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01-「新しい異世界生活を!」

眩しい、見えない、でも光は暖かくて目を逸らすなんて出来なくて

何が起こってるのかわからない、でも目を閉じる事は嫌で……


感じるはずもない、心地よい光がまるで刺すような光に変わっていると

気付くのが遅かったようで、目から視線を逸らせと痛みを投げかけてくる


視界に映る景色が光と、蒼と、白い雲に変わっていた


自分の顔は見上げていたようで、ゼンマイ仕掛けの人形みたいに

視線を下げていく



『ブルフィィィン!!!』


「どはあぁ!?!!?」


一瞬だけ顔を合わせた走行中の馬に脅かされ、尻餅を付く

俺をビビらせた馬は多くの荷物、馬車と共に視界の外へ急いで

出ていってしまったようだ



クスクスと笑われている音に気付き、周囲を見れば

咎められると思ったのか、トカゲの婦人や、ネコ冒険者が

目を合わせる前に視線をそらされる


大半は興味なさげに、恐らく俺の恥態より明日の食い扶持や

家族の待つ家に帰りたいのだろう、無視して歩いていく



「戻った…… のか…?」



手を見れば、先程まで存在していた腕や胸の傷も無く、逆に指は全部ある

以前、この世界の魔物に食いちぎられた左の指と

右の半分は溶かされたがあったはずだが

両方の指は綺麗な、苦労知らずを見せつけている



「ここは、最初のとこか?」



見覚えがある景色だ

俺がこの世界に来て、一番初めに見た景色

遥か頭上で輝く太陽、七輝玉を見た時の感情が懐かしい



両方のポケットを軽く探る

左のポケットに財布、右のポケットには携帯が入っており

他には家の鍵、そして肩から下げている学生カバンが俺の持ち物の全てだ


二束三文で売り払った筆記用具や教科書が、まだ手元にあると思うと

少し可笑しな気分だ



「……あの人生を、やり直せるのか」



その言葉は、前を走る馬車の車輪と馬の蹄が鳴らす足音に消されていった






歩く、ひたすら歩く

身体を動かして、同じように錆び付いてる頭を回そうとして


ここは俺が召喚(?)された最初の街『ウェストランス』

近く、西に王都、東には他の都市と繋げる為の中継地点だ


立地上、人の通りは比較的多く、また綺麗な川が流れている為

水に困ることは少ない上に、季節や気候の変動も余りない

行商などをやり、纏まった金が入ったらここに永住する人も多い

田舎と、都会の風景を混ぜたようなところだ


そんな場所のためか、人の数の所以か、どんなヤツでも

雑用で小金を稼ぐことが出来たというのは

右も左も解らなかった俺にとって不幸中の幸いであった



耳に馬車の音が聞こえなくなっている

馬車が通る主要の道から離れ、人のみが歩く道に移っている


さっきまで見かけたのは行商人ばかりだったが

今の周辺には住家とここに腰を下ろした店持ちの

小売商ばかりである


ちなみに、半ば無意識に歩いているが、生活道路のような細く

薄暗い路地には入らないように注意している


今の俺の身なりはそこそこ綺麗だ

毎日、風呂に入り、制服をクリーニングに出したり

下着を毎日のように洗う、そんな生活をしていたところから

この世界に来てしまったんだ、悪い意味で人目を引く



体を清潔に保つ習慣はあるものの、水と薪を大量に使う

風呂のようなものは貴族だけのものであり

一般的には布で体を拭くだけだ

場所によってはそれも贅沢となる

そういう意味でも、服装の物珍しさでも

今この瞬間にも人目を感じている



ふと歩調を落として、自分の手を胸の前に持ってくる

栄養をしっかり取ってきた、頑丈そうな腕だ

部活で筋トレを欠かさず続けていたのもあって、決して悪くはない


その日の飯に困りながら、その場のノリで突撃してくるチンピラと

戦うことになっても、一方的に負ける事はないだろう



ただ、【一方的に負けない程度】しか俺の実力はない

もしチンピラが二人組で襲ってきたら命の危険すらあるだろうし

ソイツらが刃物を持ち歩いてたら、1~2箇所は刺されるだろう

それが少し運悪く、深く刺さったらそれだけで死ぬ



当たり前のことだが、俺は最初に思っていたよりは強い

だが、まったく強くなどないのだ


ましてや今の体はほとんどただの中学生である

走ることは得意だが、暴力を振った経験など全くない

身体がそういう風に出来ていない



無駄に波風をたてる事はやめて、前と同じように教会へ飛び込もう

そうすれば、小遣い程度の金を集めつつ、また勇者たちに会う事が出来る


前と同じように、街のチンピラ相手に足を震わせて、目をそらして

安全なところで震えて、そこをアイツ等に見て貰い

パーティに入れてもらって、バカやって、そして楽しく旅して…



そしてまた、置いていかれるのか?




足が止まる、頭が痛い、胸が締め付けられる



そうだ、同じように生きてしまったら

また、置いていかれるんじゃないのか


また、好きな人が嬲り殺されるのを、見てるのか?


また、あの情けなくて、惨めな俺を助けてくれる

アイツ等の『優しさ』に頼るのか?



万が一、全てが同じように進んでしまったら

俺はまた、同じように時を巻き戻るのか?


それを知っていて、俺は笑えるのか?


アイツを、アイツ等をまた、同じ目にあわせるのか?



深く、息を吸い込み、前を向く


目の前にあるのは、昔の俺が無作為に走り回り、偶然見つけだした教会


あの日見ていた建物が、目の前にある

生意気なガキ共が居るのも、お姉さん風を吹かせた少女が居るのも

余り孤児に興味のない神父が居るのも

そしてお人好しのシスターが居るのも変わらない



あの日と違うのは、俺だけだ


昔と比べても、臆病なのは変わらない、自分を情けないとも思ってる

ただ、少しの決意だけを持って、今はない昔に歩いた道を進み、扉を開けた



木製の扉を押すと、木と鉄が擦れて耳に障る音をたてる

油を金属部分に塗るだけでも変わるのに、それをしないのは

金が無いのか、人手が無いのか


おそらく両方なのだろう、石の壁は手入れされ、床は掃除されていると

解るものの長年に染み付いた汚れや傷は残されている



「あの、如何なさいました?」



目の前の、お人好しと評したシスターが不可思議な顔をこちらに向ける

一つ深呼吸して、話を始めることにしよう

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