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「ある日」という日常のヒトコマ  作者: みここ・こーぎー
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1-7 悪魔祓い④

 少女は赤城一子あかぎ・いちこと名乗った。


 ところどころぼかしていたが、端的に言えば妹といっしょに暮らすためのお金が欲しかったそうだ。


 少女の能力は「金属を生み出す」ものであるらしく、それで「金」を見つけて複製するためにこの廃坑でいろいろとやっていたらしい。別に金鉱ではないらしいが、自分の力を強くしたり他の金属も欲しかったので自宅から一番近いここを根城にしていたらしい。

 佐渡銀山とか足尾銅山とかは? とか教科書情報を口にしたが、妹を一人にしておけないのでとりあえず近い場所から手を広げていたそうだ。「くず鉄」や「アルミ」を生成して少しずつ売って糊口をしのいでいたらしい。


 さすがに「楽園天国」パラダイス・ヘブンの規約だか規定だか約束で「○○を大量に作って流通させてはいけません。気づかれない程度にやれよ」というくっそ曖昧な決まりがあるので、そのあたりを加味してアルミをさばいているのだろう。


 そもそも意味もなく異能力で大量に物質をつくることは困難だ。

 そのだいたいは自分の集中力が切れるか時間経過で超劣化を起こす。少女がつくるアルミがまったく劣化しないのであれば、それはそれですごいことであるがそれ以上の意味はない。世間に知られてしまうとどこかに拉致される原因になりかねないのでさすがに口外するのは控えるつもりだ。


 というか普通の異能力は「集中力」か「マジックポイント」で異能力を使う。そのため「集中力」か「マジックポイント」が消失してしまうと消えてしまう。別に消えてなくなる必要はないのだが、そういうふうに考えてしまっているのでそういう結果が起こる。

 自分の考えの上でしか異能力は作用しない。


 話が逸れた。


 一子は魔王級の能力を持っている。

 やっていることはアルミをつくって売っている。

 俺がちょっかいをかけてきたので、喧嘩を吹っかけてきた。


 これがすべてらしい。


「そんなわけないじゃないか。雅弓、得意の精神干渉マインドハックで頭の中をすべて見たほうが手っ取り早いよ」


 すでに姿を現しているリキマルがすげーことを言った。その言葉を聞いた途端、一子が強痙攣するかのようにびくりと動く。そして絶望した眼をする。俺を正面に捉えて力いっぱい見開いた目の端に大量の涙を再度溜め始めた。いやいやと表情が見せている。表情どころか正座して膝に置いた腕が、肩が、背中がしゃくりあげるように泣き始めた。


 いや、やらないし。

 ついでにいえば精神干渉できるほど俺の精神操作は強くない。せいぜい、まったく無防備で抵抗をしないことを前提とした相手の思考に干渉するくらいだ。効果は「夢を見させる」程度だろうか。

 あと、ついでに言えば俺の目的は相手の思考を読むことを前提としているのでそんなすごいことはできない。洗脳マインドハックではなく思考閲覧リーディングと呼ぶべき技術だ。別に完成した技術ではないので雑でもある。


 ついでに得意でもない。


「無理だ。できないし、できてもやらない。やる必要がない。一子はこうして謝っているからな。別にこれ以上に何かをする必要なんかないだろう。お前もこれ以上はいじめるな」


「な!? 雅弓にここまでボコボコにしてこれで普通に家に帰すわけにはいかないだろう! しかも先に手を出したのはこいつだし、殺意を剥き出しにして攻撃してきたのもこいつだ! しかも最初に友好を現すためにあえて初撃を受けたと――」

「いや、その話は止めるんだ。どうでもいいんだ。止めるんだ」


 パンツを見ていて初撃を受けたとかどうしようもない。


「けど雅弓!」

「落ち着けよ。そもそも俺が敗北するはずがないだろう」


 死ぬことは死ぬだろうが。


「う、うん……」


 俺の強さを知っているからか、俺の言葉を受けて納得して溜飲を下げる。下がっているようには見えないがあのままだと一子が生きたまま八つ裂きにされるイメージが湧いてきたので、とりあえずリキマルの注意を逸らしておく。具体的に言えば俺に向けておく。


 そもそも俺が本気を出せばこんなやつはそんなに強いほうではない。

 出力的な問題ではなく、単純に相性差だ。相性差ではあるが俺の能力はほとんどの相手に対して優位に立てる。人間は暴力に弱い的なニュアンスのそれではあるが、今のところ本気を出せば負けたことはない。負けたことはないが、確実に勝てないであろう相手には喧嘩を売っていないのが効いている。


「まあいいさ。どうでも。一子、このまま帰っていいよ。ただし、この辺りで常識的な範疇で違法であると思うことをやったらまたくるからな。今度は適度に痛めつける。返事」


「――は、はい」


「雅弓!? それはダメ――」


「リキマル、黙れ。一子、わかったな?・・・・・・。俺の言っていることは」


 俺の言葉に一子が俺の目を見る。そして体をまさぐるように触り、一通り感知行為を行った後で恐怖に染まった顔でまた俺と視線を合わせる。


「俺は楽園天国に登録しているヒカミマサユミだ。何かあったらそこの受付と連絡を取れ。向こうが俺を知っている。質問がなければさっさと帰れ」


 俺の言葉で一子はゆっくりと立ち上がる。そう長い間は正座をしていなかったはずだが精神的に消耗しているのだろう。ふらふらと立ち上がる。


「ああ、やはり待て」


 俺の言葉に身を硬くする一子。同時に自分のセーラー服が破けていることを再確認したのだろう。軽く前を隠すように体をそむける。


「手を離して服を見せろ。だいじょうぶだ。別に肌に興味があるわけじゃない。抵抗するなよ」


 俺は利き腕ライトアームを使って一子の両腕をどける。優しくしたつもりだったが一子は体を強張らせて身を縮めようと体を丸めた。


「あ、あの。ごめんなさい……ごめんなさい……」


 俯きながら一子が嗚咽気味に謝罪の言葉を口にする。その言葉には俺に対する謝罪が含まれているというよりは後悔と懺悔の呻きに聞こえた。


「心配するな。興味はない。終わったぞ」


 まず最初に言うべきことがある。


 俺はゲイではない。


 ついでに言えば童貞である。


 性欲はある。


 俺は一子のセーラー服を修繕すると利き腕を解除する。一子のほうもそれに気が付いたのか、小さく呟くように「ありがとう」と、本当に小さく霞ませた。


 そして一子は何度も後ろにいる俺を気にしながら去っていった。


 これでたぶん解決するだろう。




 もう、「魔女の百鬼夜行ワイルドハント」は起きない、はず。




「あのさ、雅弓」


「なんだ」


 リキマルの呼びかけをしっかりと受け取ると、俺はいくつかの回答を用意しておく。リキマルが疑問に思うのもしかたない。


「百鬼夜行はあいつじゃあ、ないんじゃないか? たぶんあれだったらそれこそ通称である「軍団レギオン」って言われると思う。もしくは「騎士団リッター」って」


「俺さ、騎士団を「リッター」っていうのはどうかと思っているんだ。なんていうか、すごく厚みがない。たとえば「アイゼンリッター」とか「グリューンリッター」とかいうと雰囲気があっていいと思うんだけど、さすがに「リッター」だけだとちょっとおとなしすぎる。これって中二病かな?」


 今回、リキマルが持ってきた依頼は、こうだ。


 魔王「魔女の百鬼夜行ワイルドハント」が現れた。

 これを討伐されたし。

 場所は陣布にて。


 俺と瑞香の間にはいくつかの約束事がある。


 その一、依頼は断らない。

 その一、完遂するまで行う。

 その一、何も聞かない。


 この三つだ。

 これにより俺の不遜な態度や特別扱いを許してもらっている。

 また依頼により被害が出た場合も同じだ。別に問題とされない。

 何人死んだところで俺に法的措置が取られるわけではない。


 わけではないが、まあ被害は少ないほうがいい。

 だから、一子に任せた・・・・・・のだ。


 おそらく件の「魔女の百鬼夜行」は一子の妹だろう。

 授業中にも関わらず俺の遠見クレアボヤンスに対応した対遠見対策や、あのフットワークの軽さはそういうことだと思っている。あのままだと一子の妹にも遠見が伸びると思ったはずだ。少し前の被害からこうなることを一子は予想していたのだろう。たまたま最初に行った俺がこうやって戦っただけだの話なのだ。


 さすがに説得が失敗して妹がキレた場合はどうなるかわからない。すまないが市民には犠牲が出るだろう。


 だが、そうはならないはずだ。


 今までにどうにもなっていないので、明日から変わるわけでもないだろうが、なんとかなる予感がする。割と適当な感じな妄想空想の類の予感だが外れはしないはず。


 ……どうなのだろうか。

 不安要素をすべて排除して大多数を生き残らせることと、

 すべてを生き残らせるためにじゃんけんに負けるくらいの可能性で危険に晒すこと。


 どちらが正しいだろうか。


 まあ、俺も子供だからな。

 仕方あるまい。


 モラトリアムが構成されているうちに人生設計を行わなくてはならない。


「――ゆみ! 聞いてる!?」


「もちろんだ。だがそれは全部どうでもいいことだ。できるだけ人は殺したくない。殺すのはいつでもできる。そして不可逆だ。危険は付きまとうができるべきことからやっていこう」


「うそつき、ぜんぜん聞いてなかったくせに」


 おっとばれてる。

 いい加減に自動的に記憶を行って記録ログを残せる魔法を作らなくてはいけない。あれだけはみんなシステムが違っていて半分以上は自分で構成しなくては使えない。使いこなせない。


「それよりもリキマル」


「なに? オレ、怒ってるんだけど?」


「俺の家に来るか? どうせまともに学校にも行っていないんだろう。俺の家から通えよ。飯くらいはつくるぞ。俺の飯はうまいぞー。なんたって姉さんに鍛えられたからなー」


 うちの姉のご飯にはすべてオールエブリーエブリシングに砂糖を入れるので、自分で食べるものは自分で作らないといけない、という意味だ。

 また俺のせいで父親と母親は常に世界中を飛び回っているために常に家にいない。偉いやつに逆らうとこのようなことになるので、最近はさすがに控えてはいる。

 さすがに両親が常に仕事に駆り出されるとは思わなかったのだ。


 その事情を察しているからだろう。

 リキマルの反応は早かった。


「わかった! 行くよ!!」


 ちなみに俺ん家からリキマルの学校までは自転車で一時間ほどかかる。わりと近いと錯覚できる遠さである。俺たちは常人よりも脚力が高いことを付け加える。



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