第二十話
「ようこそいらっしゃいました。本日も女性の〈永久奴隷〉をお買い求めで?」
「ああ。さっそくだが、面会させて欲しい」
「かしこまりました。今呼んで参りますので、少々お待ちください」
そう言うと、奴隷商人は奥に引っ込んでいき、しばらくして、1人の女性を連れてきた。
スラッとしたモデル体型の女性だった。姿勢が美しく、歩き方に隙がない。亜麻色の長い髪をポニーテールにして纏めている。凛々しい顔つきに鋭い鳶色の瞳がその美しさを際立てている。
「ブリュンヒルデという。………あなたが私の主となる方か?」
「ああ。特に問題が無ければそうなる」
「問題か………問題ならあるのだがな」
「ここからは、私がご説明いたしましょう。このブリュンヒルデは封印の加護持ちなのでございます」
「封印の加護?」
「ときおり見られる生まれつきの封印で、封印を解除できれば強力な加護を得ることが出来るのでございます。ですが、それまでは封印によって能力が下がるのでございます」
「ほう、それで彼女はどんな封印を?」
「彼女は武器を扱う才能がありません。また、走ろうとするとすぐにこけてしまいます。彼女の家族は封印を解こうと躍起になったそうですが、どれもうまくいかず………それでも彼女はめげずに騎士の道を志したそうでございます」
「騎士に?」
「はい。なんでも彼女は由緒ある騎士の家系に生まれたそうでして。紆余曲折あって彼女は盾役として騎士団への入隊を許可されたのでございます」
「盾役?」
「はい。彼女はレアスキル〈鉄壁〉を持っているので。しかし、彼女が騎士団に入って1年もしない内に国境線で小競り合いが起きまして。彼女もそれに駆り出されたのですが、運悪く前線で孤立し、走れない彼女は撤退もままならず………有り体に言えば、敵軍に捕まってしまったのでございます。そのまま〈永久奴隷〉となり、当店にやって来た次第です」
「なるほど………」
とりあえず〈鑑定〉。
〈ブリュンヒルデ〉
年齢:16
Lv.1
種族:人間
職業:奴隷/戦士
体力:300/300
魔力:100/100
筋力:30
耐久:30
器用:0
敏捷:0
智慧:20
精神:20
レアスキル
〈鉄壁〉Lv.10
スキル
なし
加護
〈ヴァルキリーの封印〉
称号
〈努力家〉〈永久奴隷〉
〈戦士〉
容量10の職業。体力、筋力、耐久の成長率を40%上昇させる。
〈鉄壁〉
体力が減る行動全てについて、Lv.×2%のダメージを軽減する技能。
〈ヴァルキリーの封印〉
器用と敏捷が1000減少する。愛するものの口づけで封印が解ける。封印が解けると、種族が天人・戦乙女になる。
〈努力家〉
並々ならぬ努力によって目標を達成したものの称号。全てのステータスの成長率を20%上昇させる。
「いかがでございましょう、彼女は封印持ちですが、この美貌に処女です。5000万円でいかかでしょうか」
「ああ、わかった。それで手を打とう」
「まいどありがとうございます。それではさっそく契約いたしましょう」
こうして俺達は5人目の仲間、ブリュンヒルデを手に入れたのだった。
「それでは、改めて自己紹介から始めようか。俺はクウヤ・カザオカだ」
「エレミアといいます」
「シルヴィアであります」
「リサよ。よろしくね」
「ああ、わかった。ブリュンヒルデでは呼びにくいだろうから、ヒルダと呼んでくれ。………さっそくだが、質問してもいいだろうか」
「ああ。なんでも聞いてくれ」
「何故私を買ったのだ?見たところ主殿は実力ある冒険者のようだし、私では足手まといにしかならない。かといって、愛玩奴隷にするには私は無愛想だろう?」
「それはもちろん、封印を解く自信があるからだ」
「!なに!?それは本当か!?今まで何をやっても解けなかったのに………何故そう言い切れるのだ?」
「俺は〈鑑定〉スキルを持っている。〈ヴァルキリーの封印〉の詳細も分かるんだ」
「〈鑑定〉スキル!その黒髪黒目………〈異世界人〉か!」
「このくだり3度目だな………ああ、そうだ。俺は〈異世界人〉だ」
「なるほど………それならばその若さで大金を手にしているのも頷ける。それで、〈ヴァルキリーの封印〉を解く条件とは一体なんなのだ?」
「愛するものの口づけだ」
「ほうほう、愛するものの口づけか。それならば封印が解けなかったのも頷ける。私は色恋とは無縁だったからな。って………ええええええぇぇ!?」
「なんだ?何か問題でも?」
「も、も、も、問題だらけだろう!あ、愛するもののく、口づけなど、は、破廉恥だ。大体、相手がいないではないか!」
「相手ならここにいるだろ。俺だ!」
「な、な、な、にゃにをいっているのだ主殿!私は奴隷だぞ、主と奴隷が愛し合うにゃど………」
「あ、噛んだ」
「そ、それはどうでもよかろう!」
「どうでもよくはないさ。おかげでヒルダにも可愛いところがあると分かったからな」
「か、可愛いだと!?そ、そんなことは生まれて初めていわれたぞ」
「それにな、主と奴隷が愛し合う前例ならもうあるぞ。俺はこの3人を愛しているし、愛されていると実感している」
「な、なにっ!さ、3人ともか?ふ、不潔だっ!そ、そういうのは、1対1でだな………」
「大丈夫だ。迷宮都市では重婚も認められている。1対1がいいなら、今もそうだ。今俺はヒルダしか見ていない。いや、見えていない。………俺の愛を受け取ってはくれないか?」
「し、しかし私はこの通り男勝りだし、無愛想だし、男性に好かれる要素などどこにも………」
「無愛想なんてことはないさ。現に今百面相をしているしな」
「そ、それは、主殿のせいだろう!」
「それは嬉しいな。ヒルダにとって俺は特別ってことだろ?」
「と、特別もなにも、こういうのは生まれて初めての経験で、何がなにやら………」
「そうか。では落ち着くまで別の話をしよう。俺達はラビリンスの完全攻略を目指しているんだが………」
「そ、そうなのか。やはり願いを叶えるために………?」
「ああ、俺達の願いは〈永久奴隷の首輪〉を外すこと。それによって〈永久奴隷〉の称号を消すことだ」
「?それがなんの得になるのだ?」
「〈永久奴隷〉になると、生殖活動が止まるだろ。それが無くなれば子どもを産めるようになる。つまり………」
「つまり………?」
「俺の子どもを産んで欲しいってことだ。もちろんヒルダにもな」
「こ、こここ子どもだと!?しかしそんな………急にいわれても。そ、そうだ。お3方はどうお思いなのだ?こんなぽっと出の女、捨て置いてもいいと思わんか?」
「いいえ、ご主人様が見初めた相手ならば、何も言うことはありません。一緒に元気な赤ちゃんを産みましょう!」
「自分達はもう仲間であります。仲間外れはいけないのであります。大人しくご主人様のものになるといいであります」
「あたし達はみんなマスターに救ってもらった恩があるからね。文句はないわ。夜の戦いで負ける気はないけどね」
「う、うう………逃げ場がないではないか」
「逃げなくてもいいだろ。そんなに俺のことが嫌か?」
「そんなことはないっ!く、口説かれたのは初めてだが、悪い気はしない。自分でも不思議だが………」
「なら、試してみる分にはいいんじゃないか?どうせチャンスはいつでもあるんだからな」
「た、試してみるとは一体………?」
「もちろん、口づけだよ。接吻、キスともいうな」
「キス!?………し、しかし私はまだキスというものをしたことが………」
「じゃあ、これがファーストキスだな」
「ふ、ファーストもセカンドもない!だいたい私は………」
俺はヒルダを抱きしめた。
「あ………」
「ヒルダ、好きだ。俺を信じてくれないか」
「暖かいな………人の暖かさというものを長い間忘れていた気がする。主殿は………本当に私でいいのか?後悔するぞ」
「後悔なんてしないさ………俺がヒルダを選んだんだからな」
「主殿………わかった。私も覚悟を決めよう。主殿と共に生きる覚悟を………」
「ヒルダ………」
「主殿………」
俺はヒルダにキスをした。するとヒルダの全身が光り輝いた!光は背中に集中していき、何かが服を突き破った!
「おお、これは、天使の翼か」
「綺麗です」
「眩しいであります」
「見て、ヒルダの髪が………」
見ると、亜麻色の髪が金色に染まっていく。睫毛もだ。エレミアの金髪はやや緑がかっているが、ヒルダの金髪は純金で出来た金糸と見まがうほどの輝きを放っていた。やがて光が収まり、ヒルダが目を開けると、瞳も金色になっていた。
「あ、主殿、私はいったい?」
「ああ、〈ヴァルキリーの封印〉が解けて、種族が天人・戦乙女になったんだろう」
「そ、そうではなくて、この感情のうねりはいったい………ええい、もう我慢できん!」
すると、ヒルダは抱きついてキスしてきた。しかも、舌を絡めた本格的なディープキスだ。俺はギューッと抱きついておっぱいを押し付けてくるヒルダの舌を必死になってあやした。
「ぷはっ、い、いきなりどうしたんだ、ヒルダ?」
「主殿ぉ、さ、さきほどから、主殿を見ているだけで胸がドキドキして、頭がポーッとなって、下腹部が熱くなって仕方がないのだ………もう主殿のことしか考えられない、主殿が欲しい!」
するとまたヒルダがディープキスしてきた。
「だ、大丈夫ですか?ご主人様!」
「はわわ、スゴいであります」
「あらまあ、これは完全に発情しちゃってるわねえ。鎮めてあげるしかないんじゃないかしら」
リサの言葉もあり、俺は覚悟を決めてヒルダのボロボロになった服を剥ぎ取った!
「あん、主殿?なにを………?」
「ヒルダ、優しくするから許してくれ」
「ひゃっ!あ、主殿そこは………!」
俺はヒルダが気絶するまで昇天させた。
「ふうー、これでなんとかなるといいんだが」
「はうう、ご、ご主人様スゴいです」
「あわわ、あんなことになるなんて………であります」
「そうねえ、指だけでシてくれるっていうのもいいかもねえ」
あられもない姿で気絶しているヒルダを一応〈鑑定〉する。
〈ブリュンヒルデ〉
年齢:16
Lv.1
種族:天人・戦乙女
職業:奴隷/戦士
体力:10300/10300
魔力:100/100
筋力:1030
耐久:1030
器用:30
敏捷:30
智慧:20
精神:20
レアスキル
〈鉄壁〉Lv.10
スキル
なし
加護
〈ヴァルキリーの加護〉
称号
〈努力家〉〈永久奴隷〉〈異世界人の信愛〉
〈ヴァルキリーの加護〉
寿命が1000年延びる代わりに愛する人が死ぬと自分も死ぬ。体力が1万上昇し、筋力と耐久が1000上昇する。
「ステータスにおかしいところはないな………やっぱり、種族が変わったことによる反動かな」
すると、ヒルダが気がついたようだ。
「う、うーん。私はいったい………」
「お、もう大丈夫か?ヒルダ」
「あ、ああ。まだ主殿を見るとドキドキするが、耐えられないほどではない。むしろ心地よいというか………」
「あ、わかります。ご主人様のことを考えるとドキドキしてくるんですけど、同時に凄く安心するんです」
「自分もご主人様の臭いを嗅ぐと同じように感じるであります」
「うふふ、私達みんな揃ってマスターにメロメロってことね」
「そ、そうか。照れるな」
「そうだな、私はもう主殿にメロメロだ。主殿………先程は失礼した。今度は主殿も満足させるからな?」
「お、おう。さてと、ヒルダのものをいろいろと買い揃えなくてはならないが、その翼が出たままだと出歩けないだろう。スキルをコピーするから、人間に〈偽装〉してくれ」
「主殿?なにをいっているのだ?」
「こういうことだ。〈スキルコピー〉!」
「あっ、あうっ、な、なんだ、スキルの情報が一気に流れ込んできて………すごいな、一気に強くなった気がする。そうか、これが主殿のユニークスキル………」
「ほら、早く〈偽装〉しなさい。服は誰か貸してやってくれ」
「わ、わかった。〈偽装〉、人間!」
人間に〈偽装〉したヒルダは翼が無いだけで他に姿は変わらなかった。つまり、金髪金目のままということだ。まあ、似合っているからいいが。
ヒルダが着替えたらしい。ではいくか。
「すいませーん、アカシャさんいますかー」
「おや、クウヤか。今日は母ちゃんが出かけとるでのう、儂が店番じゃ」
「ああ、親父さんか。今日は新しい仲間を連れてきたよ」
「おお、そうかそうか。では、儂が装備を見繕ってやろう。そこの金髪のお嬢さんじゃな。おー、また別嬪さんじゃのー、この幸せ者が。お嬢さんは………盾役じゃな。ならあれがいいじゃろう。ちょっと待ちなされ」
そう言うと、親父さんは奥に引っ込んだ。しばらくすると、立派な盾を持ってきた。色合いが旭に似ている。ということは………
「親父さん、それもヒヒイロカネで出来ているのか?」
「おお、そうじゃとも。中にミスリルを仕込んだヒヒイロカネの盾じゃ。どんな攻撃でも耐えられる最高の盾じゃ。」
「旭でこいつに斬りかかったらどうなる?」
「反発する。ヒヒイロカネ同士はぶつかり合うと反発力を生じさせるのじゃよ。そのせいで斬りつけた側も受けた側も体勢を崩してしまう。完全なる引き分けじゃ」
「へえー。矛盾は生じないってわけか」
「うむ。それで、金髪のお嬢さんは得物は何にするね?見たところ、何に特化しているようには見えないが」
「あ、ああ。では片手槍でお願いする。昔から憧れがあったのだ」
「うむ。それではこのオリハルコンの片手槍じゃな。防具は、オリハルコンのプレートアーマーじゃ。お嬢さんなら使いこなせるじゃろう。しめて1億円じゃな」「ああ、わかった。ほい、朱金貨1枚」
「あ、主殿、いい武具すぎるような気がするのだが。すでに私より高いし」
「いいんだよ。俺はここより腕のいい武器・防具店を知らない。ここが最高の店なんだから、最高の武具を揃えるのは当然のことだ」
「わ、わかった」
「それじゃあ、親父さん、またくるね」
「おう、簡単に死ぬでないぞ」
そうして俺達は家路につくのだった。