3話:学校へ
レベルが2つ上がって、ネットの情報通りに新たな派生技能の選択か既存の派生技能の強化が2回選べるようになっていた。
【槍投】{『槍作成』『投擲』〈強化投擲Ⅰ〕}
悩んだ末、こうする。
『槍作成』にSP消費緩和Ⅰというのもあったが、現状底をついているSPではあってもなくても変わらないだろうと判断した。
だから、単純に投擲威力と命中精度の強化を考えた構成にしてある。そうなると投げるものだが、その場その場で用意すればいい。
怪物が現れるという緊急事態なら、周囲の建物から何か棒状のものを拝借しても文句は言われないだろう。
そんな考えで駅まで自転車を走らせていると、暫くして怪物が見つかった。
路地裏からぬるりと出てきて、周囲を睥睨する。先ほどと同じ緑肌の巨漢だ。改めて見てみれば筋骨隆々で、黒目白目関係なく濁った黄色に染め上げられた双眸は狂気を孕み、だらしなく開けられた口からはよだれに濡れた鋭い牙が除いている。
近くにいた人はパニックを起こし、腰を抜かしている人もいる。そんな人達をなんとか避けて、俺は自転車ごと巨漢に突っ込んだ。
レベル上昇で身体能力でも上がっているのか、思っていた以上の速度が出る。
ぶつかって衝撃で吹き飛ぶより、自分から飛び降りた方が安全そうなので衝突直前にそうした。
「グァアア!」
巨漢の悲鳴が上がる。
前回の戦闘で負った痛みは消えていないが、これもレベル上昇による恩恵だろう。何故か軽く打ち身をした程度にしか感じられないので、俺は遠慮せず地面を転がった。
やはり身体能力が上がっている。大した怪我もせず、すぐに立ち上がった俺は巨漢の方を向く。
足を狙ってみたが、上手くいったようだ。きちんと転がっていてくれたので、急いで近くに飛んでしまっている自転車を拾い上げ巨漢に向かって投げつけた。
「ガァッ」
「もう一回くらいか」
ほとんど瀕死だったが、油断はできない。もう一度ひしゃげた自転車を投げつけ息の根を止めた。
また、頭に反応がある。
レベル4
SP4/39
スキル
【槍投】{『槍作成』『投擲』〈強化投擲Ⅰ〕}
レベルが上がった。ついでにSPが4まで回復している。確か、ここまで来るのに30分以上はかかっているはずだ。
となるとSPの回復量が増したというより、もともと割合回復だったのだろう。30分で1割。つまり5時間で全快するわけだ。
そして、こうなると選ぶべき派生技能はSP消費緩和Ⅰだ。1回だけだが、多分槍が作成できる。
自転車も壊れてしまった事だし、そもそも街中。今は駅近くのビル群だが、思ったより棒状の武器になりそうなものはない。
武器がなければ戦いにくい事この上ない。これで、あと1回は戦える。
というか、この分だと素手でも身体能力に任せて、巨漢相手に防戦くらいはできそうだ。
「あ、あの……これは一体」
そんなことを考えていたら、腰を抜かしたスーツ姿の女性会社員の人が問いかけてきた。
俺が結構あっさり倒したものだから、何か知っているのではないかと思ったのだろう。
「すみませんが俺もよく分かりません。ただ、1つ言えるのはこのような怪物が街中に現れるようになったということです。倒せば力が手に入ります。戦わなければ、殺されるでしょう。まあ、無責任にしか言えませんが、頑張ってください」
そう、殺されるかもしれない。今の戦いは上手くいったが、実際最初の戦いはほぼほぼ死にかけた。
怪物が緑肌の巨漢だけとは限らないし、全くもって油断できる状況ではない。
スマホを見る。政府の声明はまだだった。
しかし、人通りの多い大通りにスピーカーで増幅された声が響き渡る。そちらの方をみれば制服を纏った男性が白と黒の大型車に乗って呼びかけを行っていた。
「警察だ……」
近くから安堵を滲ませる声が聞こえる。
政府の勧告はまだ来ない。それでも、現場では早々に人が動き始めたようだった。