2話:怪物
翌日、朝。起きてすぐにネットを確認したら、生き物を殺すとレベルが上がるという情報が広まっていた。
流石にそこまで検証している人は少数のようで確度はあまりないが、レベルを上げることで新たに派生能力を取得できたり、取得済みのものを強化できるといった情報もある。
もう少し調べて見たくもあったが、今日は学校だ。
早々にスマホから離れて朝の支度諸々を済ませ、1人暮らしの一室から出ることにした。何故高校2年生で1人暮らしなのかといえば、それは両親が2年前に他界しているからである。
祖父母との関係も希薄だった俺は、両親が残してくれた結構なお金をやりくりしてなんとか暮らしている。
この部屋は中々大きいマンションの一室であるが、安いところを探したおかげで駅までの距離がそれなりにある。
頑張ってチャリを飛ばさないといけないため、急ぎ足で駐輪場に向かう。
するとだ。何かの前振りだとか、緊張感を掻き立てる状況だとかがないままに、そこには背中をこちらに向けた、横に広い緑肌の巨漢がいた。
驚いて声も出なかったが、この状況は昨日寝る前に妄想していた戦闘シミュレーションに似通っている。
自分の意思では体を動かせないのに無意識は自動的に槍を作成して、それを緑肌の巨漢に投げつけていた。
「ア゛ゥァァァァア!」
「あ」
槍が見事に対象の肩に命中して、ようやく俺は明瞭な意識を取り戻す。
混乱は収まっていなかったが、傷は浅くてこのままでは緑肌の巨漢が暴れまわるだけなのは分かった。
「ああああああぁああっ!」
恐怖を振り切るように、叫びながら俺は突進する。
槍の存在持続時間はまだあるのだ。それに、巨漢が手にとって武器にされたら敵わない。
極限状況がなせる技か、俺を近づけさせまいと振り払われた剛腕を屈むことで回避。そして俺は巨漢の背後に回り、眼前にある肩から突き出た槍の柄を掴んだ。
体重を乗せ、勢いをつけて引っこ抜く。後には引けない俺は、逃げるのも厭わず巨漢の足に向けて思いっきり突き出した。
筋肉か脂肪かの抵抗は感じたがしっかり刺さる。だが、振り返りざまに薙ぎ払われた巨漢の剛腕が俺を打った。
腕を犠牲にし、頭は守ったが盛大に吹き飛ぶ。
運がいいのか悪いのかは分からないが、並べられた自転車に突っ込むことはなく通行のための狭い道を転がる。
気を失うことはなかった。しかし、身体中が痛い。
「死ぬって、これは……」
一連の戦いもそうだが、このままでいた場合もそうだ。
これだけは幸いにも、なんとか動こうと思えば立ち上がれる。膝を立て、巨漢の方を見る。
すると、奴は少し離れたところでのたうっていた。決死の覚悟で足に一撃を入れたのが良かったらしい。移動力は削がれ、これなら遠距離から一方的な攻撃ができる。
「くたばってくれよ……」
槍を作成する。これで、残りSPは0だ。
ふらつきながらも立ち上がり、何も考えずスキルに任せる気持ちで構えた。そして、投げる。
「アガぁッ……が、ガ……ァ」
槍は巨漢の脳天に突き刺さり、奇怪な声を上げさせる。
暫くはピクピクしていたものの、次第に全く動かなくなった。それと同時に脳内に何やら反応がある。本能的に、ステータスに関するものだと理解させられる。
ステータスを眼前に展開するとレベルは3になっており、SPの最大値が29になっていた。
「あ、いや悠長に確かめている場合じゃない。新手は……!?」
ハッとして、周りを見回したが敵はいない。誰もいないわけじゃなく、ビクついた様子の主婦やら会社員やらは見かけたが、今は重要ではなかった。
とりあえず、今の戦闘で分かったが昨日まで確認されていなかった怪物が現れ始めている。
「どうすればいい……」
急いでスマホでニュースをチェックしたが政府が声明を発表したという情報はない。
「……」
迷いはしたが、とにかくは学校へ行くことにした。
このような状況になってしまった以上、レベルを上げることは最優先事項だ。怪物を倒して上げられるなら、外に出た方が効率がいい。
それに、レベル3になったのだ。弱い人たちを助けて上げたいだなんて殊勝な事は言わないが、被害縮小に貢献できるならやっておいた方がいいだろう。