別れ
超短いです
「私、引っ越しすることになったんだ」
彼女、伊織がそう話したが僕は何の反応もできずにいた。今日で小学校を卒業して、4月から制服にそでを通し、中学校という新しい環境で伊織や友人たちとの生活に胸を膨らませていた僕にとって衝撃的なものだった。
「そう、なんだ」
僕はそう返すのがやっとで自分がどんな顔をしているのか、何を話せばよいかもわからない。子供の足で会いに行くこともそう簡単ではない。せめて何か話をしなければ、次にいつ会えるかもわからない、そんなことは分かっているはずなのに言葉が出てこない。
「ごめんね」
伊織は少し泣きそうになりながら、僕に謝ってきた。
「謝ることじゃないよ、それより伊織はこれからだいじょうぶか?」
伊織はおとなしい性格でいつも僕の後をついてくるような女の子だった。いつも一緒にいる僕たちを男子から付き合ってるなどからかわれることもあった。そんな伊織がこれから僕がいなくても大丈夫なのか心配になった。
「大丈夫だよ」
伊織は僕を心配させないためか、少し笑顔を浮かべながらそう言った。
「手紙書くから」
「うん、待ってるね」
「また会えるよね」
「うん、きっと」
僕はもちろん、きっと伊織も、また会えるだろうと何の不安もなく、根拠もないくせにそう信じて疑わなかった。
そして一週間後に伊織は引っ越していった。