序章「これから始まる異世界生活を!」
「……なんだ、これ……?」
そんな言葉を吐き出すのが精一杯だったが、耳に流れてくるのは
俺のそんな意味のない呟きではなく、周辺の音だった
ザワザワと俺に関係ないだろう人の声が鳴り
ガタガタと遠くへ行く車輪と、足音が響く
後ろを見れば、今日の夕食を考えているのか、露天商に値切るトカゲの主婦
横を見れば、ある者はしっかりと、ある者は死んだ魚のような目をして歩く者々
前を見れば、我先にと進みを止めぬ馬車の群れ……
おかしい。 何がおかしいって、俺はさっきまで裏山に居たはずだ
何の変哲もない、唯一、小さめな山があるくらいが特徴の街に住む
中学3年を卒業するところだった俺【辰己 一騎】タツミ カズキ
いつもどおり寄り道して、夕日が沈むところを見て……
さぁ帰ろうと思ったら妙な浮遊感を感じて、気付けばこれだ
「……もしかして、これは…っ!!!」
ふと上を見れば、先ほどは夕日だったはずの太陽が
上で燦々と輝いており、いやそれどころか……
『今日も七輝玉が眩しいわね、いい天気だわ』
誰が言ったかは分からないがそのとおり
空には一つの大きく輝く太陽のようなものと、その周りに
6つの丸い物が並んでいた
少なくとも、ここは地球ではないということがよくわかる
少なくとも俺の15年、あんな太陽(?)は見たことないし
こちらをチラ見して行くトカゲ人間やネコ人間を見たことはない
間違いない、これはいわゆる【異世界召喚】ではないかと……!!!
「お、おぉぉぉぉ……!!! こんなことが俺に…!? すげぇ!!」
陸上という部活からそのままの惰性で走る事が好きだった俺だが
ラノベや漫画だってもちろん好きだ
こんなシチュエーションを夢想したことは何度だってある
「はっ!? そういえば今の持ちモンは……」
ポケットの中を探る。 こういうのはお約束だろう
携帯、財布、家の鍵、そして帰る途中だったので持ってた学生カバン
そのカバンの中には教科書とノート、シャーペンも入ってるな?
この辺の道具を売り払えばひとまずは生きていけるだけの
金が手に入るんじゃ? そういえば金を稼がなきゃならないが
どうするか? いや、異世界知識のチートとかで稼げば良いか
商売とかやりたいが、それまでの稼ぎはどうすれば良いか
お決まりの冒険者ギルドとかあるのか? それともスラ〇ムとかが居て
それを狩っていれば良いのか?
「とりあえず、今はこの場所がどこかわからんな」
そう誰も聞かせる人は居ない独り言を吐く
広い馬車が通る大通り、石造りの家々、行商人が出してるだろう
テントのような小屋が並び、メイン道路である事は解る
何をするにしても場所が分からなければどうしようもない
広い通りであるがゆえに、人や犬っぽい人やその他大勢が居るものの
ここで声をかけて足を止めさせるのもなんか悪い気がするし……
かと言って恐らくこの世界で一文無しの自分
商人から聞くのもなんかはばかられる気がするし……
「まぁ、適当にやりゃどうにかなるだろ」
なぜ異世界召喚なんてされたのか分からないが、召喚されたってことは
何かに必要とされたからだろう
もしかしたらチート能力の1個2個が付与されてるかもしれないし
何度もやり直し出来るなんて能力なのかもしれない
ともかく、受験勉強とかって決まった未来よりも
俺の未来は開かれている!!!
恐らくこれから、予想以上の苦労もするだろう、大変なこともあるだろう!
だけど、せっかくの異世界なんだ! せめて明るく行こう!!
そう思い、俺はどこかへ続く道に、一歩踏み出した