ヒロインのお助けキャラと悪役令嬢がお友達になった話
私は高校生になった。学校は、地域でも有名はお金持ち学校。ここの学校では、自由に授業を選択できて、私の欲しい資格が取れることで有名だった。だから、必死に頑張って、特待生になった。
幼稚舎から続くこの学園の生徒たちは排他的だった。高校から入学し、一般家庭生まれの私と仲良くしようって人はいなくて。
それにひどい人見知りの私は、自分から話しかけることもできず、ひたすら休み時間は本を読んで過ごした。
そんな時、ヒナが転校してきた。ヒナ…赤城ヒナは、明るくて可愛くて、私には勿体無いくらい良い友だちだった。
ヒナの家…赤城家は、私すら知っているあの化粧品で有名な「赤城グループ」らしいけど、お母さんが再婚したとかで、ヒナは私と同じ常識を持っていた。
お金持ちに囲まれて過ごしていた私は、ヒナが転入してきたことを本当に嬉しくおもった。
そんなヒナのことを、ちょっと変だと思い出したのは、出会って一週間くらいたってから。
なぜか、私に「イケメン生徒会長」とか、「クール風紀委員長」とか、「無口図書委員長」とか、「クラスの爽やかイケメン」の居場所を尋ねてくるのだ。
そして不思議なことに、なぜか私はなんとなく居場所が分かってしまうのだった。
聞かれると、いつも「裏庭にいるよ」とか、「準備室だよ」とか、口が勝手に答えてしまう。
それを聞くと、いつもヒナはお礼も言わずに一目散にそこへ行ってしまった。
私はポツンと残されて、何だか友達なのに寂しいな、と思っていた。だんだん聞いてくる頻度は増えて、しまいには居場所を聞くとき以外話しかけてこなくなってしまった。
ふと気がつけば、ヒナはイケメンたちに囲まれて、学園の女子たちから妬まれる存在になっていた。
そこまではよかった。ただ、私が元のひとりぼっちになっただけだったから。
ある日登校すると、私の机にまるめた紙ゴミがばら撒かれていた。
ヒナに手を出せば、赤城家が怖いからと、なぜかヒナを妬む女の子たちが私に嫌がらせをはじめたようだった。
教科書や体操服がなくなったり、机にシャーペンで悪口をかかれたり、靴箱に紙を丸めたゴミを入れられたり(なぜかいつも真っ白な紙をまるめたものだった。汚いものは触りたくないのかもしれない)……お嬢様が多いからか、校風が厳しいからか、世間で問題になっているいじめの何倍もマシだったけど、それ自体より、私の反応を笑う声が、心の弱い私を追い詰めた。
ひそひそ、くすくす。
ずっと後ろから笑われてると、だんだん、何もかもが自分を笑っている気がしてくる。
学校をでても、電車の同い年くらいの子の笑い声が、自分を笑っているように感じるし、
後ろを歩いている人が、自分の悪口を言ってる気がする。
私に嫌がらせをする人たちに似た声を聞くたび、怖くて、怖くて、いつも早歩きで家に帰った。
食事が喉を通らない。明日が怖くて、眠れない。
朝。親に心配はかけられないから、今日もカバンの持ち手をぎりぎりと握り締めながら家を出る。
人が多いと息苦しくなってしまうから、早すぎる電車に乗って登校する。
まだ殆ど人のいない校舎を進んでいるうちに、ふと、「今日もまた、ST始まるまで寝たふりしなきゃいけないんだ」と思うと、足が勝手に教室とは反対の方向に向かった。
向かう先は、校舎の端の端にある第二体育館の、二階。狭くてあまり使わないここなら、誰も居ないはず……。
学校、さぼろう。
はじめてだし、真面目に生きてきたのにサボるだなんて、と思ってしまうけど、「これでいじめられない、それに、私に誰かの居場所聞けなくてヒナも困るんじゃ」と考えると、逆にワクワクしていた。
がちゃり――――――体育館に鍵はかかっていない。
誰かに見られるのが怖くて、急いで階段を駆け上がった。
「ははっ………やった、やったあ………」
私にはたったこれだけのことで、一仕事終えた感じがして、薄暗い二階で独り言を吐く。
「……何がですの?」
「ひぅっ!?」
後ろから聞こえた声に、思わず情けない声を上げて振り向く。
そこには、ハーフなのか、綺麗なふわふわの金色の髪の毛を肩のしたくらいまで伸ばし、青い透き通った目を持つ女の子がいた。
私よりすこし低い身長で、つり目がちでツンとした感じのその女の子は、まるで漫画のヒロインみたいで、思わず見惚れてしまう。
同じ制服じゃなきゃ、きっと妖精だって言われても信じてしまうかもしれない。
固まる私に、彼女が不思議そうな顔をする。
「あ、あ…………」
慌ててなんとかひねり出した声は、言葉になっていなかった。
何を言えばいいか分からなくて、目を泳がせてしまう。
い、言い訳しなきゃ。
「わ、わたし、あの、忘れ物――――――」
その時、スピーカーから音楽が流れる。
タタタタータータターーン…と、軽快なリズム。…うちの学校のチャイムだ。
「……一時間目、はじまってしまいましたけれど」
「…」
「……あなたも、サボりですの?」
「え、」
まさかこんなお嬢様!って見た目の女の子から『サボり』だなんて聞くなんて思わなくて、目を丸くしてしまう。
「あ、はい………」
「どうして?」
「……いじめ、られてまして………」
「ふぅん………」
彼女はそんな曖昧な声を出して、くる、と私に背を向けた。
「こっちの角にいれば、人がきても見つかりませんの」
「あ、そうなんですか……」
「わたくし、ちょうど暇してましたの。お話し相手になってくださる?」
そう言いながら、上半身を少しひねって、顔だけこちらに向ける彼女は、窓からさす日光に金の髪がきらめいて、なんというか、すごくカッコいい。
「ぜひ!お願いします!」
「じゃあ、そこの角のところで隠れて座りましょうか」
彼女に促されて、私は二階の端まで一緒に向かう。
言われた通り、曲がり角になっていて、一畳分くらいの空間がそこにあった。
使われてない割には埃っぽくなくて、私は彼女と窓際の段差に座り込む。
「やっぱりここは落ち着きますわね」
「私も、こういうところ、割と好きです。……何故こんなところにいらっしゃるんですか?」
「そうですわね………面倒なのですわ、周りの視線が」
そういって、彼女はふぅ、とため息を吐いた。
これだけ可愛かったら、男の子たちも放っておかないよね、と思ってじっと見つめていたら、彼女が続ける。
「…別に、あなたが思ってるようなことではありませんのよ」
「あっ、すいません、顔みすぎましたか。可愛くて……つい」
「別にいいですわ。嬉しいです」
ふふ、と微笑むと、ツンとした印象が和らいで、本当に妖精さんのようだ。
「私の婚約者が、とある女子生徒に夢中なのですけれど……
それを、ざまーみろ!と言わんばかりの視線を向けてくる女子生徒が多すぎて、嫌になってしまったの」
「なるほど…………」
「別に、わたくしはあんな浮気性、好きじゃないんですのよ。本当に、桐生の家がこちらに申し込んできたから仕方なしに受けた家同士の婚約で、こんな屈辱を味わうなんて」
「桐生……『イケメン生徒会長』、ですか?」
「その呼び方……あの女子生徒の独り言と同じですわ。彼女をご存知ですの?」
「私……その子のせいで、いじめられてるようなものなので……」
「あなた、もしかして…あぁ、あの女子生徒のせいで巻き込まれて虐められてるっていう…あなただったのね」
「あ、知ってらっしゃいましたか」
ぷんすか!って感じで愚痴っていた彼女が、真剣な表情でこちらを見つめてくる。
私はなんとなく目をそらしそうになる。…別に怖いとか思ってないけど、目を合わせるのってなんだか気まづい。
「……わたくし、あの浮気男へ屈辱を晴らしたいんですの。よかったら協力しません?
あの浮気男も、そしてあの女子生徒も……なかなかわたくしをなめてらっしゃるようですわ」
ふふふ、と黒い笑顔すら似合うから、美少女ってずるい。
私は、彼女のその言葉に、何も考えずに頷く。なんだか、彼女についていれば大丈夫だという、不思議な安心感を感じる。
「私に、何かできるか分かりませんけど………」
「少なくとも、わたくしよりあの女子生徒を知ってるはずですから、十分助かりますわ
…よろしくお願いしますね」
すっ、と差し出されたその手を、ためらいながら握る。
あたたかい手だ。久々に同世代の子に触れたかもしれない。最近は特に人と離れていたし。
「打倒!浮気男と、あの女子生徒!」
おー!と手をかかげる姿は、なんだか最初のイメージと違いすぎて、思わず笑ってしまった。
******
あれから約一ヶ月。例のあの場所。薄暗い二階の一畳ほどのその場所に、私と彼女はいる。
誰もいない第二体育館に、おーっほっほっ!と悪役みたいな笑い声が響く。
「おーっほっほっ!中々集まりましたわねっ!あなたの、女子生徒の囲いを見つける力、本当に助かりましたわ」
「私あんまり何もしてませんよ……私のいじめの証拠も全部集めてもらっちゃって、すいません」
「あなたのいじめの証拠は堂々としすぎて簡単に集まりましたもの。こんなに沢山の証拠が集まったのは、あなたのおかげですわ」
生徒会長たちの仕事をせずにヒナと遊ぶ映像―――そして、滞っている仕事や、周りの証言をまとめたもの―――私をいじめている女子生徒たちの情報―――ヒナを贔屓する教師の、出席日数の改竄の証拠―――ヒナが誰もいない階段から落ちる映像―――ヒナが自ら教科書を引き裂く映像―――。
そんなデータや動画の入ったCDやUSBを、彼女が誇らしげに窓から差し込む光に透かしてみていた。
「さて。午後の時間割、分かってらっしゃる?」
「えっと……午後から二時間は、集会です」
「集会の時間、わたくし、舞台に上がるように浮気男に呼び出されてますの。……あいつが何を考えているかなんて、なんとなく察しがつきますわ
ですから、今日、この集めたものを使いますわ」
「きょ、今日ですか!?」
「ふふ、これはチャンスですわよ」
最高のステージになりますわ、と微笑む彼女は…………なんとなく、『悪役令嬢』、という言葉が似合う気がした。
「あと5分でお昼休みが終わってしまいます。はやくそれを食べてしまって頂戴。いまから第二放送室で映像の準備をしに行きますわよ
…再生係は、頼みますわね」
「あ、もぐもぐ、はいっ!」
舞台に立つのは、私でなく彼女だけど、私の心はばくばくとうるさい音を立てていた。
いつもとは違う、「第一」体育館の二階。第二放送室。
イヤホンから聞こえる、罪のない彼女を責め立てる声。ガラスの向こうの下に広がるざわめく生徒たち。
『だから、お前がヒナをいじめたんだろう!』
『あら、なんのことですの?』
『いいんです……私……謝ってもらえたら、それで……』
『ヒナ……。こいつは、ヒナの友人まで酷い目に合わせたというのに』
『わたくしが、赤城さんのご友人にも何かしたと?』
『ヒナだけでなく、友人までいじめていたんだろう!』
『誤解ですわ。……その何も見えていない残念な目をお持ちな浮気男様には、ちゃんとお見せしなきゃわからないようね』
『うわっ……!?人をいじめるような奴に何故この俺がそんなことを言われなければならない!』
『はぁ……――――では、再生してくださる?』
彼女のその声を合図に、私は繋いでいるパソコンのEnterを、タン、と音を立てて思いっきり押した。
壇上のスクリーンに、映像が流れる。
『こ、こんなこと私してません!誤解です!』
ヒナの喚く声が、キンキンと頭に響いて、イヤホンから流れる音量をさげた。
ヒナの周りの男たちも、画面を見て呆然としている。
『こんなの、こんなの合成よ!私は―――』
『合成でないことは、ちゃんと専門家の方に調べて頂きました。ご確認ください。納得いかないのなら、データをお渡ししますから、そちらでももう一度確認してくださる?』
彼女が紙をヒナに渡すと、ヒナはそれをビリビリと破く。『もちろんコピーですわよ』と彼女が綺麗に微笑むと、ヒナはがくりと崩れ落ち、膝をついた。
『さて。桐生さん。
あなたがこの後言おうとしていたであろう婚約破棄は、こちらからさせて頂きますわ。
ただ、全てそちらのお父様に報告させて頂きましたので、それ相応の覚悟はなさっていてくださいね。
そして赤城さん。あなたの映像と……そして、正式なものではありませんがこっそりさせて頂いたDNA鑑定の結果を、あなたのお父様にお送りしました。
…あなたのお母様、嘘をおっしゃっていたようですね?身篭ったからと無理に結婚したらしいですけど、血のつながりはなかった………
この事実が分かったからには、赤城家はあなた方親子を許さないでしょうね』
彼女の言葉に、会長とヒナが青ざめて震えているのが、パソコンのモニターにうつる。
『赤城さんを追いかけまわしていた他の方も、婚約者のお家には連絡をさせていただきましたわ。ご自分だけ助かるなんて思わないでくださいね。
それと――――――』
あらかじめ言うのだと彼女から聞いていたのはここまでだったので、「それと」の後にいったい何が続くのだろう、と私は耳に集中した。
体育館に、彼女の美しく、まっすぐにとおる、凜とした声が響く。
『彼女―――「はるかさん」は、赤城さんのご友人ではなく、私の友人……いえ、大親友ですので、お間違いなく』
「―――――っ!!!!?」
私はガタガタッ!と椅子から立ち上がった。
はるか。
家族以外に呼ばれない私の下の名前を、彼女が……呼んだだけではない。私が大親友だって……
「…っ、もう、びっくりしちゃった……」
私は彼女のことが本当に大好きになっていて、でも、まさか、彼女も「友達」だと……「大親友」だと思っていてくれているなんて。
自己紹介もせずに関わり出したせいで、呼ぶに呼べなかった彼女の名前。
これが終わったら、頑張って、私から呼ぼう。
……ちゃん付けは馴れ馴れしいかな?さんの方がいいのかな…
「……なんでもいいか」
どんな呼び方でも、きっと彼女なら許してくれるだろう。
それに、私と彼女は、「大親友」―――らしいから。
真っ青な人や、不安げにしている人や、興味深げに壇上を見る人―――そんな学園生の中、この瞬間、ふにゃふにゃ緩みきった表情を浮かべていたのは、きっと私だけなのだろう。
書きたかったやつ長編しんどいからって奥義****つかいました。反省はしていない