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ルーナーズシリーズ

チート能力のせいで自分が小説のキャラクターだと知ってしまったので地の文ちゃんとイチャイチャします!

作者: 魂夢

こんばんは魂夢です。


初の短編ですが、シリーズ物の最初なんでこのあと一応続きあります。

 人生何が起こるかって意外にわからないものなんだと、僕は痛感した。


 だって本当にあると思わないじゃん、異世界に行ってチートを貰うなんてさ。

 もし、これを読んでる読者達の中で一人でも異世界経験者がいるなら、ぜひ魂夢のツイッターのDMに来て欲しいくらいだ。


 ……なんだよ。僕が読者達に話しかけるのが変だって? あらすじ見てこなかったの?


 まぁいいよ、今からその辺について説明というか、回想シーン入るからさ。

 きっと気に入ると思うよ。なんてったって異世界転生ものだからね。

 なろう小説なんだし、みんな異世界転生好きだろ? 最近のなろう小説はなんでもかんでも異世界転生させるしさ。

 やばいな、そろそろ読者達の怒りを買いそうだ。


 まぁとりあえず、回想を始めようか。



 とある夏の暑い日の昼過ぎのことだった。独り暮らしの高校生である破壁 士郎(はかべ しろう)はスーパーに買い物をしに家を出た。


 昨日の冷凍食品を食べたせいで無くなってしまった冷蔵庫の中身と、ちょうど汚れてきていた〈便座カバー〉を買いに行きたかったのだ。


「くそあちぃ……」


 破壁はボソリと呟く。暑いのが少々苦手な彼にとって、三十五度を超えた今の気温は天敵だった。


 ふと、破壁は暑さを凌ぐためにバスに乗り込もうと考える。少し金はかかるが、それでもこの暑い中を歩くよりはよっぽどマシだと思ったのだ。


 近くのバスに乗り込んで、手頃な座席に腰を下ろし、頬杖をついて窓を見ている破壁。


 バスが停車してドアが開くと、プシューという空気の音が彼の耳に入り込んでくる。だが彼の耳に飛び込んできたのは空気の音だけではなかった。


 耳をつんざくような銃弾の音が破壁の耳を襲い、彼は思わず両耳を手で塞ぐ。


「お前良く聞け。今からこのバスは俺たちがジャックする」


 そう言って乗り込んできた数人の男は、その手に握られた銃で乗客と運転手を脅した。


 悲鳴をあげまいと声を殺す女性や、恐怖に顔を歪める青年、あまりの異常事態に現状を理解しきれていない子ども。


 バスの中は一瞬にしてパニックになるも、殺されるかも知れないという恐怖が、乗客を沈める。


 そんな中、破壁は一人慌てふためいていた。彼はバレないように警察に通報しようとしえいるのだが、スマホの動作があまりにも重く、電話番号を押している途中に通話アプリが落ちてしまうからだ。


 この時ばかりは、調子に乗ってゲームを入れすぎた過去の自分を呪った。


「おい、何をしている」


 ハイジャック犯の一人が破壁を怒鳴りつけ、バッとスマホを取り上げる。


「え、あぁ。いや別に何も」


 何もしていないと破壁は口にするが、その言葉は男には届かず、彼は腕を捕まれて前に連れ出された。


「見せしめだ。ここで殺す」


 カチャリ、嫌な音がして、頭に銃を突き付けられる。

 破壁は冷や汗やら脂汗やら体中の穴という穴から汁を垂れ流し、神に許しを請うた。


 ちなみに、宗教に関して疎かった破壁は、キリストや釈迦を神だと思って請う相手を間違えてしまっていたのは、また別のお話。


「ま、待ってくれ。殺さな──」


 言い終えるよりも先に、男は銃の引き金を引いた。ズドンという分厚い音がバスの中に響き、血が宙を舞い、ドサリと破壁の遺体が床に伏す。


 こうして、破壁は銃殺されてしまったのだった。



「…………おい待て、ちょっと待てよ地の文ちゃん。君が淡々と僕の死に際を語ってくれたのは良いけど、少しくらい脚色を加えてくれたっていいんじゃないか?」


 窓から入る光が閉じたブラインドに遮られ薄暗くなっている部屋の中に彼はいた。そこは破壁自身が経営するなんでも屋の事務所である。


 その部屋の中で、死後異世界にチートを持って転生し、さらにチートの影響で精神が狂って、地の文である私と会話できるようになった破壁が私に訊いてくる。


 さて、脚色を加えてくれとのことでしたが、私は事実を語るだけですので。


「わかるよ、わかる。でもな地の文ちゃん。これは小説だ。小説ってのは娯楽なんだから、噓だろうと偽りだろうと誰からも責められないんだよ」


 地の文は肉体を持たないが故、彼は私と会話をしながらも端から見れば独り言を呟いているように見えただろう。

 破壁は銃の引き金に手をかけクルクルと回すガンアクションをしながら私に話す。


 まぁでも確かに噓でも構いませんね。


「わかるだろ? ならさ、そーだな……。僕がハイジャック犯を倒してその後に小石に躓いて死んだってことにするのは?」


 片方の眉毛をつり上げ、そして首を傾げて彼は言った。


 ……ハイジャック犯に殺されるより小石に殺されるのを選ぶのですか?


「そーじゃないんだよ。男心ってのをわかってない。英雄は儚く死ぬんだよ」


 儚く、というよりはあっけなくでは?


「あーもうわかった! わかったから! なんでもいいからさっさと僕の脚本に書き換えろ! なんなら魂夢を脅して書かせろ!」


 ブンブンと頭を振り、駄々っ子のようになりながら彼は声を荒げる。


 はいはい、わかりましたよ……。では、もう一度最初からやり直します。



 ある日破壁 士郎と言う男の乗ったバスは偶然にも、ジャックされてしまった。


 しかし彼は勇敢だった。銃を握った屈強で恐ろしい男たちを次々になぎ倒し、ハイジャック犯を拘束したのだ。


 ありがとう! すごい! 愛してる! 死ね! 破壁は乗客から感謝され。機嫌が良くなった。どのくらい気分が良くなったかと言えば、バスを降りた後も軽くステップを踏むほどだ。


 だが彼の歩く道には恐怖の小石と呼ばれる悪名高い小石があった。

 その小石に足を取られ、転んだ破壁はそのまま頭を地面に酷く打ち付け、死んでしまった……。



 これでどうでしょう。


 私が言うと、破壁はわかりやすく眉をひそめた。


「えぇ……。もうちょっとかっこよく語れないの? てゆうか雑じゃない?」


 私にはもう限界です。かっこよさについては私ではなく、魂夢の文章力に言ってください。


「そーだな。あいつはツイッターでイキってるだけ、小説家としては大したことない」


 そーですそーです。まぁとりあえず、先に進めますよ?



 破壁が自らが死んでしまったことを自覚したのは、その直後だった。


 意識だけが戻ってきて、彼はまず視界を確認した。真っ暗闇の空間の中で、右を見て左を見て、そして己の手を見ようとする。


 だが、手はどうやっても見えない。そしてどうやらそもそも肉体が無いことに気付いた。


「おお……哀れな男よ」


 高めの声を無理矢理下げたような、小さな女の子が無理に低い声を出しているような声が破壁に聞こえ、一瞬当たりを探す。


 どうやら目の前にいた黄色く光る丸い球が、声を出したことに彼は気付く。その明かりは大きく何故かとても崇高に思える。


「何があったか、覚えているかね? …………そうか覚えているか。なら話は早い、君には異世界に転生して欲しいのだ」


 言われて、破壁は心の中で首を傾げて、声を出した。


「えーっと……、なろう小説の異世界転生的な?」

「そうそう! それ!」


 気を抜いた神様がかわいらしい声を出す。直後に地声で話したことに気付き、咳払いをして再び低い声でそして、と続ける。


「わかってると思うが、チートを授けたいと思う」


 はぁい、破壁はてきとうに返事をした。彼は今如何にしてチーレム生活をしようかという妄想に浸っていたのだ。

 もらえるチートはきっと最強系、なら女の子がポンポン惚れていってウ ハ ウ ハ。破壁の心の中で頬が緩んだ。


「チートは……ギャグだ」

「は?」


 出てくるはずの無い単語に思わず声が漏れる。


「まぁ能力としては悪くない。カートゥーン系のアニメみたいに目か飛び出たり、ペチャンコになっても膨らむし、足をグルグルさせながらマッハで移動できるし」

「は?」


 相変わらず意味がわからない。ギャグチートがあっても女の子とイチャイチャできる気がしない。あ、でもジムキャリーのマスクでも最後には女の子と結ばれていたしな……。


 グルグルとよくわからないことを考える破壁の沈黙を肯定と受け取った神様は、彼を転生させる準備に取りかかる。


「いやまて、せめてもっと良いチートを────」

「いってらっしゃいませ!」


 光の球が消え、暗闇に取り残される破壁。心の中でオドオドしていると、徐々に体が形成されていく。


 体が完全に出来上がって、パチリと瞬きをすると、もうそこは異世界であった……。



 パチパチと乾いた音が響く。音の正体は破壁の拍手だ。


「いま考えてもあの神様自分勝手だよな……」


 私もそう思います。


 私が言うと、彼はハハハと乾いた笑いを漏らした。まぁ、状況を完全に理解するよりも前に転生させられましたからね。


「俺の味方は君だけだよ地の文ちゃん」


 ちなみに、チートを得たときに、彼の精神は狂ってしまっていた。


「狂ってねぇよ?」


 彼がこの世界に転生してすぐに気付いたことは、自らの動き全てを私が言葉に変換していることだった。そこから、自身が小説のキャラクターであるということを理解したのだ。


 でもそれは、彼の精神が壊れたことによることはわかっているが、それ以外については原因不明。未だ謎が残っている。


「謎なのかよ。俺には謎じゃないけどな、逆に他の奴がなんで気付いてないかまったくわか──」


 コンコン、入り口のドアがノックされて、破壁はどうぞーっと返した。

 ガチャリとドアが開けられ、入ってきたのは黒のロングコートに身を包んだ男である。


「なんでも屋シローにようこそ。トイレ掃除から殺しまでなんでもやるぜ」


 破壁はあらかじめ決めていた定型文を早口で言う。すると男は破壁座る机まで寄っていき、バンと新聞を机に叩きつけた。


「この狂人(マッドマン)とはお前のことだな?」

「マッドマン? 誰のことだよ」


 言いながら破壁は新聞を手に取り軽く読む。内容は過去に依頼されたことについてのようだ。

 前回彼は町に現れた〈巨大生物〉の討伐を依頼され、それを討伐したのたが、その時について取り上げられた記事である。


「いやあれどっちかって言えば巨大植物だろ。んでもって〈花言葉〉はクソブスとかそんなん」


 私に対して言葉を返したのだが、地の文が聞こえない男は眉をひそめ破壁がなぜマッドマンと呼ばれるかを悟った。


 余談ではあるが、破壁が倒した巨大生物は生物でありながら花を模した形をしていた。余談終了。


「で、なんのよう?」

「手を貸してくれ」


 言われて手を差し出すと、チクリと痛みが走る。その痛みは注射で指されたときの痛みに似ていた。


 少量の抜き取った血を石版に垂らすと、石版は《ギャグチート》と表示し、ギャグチートの能力を示す。


「ギャグチート?」

「悪いかよ!?」


 男はフッと笑い、タバコを取り出した。


「おいここは映画館と同じで禁煙だぞ。携帯の電源はオフ、上映中はお静かに、撮影禁止。あとどんなに足が長くても、前の席は蹴らない!!」


 大声でそう叫ぶ破壁に白い目を向けながら、男はタバコに火を付ける。


「エイガカンが何なのかはよくわからないが、とりあえずお前は我々の求める人間では無さそうだな」


 言って、男は破壁に背を向けた。


「何言ってんの?」

「チート能力を持つのはお前だけだと思ってるのか? お前は大きな世界の一員になったに過ぎんのだ」


 そう言い残し、男はなんでも屋を後にして、破壁だけがこの場に残される。

 ……正確に言うなら私と破壁が。


「なぁ、チート能力って俺以外にもいんの?」


 まだいません。


「まだ、ねぇ」


 そう言って、彼は銃を懐にしまった。そして椅子から立ち上がってくぅーっと伸びをする。


「……あの噂、本当だったのか」


 彼の言う噂とは、邪悪な神を信仰する邪神教の動きが活発化してきているのに対抗するため、とある宗教団体が凄まじい力を持った者達を召喚しようとしているという噂だ。


 その話は都市伝説だと思っていたが、さっきの男がきっとなにか企んでいるんだろう、破壁はそう考える。


 その数日後、凄まじいチート能力を持った者を集めチームを結成する、通称ルーナーズ計画が進行中であることを、彼は知るのだった…………。


「いや、地の文ちゃんが言うから今知っちゃったんだけど……」

今書いてる作品が終わったらルーナーズのお話書きます!

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