1話:始まり
その日、世界は狂騒に包まれた。
何の前触れもなく、突如視界に映るようになったゲームのようなステータス。
表示情報はレベル、SP、スキルの3項目のみだったが、怪奇と呼んで良い超常現象だ。
日本政府は即座にテレビ等メディア媒体を用いて国民に声明を出した。
現在、政府が現状の解明を急いでいる。それまでは、この件に関して下手に触れることなく、今まで通りの生活を送ってほしいと。
しかし、降って湧いた非日常に好奇心を抑えられるものが全員ではない。
『今朝から世界中を賑わす超常現象事件ですが、政府の勧告に従わない者達がインターネットサイト等で検証結果の共有、報告や、これは異世界との融和であるなどの仮説を論じているようです。しかし、現状何もかもが分かっていない状況です。これらの情報に惑わされることなく、皆様は普段通りの生活を送ってください。事の次第は政府が解明を急いでいます。無用な混乱は秩序の崩壊を招きます。2度目になりますが皆様は普段通りの生活を送ってください。それが秩序を維持し、この超常的な現状に向き合う唯一の最適解なのです』
何か、新しく情報がないかとテレビをつけてみればこれだ。
全くもって意味などなかった。既にネットに上がった検証情報は一通り見てるし、普段通りに生活する気などない。
流石に事件性のある大事を起こすつもりはないが、俺はいくつか自分自身で検証を行ってしまっている。
レベル1
SP10/10
スキル
【投槍】
俺のステータスはこれ。スキルは最初から持っており、変更はきかなかった。
しかし、なにやら派生能力なるものを1つ選べるようである。その選択肢は『槍作成』と『投擲』の2つ。
ネットで見た限り、多くの人も初期選択肢は2つのようだ。そして、それぞれ固有の初期スキルを持っている。被っている人もいるようだが。
最初に俺は派生能力を取らずにスキル効果を検証してみた。俺は高校生2年生だが今日は休みである。外で行うのも外聞が悪いので、1人暮らしの部屋の中でできる限りのことをやる。
結果、分かったのは細長い棒状の投擲技術が向上していることだ。神がかり的な命中精度ではない。多分3日くらい本気で打ち込めば到達できる程度だ。
また、SPの消費はない。
こんなので役に立つのか疑問だったが、投擲技術は努力次第でもなんとかできるだろう。
そう考えた俺は、派生技能「槍作成」を取ることにした。
ネットを調べても「投擲」 のような技術名称の派生技能は名前通りの効果しか発揮してくれないらしい。すなわち技能向上だ。
逆に「槍作成」のように特殊なものはSPを消費するものの魔法のような効果をもたらしてくれる。
SPが1つ回復する時間は現時点で一律30分らしいので、回数に制限がかかるものの全く検証が繰り返せないわけではない。
迷いを振り切って「槍作成」を取得し、俺は早速発動して見ることにした。
呪文だとか、技名を叫ぶ必要はない。使いたいと思えば使えた。
5のSPが消費され、手元に身長の半分ほどの長さの銀に光る金属槍が現れる。
いや、見た目は確かに金属槍なのだがそうでないのかもしれない。大きさに反して体重計に乗せても2キログラムくらいしか質量がなく、叩いた感触も打って響く感じではなかった。
いろいろ確認していると、空気に溶けるようにして消えてしまう。セットしておいたタイマーを見ると、存在していた時間は20秒だった。
「レベル1だからこんなもんなんだろうが……てか、能力だけ授けられても、これでなにをしろっていうんだろうね」
20秒ほどの時間だったが、現状確認すべきことは少なく思いつく限りは試してしまった。
少し部屋を片ずけて空間を確保し、その日を俺は基本ネットを巡回して、SPが回復したら槍を作って振り回すだけで時間を潰した。