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行商人組合 1

 兵士達から逃れて路地に走り込んだ僕達は、最初の目的地であった金物屋のある通りには向かわずに、できるだけ人通りの少ない路地を選んで行商人組合(ギルド)に向かいました。王国軍兵士は表通りを何人かでかたまって歩いていることがほとんどでしたので、人気ひとけの少ない細くて薄暗い通りであれば兵士達に出くわす可能性があまりないと思ったからです。

 もちろん、あの3人組の兵士達に追いかけられないようにするためでもあります。ただ、群衆に囲まれたあの状態では、僕らを追いかけても恥の上塗りになるでしょうから、追いかけられている可能性はほとんどないとは思いますが……。追跡者の探知能力が突出しているガドもクヌクヌも特に変わった素振りを見せることなく、そのまま僕らと一緒に走っています。


 僕達は、人がかろうじてすれ違える程度の狭い路地、両側には共同住居アパルトマンの裏口や飲食店の勝手口などが並んでいる裏道を、時々息が切れたエリーと一緒に立ち止まり、息を整えてからまた走り出し、また立ち止まり……を繰り返しながら、目的地に近づいて行きました。

 そして、最後にもう一度、ギルドの大きな建物が面している馬車通りに出ました。ギルドの建物は北に向かって延びる緩やかな傾斜のついた馬車道を登った先、もう50ヤードもない所に入り口が見えています。


 通りに出て左右を見渡すと、人の流れに混じって、ギルドとは反対側、南の方から今度は4人組の別の兵士達の一団が先ほどの兵士と同じ黒い鎖帷子に身を包んでゆっくりとこちらに向かって登ってきます。でも、兵士達は、特段、僕達を気にしていないようです。僕はエリーの手を握って、そのまま勢いよくギルドに向かって走って行き、入り口に飛び込みました。物陰から4人組の兵士の様子をうかがうと、特に僕達を気にとめてもいないようでした。


◇◇◇


 ギルドの建物の短い廊下を進んで行き広いロビーに入ると、他の行商人達がまばらに、14、5人くらいでしょうか、姿が見えます。何人かかたまって談笑してる者達もいます。

 行商人、と言いましても、ギルドに所属しているメンバー、……僕もその一人ですが、は、世間一般のイメージで言えば、街中で物を売り歩くような普通の行商人というよりも、都市と都市、あるいは地方の街や村をつないだり、時には、エルフの里やドワーフの洞窟都市といった典型的な異種族や亜人達と人間族との間を結ぶ、貿易商や運搬業者のようなイメージに近い職業になります。

 ギルド内部は非常に結束が固く、社会の中でも実質的な権力もあり、街の領主や国王でさえも、古来よりギルド内部の自治には介入する権限がありませんし、各都市や街にあるギルド本部の建物には例え王国軍兵士であってさえも一切立ち入ることができない、といった鉄の不文律があります。

 軍事や政治は王国が中央集権に近い形で握っている一方で、経済については、各地で多業種のギルドが薄く広く分散してそれぞれが小さな権力を握っていて全体としては王国に比する力を持っている、という棲み分けが確立しているのです。

 

 ただ、ギルド内部は、結束が固いとと言っても、軍のような上下関係を主軸とした指揮命令系統が張り巡らされている訳ではありません。あくまで、独立した自営業者の集まりであって、少なくとも兵士と将官の間のような上下関係はありません。もちろん、自然な人のつながりとして、ベテランと若手、尊敬を集める長老的な者とそれをとりまく者達との関係といった意味でのゆるい上下関係はありますが、それでもどちらかがどちらかに対して命令を下す、というような関係にはないのです。


 ギルドの主な役割は、2つです。

 1つ目は、ギルドとしてまとめて仕事を請け負って、それをギルドメンバーに割り振ることです。ギルドメンバーは、ロビーの大きな掲示板に貼られている仕事の中から、自分のやりたい仕事を見つけて申請します。仕事の内容や難易度等によって、経験が浅かったり危険が大きすぎると判断されれば断られることもありますが、だいたいは申請すれば認められ、仕事が始まります。無事、その仕事をやり終えた後、ギルドから報酬をもらう訳です。冒険者が普通にギルドでクエストの依頼を取ってきて報酬をもらうのと基本的に同じ仕組みです。

 

 2つ目は、貿易用の商品などの斡旋です。行商人は、その名の通り商人ですので、自分で品物を安く仕入れて別の街などで高く売る、といったことは自由に行われています。原則として、特に、ギルドに許可をもらう必要はありません。ただ、希少品や、売主の意向でできるだけ高く売りたいので手数料を払ってでも買い主を探して欲しい、といったお客さんの側の需要があるため、それらについては、ギルドで一旦品物を管理して、ギルドメンバー同士の奪い合いで険悪な抗争にならないよう調整をしたり、一種のりのようなことをギルドメンバーの間で開催して、高く仕入れてくれる買い主を探したりします。


 また、ギルドメンバーにも大きく分けて2つのランクがあります。ランクと言っても複雑なものではなく、ギルドに加入したばかりの駆け出しについては無印のギルドメンバー証のようなものだけが与えられ、しばらく経験を積むとシルバープレートというギルド名と行商人の名前や屋号を記した銀のプレートが与えられます。


 シルバープレートがあると、各地の通行税が免除、あるいは減額されたりしますが、何より重要なことは、ギルドを通さなくても、運搬業務、通称運び屋が自由にできますので、個人的なつながりで依頼を受けることができるようになります。

 行商人としての普通の仕入れ、販売といった元々ギルドを通さなくても自由にできる仕事と、ギルドを通すことが原則の運び屋の仕事は理屈のうえで明確に分けられるものではありませんが、だいたい慣習的に、これは通常の行商、これはギルドを通す運び屋の仕事、という区別があります。僕が、ブランカ婆さんから依頼される仕事は、主に婆さんの生成したジェムをどこかに届けたり、どこかから魔道具の作成に必要な材料等を受け取ってくることですが、こういった仕事は、シルバープレートが与えられていないうちは、ギルドを通さなくては勝手に請け負うことができないのです。

 

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