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投槍の先導者  作者: 緑色インコ
14/15

14話:新しい朝

 特に何事もなく、夜は過ぎた。


 早く目が覚めた俺は近くのトイレの水道で顔を洗う。水道管が破壊されておらず、まだ浄水場は陥落していないのだろう。無味無臭の水は今日も出てくれた。


 丁度、夜警の交代時間だったのか、用を終えてトイレを出てきた俺は1人の男子生徒を廊下の向こうに見る。


「高く……いや、団長。おはようございます」


 塔橋だった。眠そうな顔をしていたが、俺を見た途端に背筋を伸ばす。何もそこまでしなくていいのに。そんなに俺の名は悪い方向で知れ渡ってるのだろうか。


「塔橋か。別に2人しかいないし、みんなが寝てるのは少し遠いから敬語はいいぞ」


「そ、そうか?」


「てか昨日は朝以来会ってないよな。敬語を使うのは俺が強制したわけじゃないんだが、その風潮をどこで聞いたんだ?」


「なんか団長は一見ぱっとしないけど容赦なくて超怖いって噂になってるんだよ。多分、学校全体に知れ渡ってる」


 やっぱり、悪い方向で知れ渡ってるらしい。


 宿泊は平委員の場合、男女で場所の間隔はあけられているが、指定された階

 の部屋達のどこかで適当に寝ろということになってる。


 消灯少し前から階移動こそ禁止されているが、トイレのために部屋移動は禁止されていない。同性間なら直接会って話ができるし、夜の時点ではスマホが充電できたからSNSで男女間の連絡も可能だ。


 よって、昨日俺が関わった生徒達が話した情報が広がらないはずもなかったということだろう。


「もう少しの間は動かしやすいから、その印象でいいんだが……このまま印象を覆せないと後々問題だよなぁ」


「……色々、考えてるんだな」


「まあ、そうしないと生き残れないかもしれないしな……ああ、すまん。夜警の帰りだよな?まだ起床の時間には少し早いし止めるべきじゃなかったな」


「いや、別にいいよ。気にすることじゃない。じゃあな……ふぁ」


 そう言いながらも欠伸をして塔橋は去っていった。


 俺とか、あとは委員長と「管理委員会」の先生達は仕事が忙しすぎるという理由で免除されているが、平委員には当番制で夜警の仕事がある。


 仕事は屋上と放送室に待機することと校内を巡回することの3つがあり、屋上には2人、放送室には1人、巡回には3人が配置されている。


 屋上待機組か巡回組が異変を察知したら、すぐに放送室に連絡する仕組みで、連絡には電池で使える学校の備品のトランシーバーが用いられていた。


 学校団に所属する気はないと出て行かなかった人は7割程度だが、それでも生徒だけで300人以上はいるので交代の間隔は短く、1時間となっている。


 なのであまり負担は大きくないはずだが、これも不和の温床になり得るだろう。


 そのうち夜警専門の係を作って、その人達は昼の仕事を免除するとかしないといけないかもしれない。専門的なスキルの持ち主にやらせれば、安全度も高まるだろうし。


「会議室行くか……」


 まだみんな起きてないし、朝食を食べるまでは「戦闘委員会」も動かせない。だからといって僅かな時間だけ2度寝する気にはなれないので、あるだろう資料でも見に行くことにする。


「おはよう」


「あ、おはようございます」


 扉を開けると既に仕事をしている者が数人いた。この状況への不安は見て取れるが、不満げな顔をしている感じではない。自主的な行動だろう。


 ただ昨日仕事を終えきれなかっただけかもしれないので、これで真面目だとか善良だとかの判断はつかないが顔は覚えておくことにする。それで何かの役に立つかもしれないし。


「そういえば、ここの鍵は?」


「それなら管理委員長の私が持ってます」


「そうか。何時くらいにここは開ける?」


「毎日6時には私がここに来て仕事を始めるつもりですので、その時間に」


「なら、いい」


 連絡係の人とは何度も喋ってるし、この口調で先生に話すのも慣れたかと思ったが、どうにも違和感が抜けきれなかった。


 管理委員長が元校長であったのもあるんだろうが、50は超えてそうな他人にぞんざいな口調を使って平常心で居られるほど俺も厚顔無恥ではない。


 しかし一部知ってる生徒にならともかく、舐められないために先生には口調を変えるつもりはなかった。


 俺は目の前の人より偉い。俺は目の前の人より偉い。と心の中で呟きながら、管理委員長に読むべき資料の在り処を聞く。


 昨日の夜にまとめあげたものが結構あるようなので、朝食の時間まで読み進める。


 そうして静かに資料の文字列を追っていると、必要物資という項目が目に入る。


 水道で水がでるうちに出来る限り保存しておきたいらしくペットボトルを集めたいだとか、電力供給のためにソーラーパネルを拝借してきたらどうだかとか、当然ながら食糧や電池、他にもあったらいいものが大量に書き込まれている。


「市街地探索のついでに集めるか……」


 ソーラーパネルとかは配線等の必要があるので簡単には行えず、余裕が出てからになるだろう。


 しかし、ペットボトルに関しては急務だ。いつ水道が決壊してもおかしくない。


 人員のレベル上げや多少の安全配慮など考慮する必要があるが、最優先事項に関してはペットボトルの収集を命じることにしよう。



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