5話:怪我人
いけそうな気がしたので、2階から下に飛び降りる。
今朝、怪物の1撃を受けたとは思えない軽やかな着地を決めることができた。
ステータスを確かめるとレベル6になっている。嬉しいというより、まずあいつどんだけ経験値貯め込んでたんだよという呆れが強い。
人間を殺すと特別多く経験値が入るのかもしれないが、そうなる理由が分からないし、あまり考えたいことではない。
まあ普通に人間を殺した場合でも怪物を殺した場合でも変わらないのなら、あの男は相当な数やっているわけだ。そこに怪物が入っていればいいのだが、人間だけでここまで登りつめたとなると鳥肌ものだ。
人を殺したというのに、それほどまいっていない俺が考えることでもないのかもしれないが……。
血を吹き出して動かない男の死体を素通りし、正門に到着する。
男に焼かれたのは女生徒のようだった。生きている……どころか意識がある。損傷が思ったよりも激しくなかったのだ。放っておけば死にそうではあるが、すぐに処置すれば助かるだろう。
具体的には右足全てと左は足首から下。加えて足に比べれば酷くはないが、胴の側部が右腋の下まで焼かれている。
「死ね、死ねっ……私にこんなこと……絶対に、絶対に殺してやる!」
そんな彼女は意識があるというか、思ったよりも元気そうだった。恨み節を吐けるくらいだ。よくよく見ると清楚美少女で通ってる隣のクラスの佐宮さんという人だったが、普段は猫を被ってるんだろう。
そこに触れずに見なかったことにしてあげて、とりあえず救援にきたことを知らせることにした。
「えっと、あの男はやっちゃったからもういないんだけど……とりあえず今治癒系のスキル持ってる人を探してもらってるから、もう少し待ってもらっていい?」
「やった、って!?」
ああ、そっちに反応するのか……。
「危険そうだったから仇は討っておいたんで、だから安静にしといて。そう叫ばずに。助けが来るから」
「殺したの?……あんたが?」
「ああ、まあ」
すごく鋭い目を佐宮さんは俺に向けてきた。もはや殺意が篭ってると感じる程で、無意識に戦闘態勢に入ってしまうからやめてほしいんだが。
「……スキルってやつ?」
「まあ、そうなるな。あの男は炎だったようだけど。そういや、その怪我はどれくらい痛いんだ?やばそうなら応援を急かして来るけど」
「それって、どうしたら強くなれるの」
気遣いを無視された……。
相当に佐宮さんは興奮しているようだ。いきなり炎を浴びせられて瀕死に追い込まれたんだろうから、わからなくはない。けど泣きわめくでもなく復讐することを第一にするって、それは女の子としてどうなのか……。
本気で狙っている人は多いという佐宮さんだ。男子どもが見たら、これは発狂ものだな。
「なんか現れ始めた怪物を倒すとレベルが上がるんだよ。そうすると上昇分に応じて、スキルが強化できる。ちなみにレベルが上がると脳内で変な反応がある」
「変な反応……もしかして」
「ん?」
それっきり、佐宮さんは黙ってしまった。
なんだ?レベルでも上がっていたのだろうか。あり得ない話ではない。攻撃を食らっただけとはいえ、彼女はあの男との戦闘に参加したといえなくもないのだ。
別に経験値の取得条件が戦闘参加だと決まったわけではないが、俺が倒した男の経験値が佐宮さんにも分配された可能性は0ではないだろう。
……暇になってしまったし、俺もステータスを確認しておくか。
まずはSPが57になっている。上昇率は大体9〜10と微妙に規則性がないが、然程気にすることでもないだろう。
で、スキルだが新しいものが取得できるようになっていた
派生技能ではない。スキルがだ。
選択肢は3つ。
【殺人】【槍射】【投擲手】
後半2つは正統派生だと思うが、どう考えても【殺人】は先程の戦いのせいだろう。
条件達成によって新しく得られるスキルがあるのかもしれない。しかし、検証している時間も余裕も今はない。
対人戦に強くなりそうではあるが、不名誉な上にピーキーな性能をしていそうな【殺人】はパスする。
逆に【投擲手】は万能過ぎて決め手に欠けそうだ。
ということで超絶正統派の【槍射】を取得する。即断即決だ。どうせ何をとっても何かしらの後悔はしそうだし、それなら現状の戦力強化を優先して悩む選択は放棄すべきだ。
2回分の派生技能選択と思ったが、6レベルからは2回分なのか合計で3回も派生技能を選択できた。
これも即断即決。
レベル6
SP0/57
スキル
【槍投】{『槍作成』〈消費SP緩和Ⅱ〕『投擲』〈強化投擲Ⅰ〕}
【槍射】{『豪投槍』〈槍射速度強化Ⅰ〕}
極めて順当な強化具合だ。攻撃威力、回数共に向上させる形にした。
今はSPが0なのでなんとも頼りないが、全快すれば結構戦えると思う。
そんな風に俺がステータスに関して満足するのに対して、佐宮さんはまだ悩んでいるようだ。
その時、声が聞こえてきたので校舎側を見れば、塔橋が2人の生徒と1人の先生を連れてこっちに来ている。
「救援が来た。それと、あんまり悩んでも満足いく答えは出せないと思うぞ」
空中の一点を見つめている佐宮さんに言う。
彼女は救援という言葉に鋭い眼差しを柔らげ、しかし後の言葉で俺を睨んだ。
けど4人が到着するなり、再度雰囲気は俺の知っている佐宮さんに様変わりする。
こんな時でも猫を被り続けるとか、佐宮さんメンタル強いなと思った。