第十話
俺達は宿屋の一室にいた。
「ご主人様、迷宮都市へ向かうのですか?」
「ああ、エレミアさえ良ければ、行こうと思っている」
「私は、もちろん構いませんが、なぜ?」
「迷宮都市、ラビリンスを攻略すれば、願いが叶うって言ってたろ」
「え?もしかしてご主人様、故郷へお戻りに………?」
「違うよ。故郷へは帰れないし、帰らない。………エレミア、〈永久奴隷の首輪〉は絶対に外せないんだよな?」
「はい。そのはずですが………」
「迷宮都市ならもしかして、いや駄目でもラビリンスを攻略すれば、〈永久奴隷の首輪〉を外せるんじゃないか?」
「ご主人様、まさか私が邪魔になったんですか!?」
「いやいやいや、違うって、邪魔になったんじゃなくてむしろその逆、エレミアにそばにいてほしいから、〈永久奴隷の首輪〉が邪魔なんだ」
「え?」
「その………〈永久奴隷〉になると、生殖能力が止まるだろ。〈永久奴隷の首輪〉が外せれば、〈永久奴隷〉じゃなくなって、生殖能力が復活すると思うんだよ」
「!!!………ご主人様、それは………そうかもしれませんが、なぜ?」
「勝手な話になるかもしれないけど………俺はエレミアとの子供が欲しい。そのうえで俺と一生一緒にいてほしい………つまりまあ、そういうことだ」
「ご、ご主人様!?そそそれって………」
「どうかな、エレミア。もちろんエレミアが嫌なら無理強いはしない。ラビリンスの攻略は危険が伴うし、それが嫌ならこのままどこかの街でのんびり暮らすのも、世界中旅して回るのでもいい。エレミアのしたいようにしてくれ」
「ずるいですよ。ご主人様………好きな人にそんなこと言われて、女の子が喜ばない訳ないじゃないですか。………もちろん、行きます、迷宮都市へ。ご主人様と一緒に!私も………私もご主人様の赤ちゃんが欲しいです!」
「エレミア………!」
「ご主人様………!」
俺はエレミアを抱きしめ、そのままベッドに押し倒した。
「キャッ!」
「エレミア………今夜は寝かさないぜ」
「もう、ご主人様のばか」
こうして夜は更けていった………。
それからの4日間、俺達は街中での仕事や、街の外での採取依頼に費やした。依頼自体には変わったことはなかったのだが、衝撃の事実が判明した。
エレミアの胸が………おっぱいが成長したのだ!具体的にはAカップからBカップに!これは大したことじゃないように聞こえるが、エルフの女性はそのほとんどが生涯Aカップらしく、Bカップは1割にも満たないという。
そういえば〈成長力強化〉の説明に肉体の成長を促進するとあった。まさかこんな素晴らしい効果があったとは。こ、これは伝説の巨乳エルフも夢じゃないかもしれん。
エレミアに下着………つまりはブラジャーを買い換えるのに付き合ってほしいと言われた俺は、もちろん行きましたとも。奴隷の衣食住を用意するのは主の勤め。何の問題もない。エレミアにちょっと大人な下着を選んでやると、恥ずかしそうにしていたが俺が選んだ下着も買ってくれた。いや、金出すのは俺なんだが。
その日の夜は俺の選んだ下着を着けてくれて、俺は感動した。そしてブラジャーとパンティーを創ったという3代目勇者様に感謝した。
様もつけますよ、そりゃ。その日は執拗におっぱいを攻めてしまった。刺激を与えるといいかもしれないからな!
話が脱線したが、今日は6月14日日曜日、迷宮都市への定期便が来る日である。大陸中央への旅とあって、迷宮都市まで高速馬車で2週間ちょうどの道のりらしい。
定期便だけあって護衛も専従しており、俺達は普通に乗車することになる。お一人様10万円とお高いが仕方がない。
定期便に乗り込むと護衛達が挨拶してきた。
「よお!兄ちゃんに嬢ちゃん。俺はこの護衛パーティーのリーダーをやってる、〈騎士〉のナインだ。これから2週間、よろしくな!」
「こちらこそ、よろしくお願いします。俺はクウヤ・カザオカ。こっちはエレミアです」
「かてぇなぁおい。迷宮都市へ行くってことは、お前さん達も資格を得た冒険者だろ。対等にいこうぜ。楽に話せよ。2週間は同じ飯を食う仲間なんだからな」
「わかりまし………わかった。よろしく、ナイン」
「おう!」
「ねーねー、私達も紹介してほしいんですけどー」
「ああ、すまねぇな。今紹介してやっから。このちっこいのが〈弓聖〉のチーナ」
「ちっこいいうな!」
「槍を持ってるメガネが〈槍聖〉のランスロット」
「よろしくお願いします」
「刀を腰に差しているのが〈剣聖〉のノブナガ」
「よろしくお頼み申す」
「人見知りで俺の後ろにいるのが〈探索者〉のサーシャ」
「よ、よろしくお、お願いします………」
「で、最後にローブを着ているオネーサンが〈魔導師〉のメイサだ」
「よろしくね。ボウヤ」
「ああ、よろしく、みんな」
〈鑑定〉によると、ノブナガが〈刀術〉、メイサが〈連続魔法〉を持っていた。すかさず〈スキルコピー〉しておく。
「そろそろ出発いたしますよー」
「おっ、出発か。しっかり捕まっておけよ。最初はびっくりするぞ」
「え?」
「ファストスピード!」
「〈強化魔法〉!?」
「出発進行!」
御者が手綱を引くと、馬車がものすごいスピードで走り出した!
「うわわわわ!こ、こんなスピードだして大丈夫なのか?」
「この馬車は特別頑丈だから大丈夫だ!」
「馬は!?こんなにスピードだしたらすぐにばてて………」
「この馬達は高レベルだから大丈夫だ!それに疲れたら〈光魔法〉で回復させる!」
「高速馬車って、そういうことかぁー!」
俺の叫びが空しく響いていった。
高速馬車の旅が始まって10日間、巨大な渓谷に差し掛かった所でそれは現れた。
「岩が道をふさいでる?」
そう、巨大な、直径10メートルほどの大岩が道のど真ん中に鎮座していたのだ。
「参ったな、これじゃ進めねえ。おい、メイサ。魔法でなんとかならねぇか」
「うーんそうねえ。ちょっと時間はかかるけど、なんとかなりそうだわ。エレミアちゃんも手伝ってくれる?」
「はい。かまいませんよ」
「!まて!なにかが近づいてくる」
「なに?サーシャ、お前はなにか感じるか?」
「い、いえ、ま、まだなにも………!!!け、〈気配察知〉に反応!数は20、40、80、100以上!」
「な、なにぃ!?マジでか!」
「マジです、大マジです~!」
「あ、あのさー友好的なやつって可能性は………」
「………ないようですよ」
「うむ。邪な気配がするでござる」
渓谷の縁の茂みから、ぞろぞろとガラの悪い男達が出てきた。それぞれがニヤニヤと笑っていてとても友好的には見えない。
「グェッヘッヘッへ。おい、お前ら、金目のものを置いてきな。代金しだいじゃここを通してやってもいいぜ」
「そんなこといって、助けてやったことなんてないじゃねぇかよ!」
「バッカ、ノリだよノリ。一度いってみたかったんだよ」
「ギャハハハハハ!」
品のない笑い声を上げる山賊達。
「どうします、この状況、かなりマズいですよ」
「うむ。男は皆殺し、女は死ぬまで性奴隷が関の山でござるな」
「せ、性奴隷………は、はわわわわわ」
「ジョーダンじゃないわよ!なんであたしが性奴隷なんかに!」
「そうねえ。ワタシもあの人達はタイプじゃないわ」
「へっなら話は決まりだ。こいつら全員まとめてふんじばって、溜め込んだお宝奪い返してやろうぜ。………悪いな、兄ちゃん、嬢ちゃん。あんたらは必ず逃がすからよ」
「いや、その必要はない」
「んぁ?お、おい」
「いくぞ、エレミアは左、俺は右だ」
「かしこまりました」
俺達は山賊達の前に身を晒した。
「なんだぁ、やんのかガキ、この人数相手にやる気かよ!」
「黙れクズども、耳が腐る」
「なんだとコラ、やっちまえ!」
山賊達が唸りをあげながら殺到してきた。
「いくぞエレミア!」
「はい!」
〈連続魔法〉を発動!〈水魔法〉最大出力×100!
「「タイダルウェーブ×2!」」
魔力11000を使って生み出された100トンの水の塊が山賊達を押し流す!
「う、うわあ、に、逃げ、ぐわああああ!」
「な、なんてバカげた魔力なの!?」
「でも待って、ここは渓谷なんだから、水は壁に当たって………」
「「「「「「戻ってきたああああ!」」」」」」
「大丈夫!」
「「アイスフロアー×2!」」
山賊達ごと戻ってきた水を一気に凍らせる!
俺は近くで顔だけだして凍っている山賊に剣を突きつけた。
「さーて、アジトがどこか吐いてもらおうか」
「こ、殺すなら殺しやがれ!」
「ま、放っておいても低体温症で死ぬんだが………こういうときはあれだな。………〈奴隷の首輪〉!」
「げぇっ!」
「コントラクト!」
俺と山賊の間に契約が結ばれ、主従関係となる。俺は山賊の周りの氷を溶かしてやった。
「命令だ。お前らのアジトへ連れていけ」
「くそがっ!わかったよ!」
俺がアジトへ向かおうとすると、
「待ってくれ!俺達も一緒にいくぜ。兄ちゃんには足手まといかもしんねーが、山賊どもをふんじばってやるには人手がいるはずだぜ」
「………わかった。一緒に行こう」
「おし、じゃあ、ランスロットとノブナガ、一緒に来い。チーナとサーシャとメイサは留守番だ」
「はあ、わかりましたよ」
「承知したでござる」
「はあっ!?ちょっと、あたしもこいつらの親玉に一言いってやりたいことが………」
「だーめーだー。よい子はいい子にして待っていな」
「子ども扱いすんなっての!あたしはこれでももう成人なんだからね!」
「よ、よしましょうよ、チーナさん。お、おとなしく待っていましょう?」
「そうよーこいつらの〈ステータスカード〉を回収しなくちゃだし。こっちも人手がいるわよ」
「うぐっ………しょうがないなあ。………なるべく早く戻ってきなさいよね」
「おう!わーってるっての」
「エレミアもここで待っていてくれ。みんなの護衛と手伝いを頼む」
「かしこまりました。ご主人様」
俺達は山賊のアジトに来ていた。ついでにいうとすでに制圧済みだ。しかし………。
「これは………」
「こいつが、山賊に襲われたものの末路ってやつだ、兄ちゃん」
そこは腐った卵のような腐臭とイカ臭さが混じったような臭いが充満していた。女達は一様に生気を失っており、首には〈奴隷の首輪〉が填められていた。
「おい、嬢ちゃん達、助けに来たぜ。〈契約魔法〉の使い手もいる。あんたらはもう自由だ」
「じ…ゆ…う…?なら、死なせてください。私を………私達を殺して」
するとそこら中からうめき声のように殺してという声がしてきた。
「これが………現実だ、兄ちゃん。どんなに頑張って犯罪者達をぶっ殺そうとも、被害者達の心は晴れやしねえのさ。こういう時は、心を鬼にして………願いを聞いてやるに限る」
そういってナインは剣を振り下ろそうとした。
「待てよ」
「………なんだ、兄ちゃん。青臭い理想論なら聞き飽きて………」
「違う。山賊どもをやっつけたのは俺だ。だからこいつらの所有権は俺にある。………処分するのは俺の義務だ」
「ぶわっはっはっは!ギム、義務ねえ、おもしれえこというじゃねえか。………悪いな、兄ちゃん」
俺は女達に近づくと、
「殺して………殺して………」
「今楽にしてやる」
剣を振り下ろした。
部屋の中をあらかた片づけた俺は、あることに気がついた。
「まだ、〈気配察知〉に反応がある」
「なんですって?もしや山賊の残党でしょうか」
「いや、反応はごく小さい。これは………その戸棚の中だ」
「なんだって!?こりゃあもしかして………」
ナインが戸棚をこじ開けた。そこには、10歳くらいの女の子がいた。




