようとする奴らは、自分の都合の良い事しか見ないで判断を下す。目隠しプレイじゃあるまいし、もっと客観的にメンバーを見るべきなのに……冒険者の間ではそんなくだらない追放が当たり前になっている……」
俺は立ち上がり魔王を見下ろす。
「なぁ魔王レインボーよ」
「……?」
舌を切り落とされた魔王は喋ることができない。
「冒険者達にわけわからん精神汚染魔法をかけたのはお前だな?」
レインボーは音がなるほど激しく首を振る。
俺はかかと落としで魔王の顎を床に埋めつけてやった。これで首を振る事は出来ない。というか、今ので首肯と見て良いだろう。
「そうか、やはりお前だったか。死んで罪を償え……アバ◯ケ……ダブラァァァア!」
そして世界には平和が訪れた。
魔王の影響による不作は解消されたし、辺境の村から生贄として若者が殺される事もなくなった。
ただ一つ、変わらない事があるとすれば。
「おいキャベツソース! お前は今日限りでうちのパーティを追放だ!」
今まで上手く行っていたパーティが追放によって崩壊していく運命である。
「カゲオくん、魔王のせいじゃなかったね」
「なんでもかんでも魔王のせいにするなよアホブスゲス」
「えぇ……」
ギルドで頻繁に見られる、追放の場面だ。
これに関しては、魔王に一切の罪は無かった。
では何者の犯行なのだろうか。
それは俺様カゲオ様にも分からなければ、鼻くそロドリゲスにもわからない、迷宮入りの事件となった。
因みに“虹色ボンバー”は無事崩壊しましたとさ。理由はパーティメンバーがトイレから戻ってこなかったからでした。
めでたしめでたし。
鼻をほじるのと同じくらい自然にポイントをくれたら世界が平和になります。ご協力よろしくお願いしま