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行商人組合 5

「ああ、そうなんだ。そこが、この話の肝でな」


 ギルド長は、クヌクヌを膝の上に乗せて右手で撫でながら、話を続けました。


「話は少し遡るが、実は、侯爵には4番目の女の子がいたんだ。ただ、この子は、正妻の子ではなく、側室の子だった。そこまでは普通の話なんだが、正妻とその側室の折り合いがものすごく悪かったようでな、女同士の感情の問題だけでなくて政治的にも……。で、結局、その側室は4番目の子を産んだ2年後に病死した」


 要するに、犯人・・は分かりませんが、その側室はどうも暗殺されてしまったようです。もちろん、領主である夫のゲルニート侯爵も、薄々は何が起きたかは理解していたのでしょう、表立って妻を罰したりはしませんでしたが、妻をいくつかある別荘のうちの1つの屋敷に移し、事実上の幽閉をしてしまいましたので、暗黙のうちに周囲の人々は何が起きたかを飲み込めたのです。


 結局、まだようやく歩き始めたばかりの小さかった4番目の女の子は、行方不明となりました。ただ、多くの人はその子も殺されたものと思っていましたが、実はその子は側室の部下に寸前で連れ出され、各地を転々としながら生き延びていたのです。ゲルニート侯爵も、どうやら、その事はご存じだったようで、常に消息を確かめながら金銭的な支援をしていたそうです。真実は伏せられているので分かりませんが、おそらく何か政治的な理由があったのでしょう、助かったその子を元の生活には戻さずに、有力な地方領主や王家に出入りする豪商の下を転々とさせながら、今日まで保護していたようです。


 そして、ようやくここで3番目の女の子が亡くなってしまった話が関係してきました。ゲルニート侯爵は、その子の代わりに、正式に第四女を侯爵家に戻すことを考え始めたのです。


「じゃあ、その4番目の子が、今回送り届ける女の子ということなんですね? でも、正式に迎え入れるなら、きちんと護衛の部隊でも送って、堂々と迎えればいいんじゃないですか?」


 僕は、再び、話を遮りました。


「ところが、そうはいかないらしい。ここから先は全く秘密にされていて俺も説明はされていないんだが、おそらく、こうだ。ゲルニート侯爵は王族間の政治的な暗闘を生き延びられるだけの疑り深さも持っている人間だ。実際のところは、本当にこのままその四女を迎え入れるかどうか、まだ迷っているんだろう。せめて、直接その子に会って自分の目で色々と確かめるまでは、第四女がこれまで生きていたことを世間に公表したうえで改めて亡くなった第三女に代わって嫁に出すかどうか、結論を出さないでおきたいんじゃないかと思うんだ。だから、アルヘシランに戻るまでは、できるだけ目立たせたくない。さらに言えば、余計な護衛を中途半端につけることも、かえって幽閉されているとはいえ未だ十分な力を持っている正妻一派が動きに気づいて暗殺を計ってくる可能性が高い、と践んで、あえてギルドに依頼して来たんだろう。もっと言えば……」


 僕にも、その先の話は想像がつきました。はっきりいえば、第四女が途中で殺されたら殺されたで仕方がない、と侯爵は考えているのでしょう。それよりも、自分の配下を護衛に送って暗殺などが起きた場合の方が、はるかに大きな政治的な問題を引き起こすということだと思います。


「そんな危なそうな仕事、僕なんかで、大丈夫なんですか?」


 事情がおおむね飲み込めた所で、僕は一応尋ねました。


「その第四女様がな、あんまり大人のこと好きじゃないんだよ、これまでの育ちから来る不信感、ってやつなのかな。誰か大人に送らせるとしても、話し相手になれる子どもがいた方がいいと思っていたところでな。お前さんなら適任だ。万が一襲われた際にも、ガドとクヌクヌがいるからな」


 それはそうでしょう。フォレ・ノワールのような魔力的に特殊な地帯に棲むオンブル()のような強力な魔物なら危険もあるでしょうが、普通の人間や亜人、雇われ暗殺者や魔術師くらいであれば……。


 僕は、横に座っているガドの方に目をやりました。ガドもこちらを向いて、軽くうなずく仕草をしています。


「あの、引受けてもいいかな、とは思うけど、僕らだけで送ればいいんですか?今、誰か大人に送らせるにしても、というようなことを言わなかったですか?」


 街の外でガド達が自由にしてかもわないのであれば護衛任務については心配することもないので断る理由もあまりなかったのですが、一応気になったことを尋ねてみました。誰か大人と一緒に行くのであれば、その大人によってはその人も守らなきゃならないことになると面倒ということがありましたので。


「おお、さすが聞き逃さないな。実はな、ロッキンにも行ってもらおうと思ってるんだよ」


「えっ?」


 さすがに聞き間違いかと思いました。ロッキン?

 ロッキンは、シルバープレートの中でも決して弱い方ではありません。どちらかといえば、かなり腕が立つ方だとは思います。でも、頭がおか……。


「な、なんで僕がロッキンと一緒に行かなきゃいけないんですか!?」


「いや、お前さんの言いたいことはよく分かるよ。ロッキンは行商人としての腕は悪くない。身を守る力という点ではかなりのものだ。ただ、頭がちょっとおかしい。お前さんが気がかりなのもそこだろ」


 ギルド長は、僕の思っていることをそのまま口に出してくれました。こういうところがかえって人望を集める理由なのかもしれません。


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