9話:学校団
怪物達が襲いかかってくる事もなく、無事に全校集会は終わった。よくよく考えてみたら集会でもなんでもなかったがそれはどうでもよい。
内容としては第1に、2年2組高倉等木を団長として現状に対処するべく学校団を作る事。
第2に、それにともなって後で伝えるが委員会をいくつか設置するので生徒達には各々それらに所属してもらいたい事。
第3に、既に学校に生徒らを束縛する権利はなく、帰りたい人は帰っていい事。ただし道中で何があっても学校団側は責任を持たない。
第4に、学校団の結成は生存を目的とするため、これを確固たるものにする意見を募集していること。
第5に、学校団に所属するものに勝手な行動は許されないこと。また、所属しないものに学校の敷地内に在留する許可は下りないこと。
第6に、詳細は後程通達。今から30分以内に所属意思のないものは出て行け。
第7に、公共機関の存亡が怪しく、自分達で行動を起こさないといけない事。
これらをもし政府が対応してくれたとしても後々極力問題にならないくらいに理由を述べて伝えていた。
よく短時間で正当化する理由を思いつけたと思うし、所属しない者は学校の敷地内にいることを許可しない、というのも踏み切ったと思う。
しかし、それは団長という名の責任者が俺だからできたんだろうなぁ、と考えると虚しくもあった。
まあ、でもそれはまだいい方だ。
それよりも俺が団長であるという理由に説得力をつけるためか、彼は10レベルを超えていて怪物の討伐経験が多いと嘘をついていたのはどうかと思う。
順調にいけば、近いうちに嘘から出た真になりはするんだけどさ。
内容は任せると言ったし言い出しっぺだからって、あの人たち俺の事を便利に使い過ぎではないだろうか。
学校団が組織として固まって来たら、人柄を見極めて悪い教師は管理職の座から追放しようと決めた。
ちゃんと相談はできなかったにしても、それくらいはやると言ってくれればよかったのに。
全校集会が終われば屋上に来るよう言いつけていたので、やって来た教師陣と委員会の種別などについて話を詰める。
とはいえ時間がない。
まず、大雑把に定めたのは、
怪物との直接戦闘をこなす「戦闘委員会」
武具調達を専門にする「武具委員会」
食糧調達を専門にする「食糧委員会」
設備保全や発展に注力する「環境委員会」
怪我の治療や衛生面を管理する「医療委員会」
情報の連絡、収集、整理をする「情報委員会」
学校団の方針決定、罰則執行を担当する「管理委員会」
の7つだった。「管理委員会」とかは早い段階で三権分立などを参考にした罰則制度の改革を行わないと組織が潰れるだろうが、今はいい。
そこそこの数の生徒や僅かに教師までもが学校から出て行くのが見える中、委員会所属を調査する紙を早急に作成してもらって、その間に委員会の人員募集条件を決める。
極論誰でもいいのは「戦闘委員会」「武具委員会」「環境委員会」だ。
しかし「医療委員会」と「食糧委員会」、また「情報委員会」と「管理委員会」については下手なやつを入れられない。
これについては希望制ではなく、人数制限も定めて、担任の印象と選挙制で決めてもらうことにした。
真面目……過ぎるのも問題ではあるのだが、他人に迷惑をかけるやつや能力のない奴には任せられない。
30分経ったので選出方法について放送で話してもらい、全校に調査票が配られた。
保健室にも持っていってもらってる。
今のところ選出するまでもなく、決まっているのは俺の団長と戦闘委員長という立場。
加えて、先生達には暫定的に他の委員長をやってもらい、「管理委員会」の多くの席も分配されている。
この状況で大人達ばかりに支配階級が与えられるのもどうかと思うが、初動を円滑にするためには仕方のない措置だった。
それに、ここで俺の団長という立場が教師と生徒の均衡を保つのにいい仕事をしていると思う。
賽は投げられた。
とりあえずはこのまま行く。
だが、そんな適当な対処で全てが上手く進むはずもなく、俺の側で連絡要員として待機していた1人の先生に電話がかかってきた。
「本当ですか?あぁ、もう……めんどくさい」
「どうしたんです?」
「所属しない者は学校内にいる事を許可しないというのがおかしいと言い始める生徒がいたようで」
「どこですか?」
「3の5です」
「じゃあ、行ってくるので敵が見えたら連絡ください」
「わかりました」
そういや、生徒相手に教師が敬語使ってんなと思いながら階段を1つ降りる。
強引に進めている自覚はあったため、こういう状況を予想して対策は考案済みだ。
すなわち、組織に不和を招く生徒は俺直々に叩きのめす。
圧倒的な腕力を見せつければ現状の異常さに気づくはずだし、恐怖から何もいえなくなるだろう。
それは一時的に俺が暴君であるという印象を与えるかもしれないが、今大切なのは表面的でもいいから組織を形作ることである。
信頼は後から築けばいい。
そのために、連絡係を用意して俺に問題があれば報告してもらうようにしている。
間に連絡係を挟むのは直接報告された場合対処が面倒だからだ。
今、この学校でまともな戦力になり得るのは俺1人であるのでやる事が多く、わざわざ些事には構っていられない。
だから、こういうのも勘弁してほしいと思いながら3年5組の教室の扉を開く。
「ここか?不和を齎す害悪がいるのは」
「害悪だと!?誰だお前は!」
「団長だよ。許可なく敷地内に不法侵入してるやつがいると聞いた。学校団は、それを許すことはない。罰則を受けたくなければ、大人しく調査票を記入しろ」
「ふざけるなっ、この学校はお前のものじゃない!そもそもなんだお前2年だろ!3年に対して言葉遣いがなってなさ過ーーー」
問題の生徒の机まで行き、拳を振り下ろした。
レベル7の身体能力が想像以上に半端じゃない。厚みが2センチはある木製の机がいとも簡単に真っ二つになり、やかましいくらいの破損音が響く。
「俺が、団長だ。てめえは下っ端なんだよ。言葉遣いがなってないんじゃないか?」
「ぇ……へぇ、ごめんなしゃい」
驚きすぎて尻餅をついた男子生徒は謝る。もう十分な気がしたが、一応確認を取っておくことにした。
「で、所属するのか出てくのかどっちだ?」
「しょ、しょじょくっ……所属させていただきます!」
「なら、いい。2度と変な気は起こさないことだ」
教室中から注がれる目が痛い。だからといって誰かと視線を合わせようものなら無用な恐怖を与えてしまうと分かっていたので、前だけ見て教室を出た。
これは思ったより簡単だな、脅迫。心へのダメージがなかなかのものだけど……。