3倍返しのホワイトデー
この短編は投稿済の作品「ちょこっと甘いバレンタイン」とリンクしてます。
まず、そちらの作品を読んでから本編を読む事をお勧めします。
バレンタインに委員長からチョコを貰ったオレは困惑していた。
あのチョコレートは果たして本命だったのか?それとも義理だったのか?
くれたのは安物のひと口チョコだ。
それだけを見れば義理なのは間違いない。けど、彼女はそのアルファベットチョコを並べ『LOVE』と、隠れてメッセージを送ってきたのだ。
(本命・・・・・・なのか?)
チョコレートの袋からランダムに取り出して偶然L・O・V・Eの文字が作られる確率は極めて低いだろう。それにあの時オレは見た。委員長が袋の中ではなくカバンからチョコを取り出していたのを。彼女はあらかじめその4文字のチョコを別にして用意していたのだ。
(いや。ただ、からかわれただけなんじゃないのか・・・・・・)
そう思えなくもない。
しかし、委員長はわざわざそんな用意までして人をからかうような事をする性格ではないのを、中学からの付き合いであるオレは知っている。クラスの委員長を務めるだけあって、彼女は真面目な子だ。
(やっぱり・・・・・・本命?)
あの委員長がオレの事を??
(そんな事ある訳・・・・・・)
彼女に聞く勇気など無く、このひと月足らずの間ずっと答えの出ない問答を頭の中で繰り返している。
(あーっ!モヤモヤする!)
彼女の事を考えると落ち着かない。そんな内心を委員長に悟られないよう学校では平静を装ってはいるが、どうしても彼女の事を目で追ってしまう。
向こうは気付いているのか、目が合うとすぐに目線を外される。距離を置かれている感じだ。
そんなものだから余計に意識して、オレはどツボにハマっていた。
「なあ、お前らなんかあった?」
友達から不意に話しかけられ、その心の中を読んだかのような言葉にオレは慌てた。
「はっ!?何が?」
「委員長とだよ。いつも仲良かったのに、最近一緒に居ないし」
「オレ達が?ただ同じ中学だったからってだけで、別に仲いい訳じゃ・・・・・・」
「そうか?お前、いっつも委員長に世話焼いてもらってたじゃん」
友達からはそんな風に見えていたのか?
委員長は面倒見がいい。今もクラスの男子と気さくに話している最中だ。
オレだけが特別なんかじゃなく、彼女は誰に対しても優しく接している。その光景はいつも通りのはずなのに、最近そんな委員長の姿を見ると何だか心が締め付けられるように感じる。
(オレは委員長の事を・・・・・・)
恋愛なんて無縁だと思っていたのに、そのオレが他人の事でこんなにも頭をいっぱいにする日が来るなんて!
(とりあえず、お返しだけは渡しておいた方がいいよな、)
彼女の事をどう思っているのか?今は混乱していて結論は出ない。けど、もし、もしかして、本当に、彼女がオレの事を想ってくれているのなら、その想いに何かしらの返事をする必要がある。
ホワイトデーまでもうすぐだ。早速、何をお返しに渡すのか考え始めた。
(3倍返しって言ってたし、ちょっとしたアクセサリーなんかじゃダメかな?・・・・・・いや、いや、いや、アクセサリーなんて恋人同士じゃないんだから!)
いくら恋愛遍歴の無いオレでも、いきなりアクセサリーを送るのはやりすぎだと分かる。
(だったら小物とか?・・・・・・待てよ、下手に物として残る物を送ったら重いと思われるんじゃないのか?まだ向こうの気持ちが分からない訳だし、)
こんな経験は初めてで、何を返していいのかさっぱり見当がつかない。
(やっぱりホワイトデーなんだから無難にお菓子で返せばいいんだよな。もし、義理だった場合でも誤魔化せるし・・・・・・そういえばチョコのお返しはキャンディを渡すんだっけ?あれ?マシュマロか?)
確かめるべく、ケータイでホワイトデーのお返しを検索してみてオレは唖然とした。
『ホワイトデーのお返しを失敗しない為に知っておくべき、それぞれのお菓子の意味』
検索画面に出てきた見出しにこんな言葉が躍り、ホームページではそれぞれのお菓子の意味がズラリと並べらていた。
キャンディ「あなたが好きです」
マシュマロ「あなたが嫌いです」
クッキー「あなたは友達」
マドレーヌ「あなたともっと仲良くなりたい」
バームクーヘン「あなたとの関係が続くように」
キャラメル「あなたは一緒にいると安心する人」
など、など。
(バレンタインデーにチョコを贈る習慣なんて日本のお菓子メーカーが仕組んだ戦略じゃなかったのかよ!?いつの間にホワイトデーまでこんな意味付けされるようになっていたんだ?)
女子達は当然この意味を知っているのだろうか?
(あっぶなー!)
彼女の本心が分からないのに、キャンディかマシュマロを送っていたらとんでもない事になっていた。例え委員長が意味を知らなかったとしても、後でお菓子の意味を調べられる可能性もある。
(何を選んだらいいんだ?マドレーヌ、いや、何だか恥ずかしいし・・・・・・バーム・・・うーん、キャラメルとか?)
彼女はオレにとって何なのだろう?
(3倍返しだとあんまり安物は渡せないし・・・・・・ああっ!もう、これでいいか)
オレは悩んだ末、マカロンを送る事にした。値段的にはちょっとしたアクセサリーと変わらないくらいで買える。これなら嫌味を言われる事も無いだろう。それにしても完全にお菓子メーカの思うつぼの様な気がしてどこか納得いかない。
(だからバレンタインデーなんて嫌なんだ!)
3月14日。ホワイトデー。
ドキドキしながらこの日を迎えた。
お菓子をカバンに忍ばせ登校すると、バレンタインデーの時とは違いクラスの雰囲気はいつもと変わらなかった。
女子達はお返しなど最初から当てになどしていないのだろうか?それともカップルが成立した同士だけでこっそりプレゼントを渡しているのかもしれない。
オレは委員長が一人になる機会をうかがった。誰かがいる所で渡す勇気など無かったからだ。それにクラスメイトに変にはやし立てられでもしたら彼女も迷惑だろう。
しかし、待っていても彼女は大概誰かと一緒に居て声すらかけられない。
キーン、コーン、カーン、コーン・・・・・・
チャンスをうかがっているうちに放課後を迎えてしまった。
委員長が帰ってしまう前に呼び止めないと!
視線を彼女に向けると、向こうもチラチラとこちらを見てきて目が合う。
(やっぱり、オレの事を・・・・・・)
戸惑っているうちに、彼女の方から側にやって来て言われた。
「もう!何やってるの?アナタ先生に放課後呼ばれてたでしょ?早く行きなさいよ」
「え?・・・・・・っと、そうだっけ?」
「まったく、私が付いていてあげないと、ほんとダメなんだから」
オレは彼女に連れられ職員室へと向かった。
(なんだ・・・・・・やっぱり、オレの事は、)
しかし区切りは付けておくべきだ。せっかく用意したプレゼントなのだし、二人きりになれたこのチャンスを逃す手はない。
オレは歩きながらカバンからお菓子を取り出した。
「あのさ、コレ」
「なに?くれるの?」
「その・・・・・・この前のバレンタインのお返し、」
「そっか・・・・・・用意してくれてたんだ・・・・・・」
「一応は。ただのマカロンだけど、」
彼女は包みを受け取ると、はにかんで笑った。
「うれしい」
その笑顔を見た途端、このひと月のモヤモヤが嘘の様にスッキリした。
「ねえ・・・・・・あのチョコ、気付いてた?」
「ああ、まぁ・・・・・・」
今度は彼女が恥ずかしそうに照れ笑いする。
「私がどれだけ待ってたか分かってる?」
「丁度ひと月、」
「ちがう!今までずっと待ってたんだから。なのに全然気付いてくれないし・・・・・・」
(オレが気付いてなかっただけか)
いつも身近にいて世話を焼いてくれていたのに、それがいつの間にか当たり前になっていたらしい。今回の件で彼女の方から距離を置かれ、その事にやっと気が付いた。
「ごめん」
「もう、いいわ。でも3倍返しって言ったでしょ?ずっと待たせた分、マカロンくらいじゃ済まないんだから。これから少しづつ返してよね」
「えぇ・・・・・・」
いたづらっぽく彼女が笑う。オレだけに向けられる笑顔がいとおしい。
オレにとって委員長がどんな存在だったのかはっきりした。
マカロンの意味 『あなたは特別な人』