不敵な微笑み
洞窟から出た俺は後ろを見上げた瞬間目を疑う後継を目にした。
目の前にそびえ立つのは平均的な身長の少女、既に成人している人ならそう思うだろう、だが俺はまだこの世に誕生してたった七年。
少ない、あまりにも少なすぎる、十分な身長を得るためにはあまりにも少ない時間だった。
「お前身長いくつだ」
「に、2メートルくらいかな…?」
少女は薄く笑いながらそんな冗談を言った、だがその冗談を少年は間に受けたらしく。
「勝てねえ…」
「じょ、冗談だよー!」
地面に両手をついて落ち込む少年にあたふたしながら謝る少女だった。
ーーーーーーーーーー
「へー、ストケシアって言うんだ」
「う、うんママが…付けて、くれた…」
地面に座り自己紹介が終わったシウスとストケシアは雑談を始めようとしていた。
「お前なんで目が見えなくなったんだ?」
ストケシアは目が見えないらしい。
さっき洞窟から出て来て地面に座る時も目をつぶっていたので何で目をつぶっているのか、と聞くと目が見えないと言うので座るのも手伝ってあげた。
その事を知っていながら人のそれも女の子のプライバシーの事に触れてしまう。
だがシウスはまだ七歳と少しそんな子供にデリカシーと言う言葉がわかるわけもなくそんなことを聞いてしまう。
「え、えっと…昔魔獣に目、引っかかれて…」
ストケシアは手で目を撫でながらそう言った。
「それにしては目に傷がないな」
「傷だけは…魔法でお医者さんに、治して、もらった…」
静かに発せられていた声がさらに静かになり始めたので流石にシウスも気づいたようで、話をいきなり変え始める。
「そう、なんだ…それにしてもなんであんな所で寝てたんだ?服もそんなに汚れてるし」
今ストケシアが着ている服は既に色あせていて所々破けている。
こんなの一ヶ月二ヶ月ほっといてもこんなんにならないよな…あの服いつから来てるんだ。
「これはねママと街の人達がこの洞窟で静かに出来るんならこの服をあげるって」
「えっ…静かにって、それっていつからだ」
「え?いつからって何、が…?」
「この洞窟に閉じ込められたのはいつかって聞いてんだよ!」
この洞窟に入った時はあの服はまだ新品だった?
新品の服が一日や二日洞窟で寝てたくらいでそんなになるわけが無い、じゃあ、いつから…?
「ひっ、そ、そんなにとならないで…」
ストケシアは俺が大声を出すと両手で頭を隠すように守る。
ま、まずい大声を出しすぎた。
「ご、ごめんな、俺が言いたかったのはお前のお母さんにいつからここにいろって言われたんだ?」
ストケシアの警戒心を解くために謝り、丁寧に言葉を選びながらゆっくりと質問する。
「ぐすん、わ、わかんない」
「そっか…」
まあそうだよな目で太陽すらも見れないんだから時間の感覚なんてわかんないよな。
「あ、で、でもこの服…」
ストケシアはその色あせた服とも呼べない布切れの端をつまみ広げる。
「服がどうかしたか?」
「この服、ママからもらった時、袖から手が出ないくらいおっき、かった…」
それを聞いて愕然とした。
大きかった服が自分の体に合うようになる時間なんて一ヶ月や二ヶ月なんてもんじゃない…何十年も。
「お前は、その間ずっと、一人だったのか…?」
「うん…誰も、来てくれなかったから…」
誰も来なかったから一人で何年も洞窟の中に?
「洞窟は塞がってなかったんだから、いつでも出れただろ…なんで、出なかった」
「ママが、待ってなさいって言ったから…」
何でもママかよ、ママが言えば何でもするのかこいつは。
「その間何か、食べたのか…?」
「ううん、誰も、何も持ってきてくれなかった、から…」
何も食べてこなかった、数年の間ずっと?
なんで、じゃあこいつは生きて…
「お前は…」
ストケシアは俺の声色を聞いて怒っていると勘違いしたのか申し訳なさそうにしている。
「人間か?」
ストケシアは俺の言いたかったことを理解したのか何故かまた申し訳なさそうにしながら顔を下に向ける。
「多分、違う…」
「多分って、どう言うことだよ」
「気づいたら、そういう体に、なってた…」
「気づいたらって…」
そんなに生物の適応速度は早いものなのかよ、いやそんなわけが無い。
暗い洞窟に長い間閉じ込められているだけで 何十年も一人で何も食べずに生きていけるなんてありえない。
「ほんとに分かんない、でも私のこの目が…この目が、見えなくなった時から、私の体が変になって…」
ストケシアは口元を綻ばせながらそう言った。