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♯6 大人は良いベッドを子供に譲るもの






 ツンケンとしたぼっち娘で、物事に関して無関心な人物だと思っていたが、ユーリ・グーデリアもやはり、普通の女の子だったらしい。

 暴漢に狙われたという事実は、それなりにショッキングだったのだろう。

 あの後、ジョウの言葉に渋々ながら、従う素振りを見せてくれた。


 従順と呼ぶには素っ気なさ過ぎると言うか、年上を全く敬わってないと言うか、基本受け答えに対しては「はい」か「いいえ」の二択。別の言葉を発したかと思えば、思春期特有の斜に構えた恨み言ばかり。

 子供嫌いのジョウには、正直うんざりと言わざるを得ない。


 けれど、ユーリが子供ならば、ジョウは大人だ。

 やりたくない仕事でもキッチリこなさねば、日々の糧を得る資格は無い。

 相手がクライアントの娘なら、それは尚更だ。

 わかっていても割り切れない、感情のジレンマを抱くのも、また大人なのだが。


 キャシーによって事前に預かっていた必要経費を使って、宿を二部屋分取って一夜を明かした翌日。夕食後に部屋を別れた以降、顔を合わせていないユーリをそのままに、ジョウは朝食で賑わう一階の、食堂があるフロアまで降りてきた。

 目的は食事では無く、受付で貸し出している電話機を利用する為だ。

 事務的な態度しか見せない受付の男に、紙幣を何枚か手渡すと、無愛想な顔でジョウをジロッと見てから、卓の下に置いてあった黒電話を前に差し出す。


「はい、どうも」


 礼を述べてから、受話器を取るとダイヤルを回す。

 電子的な呼び出し音が鳴り響く。

 元々は州の軍部が独占していた技術も、こうして民間に開放されて以降は、特殊な無線機を使わずとも気軽に遠方と声でやり取りできるようになった。まだ一般家庭などには普及して無いのと、通話料が少しお高いのが玉にきずなのだが。

 数秒、呼び出し音が続いた後、ブツッと通話回線が繋がる。


『はい。ギルド空撃社』

「ああ、キャシー。俺だ」

『……ああ、ジョウね』


 電話の相手がジョウだとわかると営業用の作った声から、地声の少し気だるげな口調へと変わる。


「おいおい。相手が身内だからって気を抜きすぎだろう。シャンとしろ」

『こっちは徹夜明けなのよ……誰かさんが無茶難題を並べた所為でね』

「そりゃ難儀したな。世の中には困った男がいたモンだ」

『……誰も男だなんて言ってないけど』


 露骨な誤魔化しに、電話口からは眠そうな欠伸が聞こえた。

 折角の電話中、寝落ちされたら通話料金が余計にかかってしまう。

 フロントのカウンターに片肘を付くと、早速本題に入る。


「それで、何かわかったか?」

『はふぅ。わかるにはわかったけど……』


 欠伸を噛み殺しながらの、歯切れの悪い反応が返ってきた。

 何か言い辛い事があるのだろう。口籠るような気配が伝わる。

 彼女とは長い付き合いだ。面倒事が起きたのだと言う事は、口調で容易に想像がつく。


「何を言われたんだ、ハッキリしろ。クライアントと連絡はつけられたんだろ?」

『それは問題無いわ。でも、その……ねぇ? 内容がちょっと頭の痛い状況になってて。貴方、聞いたら絶対に怒るでしょ?』

「聞いてみない事には判断出来ないな」


 そう言って怒らなかった試しが無いじゃないと、キャシーの呟きが漏れる。

 長い付き合いだけあって、言う前から相手の反応などわかり切っているようだ。

 それはジョウも同様。彼女が怒ると口に出したのだから、あまりよろしくない内容なのは、容易に察しがついた。

 やれやれと肩を竦め、ジョウは自分の額を指先で摩る。


「善処はしてみよう。それで? ガキにかけられた懸賞金や、今回の依頼内容について、クライアントの父親は何て言ってるんだ」

『単刀直入に言えば、依頼は継続中よ。現在進行形でね』

「……どういう意味だ?」


 眉間の皺が深くなり、問う声にも険が増す。


『言葉通りに意味よ。依頼内容はユーリ・グーデリアの保護。これはグーデリア重工側にユーリの身柄を預けた時点で、クエストは完了と見なされ報酬が支払われる方式なの』

「つまり、空賊連中から助けただけじゃ不十分って事か?」

『そうよ。ただ、今回の問題点はそこでは無いの』


 用意した資料なのだろう。紙のような物を捲る音が聞こえた。


『元々この依頼は、空撃社への直接的な持ち込み以外にも、複数のギルドへ多重依頼。後は情報誌に広告を出しての、広域依頼も使われているわね』

「その時点で妙だな」


 娘が空賊に誘拐されるだなんて一大事件だ。

 普通だったら警察。もしくは一足飛びで軍だが、いお役所仕事は腰が重すぎる。

 纏まった金を持つ人間なら、警察や軍よりフットワークの軽いギルド関係に依頼する事は珍しい事では無いだろう。


 しかし、お世辞にも治安が良いと言えないこのご時世、ギルドは星の数ほど存在する。

 中には犯罪組織紛いのアウトロー集団もいるので、普通だったら信頼のおける大手ギルドか、誰かに紹介して貰ったギルドに頼るのが普通だろう。


「広域依頼を出される対象なんて、賞金首か行方不明のペットくらいなモンだ」

『もっと奇妙なのは昨日……正確に言えば恐らく、貴方がユーリを確保した時点ね。上げられた依頼内容が更新されたわ』

「更新だって?」

『そう……目標の生死は問わない。ってね』

「……そう言えば、んな事を言ってやがったな」


 長電話に段々と視線が険しくなってきた受付に、新たな紙幣を一枚渡してから、ジョウは話を続ける。


『是が非でも娘を取り戻したい親の気持ちって言うには、些か表現が乱暴すぎるわね』

「クライアントは父親なんだろ。その辺りの事、聞いてないのか?」

『聞くには聞いたけど、ノーコメント。納得できないなら、契約を解除しても結構だ。何て言われちゃうと、押す手が弱まっちゃうわよ』

「世知辛い世の中だねぇ……まぁ、概要はわかった。ガキの保護自体に変更が無いなら話は簡単だ。クライアントにガキを引き取って貰える手筈は、ついてんのかよ?」

『……それがぁ』


 再びキャシーは言いよどむ。

 どうやらここからが本当の、説明したら怒る事、なのだろう。


『現在、父親であるグーデリア重工社長は、遠方へ視察中に付き対応が出来ないそうよ』

「…………」


 思わず、ジョウは言葉を失ってしまう。

 大企業の社長ともなれば、身内の死に目にも会えない場合もあるだろう。

 人でなしと口で非難するのは簡単だが、人の責任というモノは時として、情よりも優先されるべき場合もある。しかし、対応が出来ないと言うなら話は別だ。それではまるで、帰ってきて貰っては困るように聞こえる。


 ジョウの脳裏に、ツンケンとした態度のユーリが思い浮かぶ。

 同時に、あまり考えたくも無い想像も過った。

 娘殺し。考えただけで、吐き気を催す単語だ。


「……単純な仕事かと思ってたが、どうやらババ引いたかもしれんな」

『そうなのよね』


 似たような考えに至ったキャシーも、湿っぽい声を漏らす。


「グーデリアの関連会社に押し付けちまうか」

『門前払いされるのが関の山でしょうね。私達が保護した事自体は伝わってるから、下手に何かあった場合、賠償責任を取らされるかも……』


 人一人の値段を金銭に換算して、キャシーは声を震わせる。


『クライアント……父親が何をしたいのか意味不明だけれど、今お嬢ちゃんを手放すのは危険だわ』

「手元に置いて守っとけってか? 賞金に目がくらんだ亡者共を追い払いながら? 冗談言うな。提示された報酬以上の手間暇で、こっちは大赤字だ」


 コンコンと拳でカウンターを叩き再び電話代を催促する受付を無視して、ジョウは大袈裟な声を上げながら、睨み付けられる視線とは反対の方に身体を向けた。

 電話口からは困った様子が伝わるが、半分は予想通りだったのか驚きは無い。


『じゃあどうするつもりなの? 言っておきますけど、依頼の破棄は賠償金を請求するからね?』

「依頼をさっさと終わらせればいい」

『……どうやって?』


 ニッと、ジョウは頬を吊り上げた。


「忙しってんなら、父親の元に直接送り届けるだけさ」

『直接って……』


 何かを言いかけた瞬間、激しい爆発音が安宿の上から轟いた。

 木造建ての建物全体が振動し、ギシギシと耳障りな軋みをそこら中から奏でる。食堂かは客や店員達の悲鳴と共に、皿などの食器が割れる音が響き、爆発の影響は音の残響だけでなく、たっぷり一分近く安宿を揺らし続けた。


 天井から降ってきた埃が煙のようになって、周囲の視界を僅かに白く染める。

 何処からか焦げ臭い匂いがするのは、爆発が起こった二階部分が炎上しているのだろう。


「おいおい。乱暴過ぎるんじゃないの? ここまでするかね普通」


 フロントに立っていた受付やロビーの客が頭を抱え床に伏せる中、カウンターに寄りかかり受話器を耳に当てた態勢のまま、ジョウはグルッと煙が立ち込め始めた周囲を見回した。

 辛うじて生きていた回線から、ノイズ混じりにキャシーの焦った声が聞こえる。


『――ちょ!? すっごい音聞こえたんだけど……大丈夫なの!? 賠償金は!?』

「心配すんな。追っ手に俺が借りた部屋事、爆破されただけだ」

『それっ、大丈夫じゃないから!? せめて言い訳が利くよう死体だけでも……』

「余計な事を考えて無いで、お前は社長が今、何処にいるのか調べておけ。じゃ、また後で連絡する……愛してるぜキャシー」

『――ちょっ、まっ!?』


 返事を待たず、受話器を下ろす前に回線が限界を迎えブツッと通話が切れる。

 音すら鳴らなくなった受話器を投げ捨てると、舞い上がった埃が治まった代わりに、二階から黒煙が降りてきて、逃げ惑う客と店員で阿鼻叫喚の絵図となった安宿から、ズボンのポケットに両手を突っ込んで外へと小走りに飛び出た。


 入り口を出ると正面の通りは、何事が起ったのかと人だかりが出来ていた。

 見上げれば宿の二階。ちょうど、ジョウが取った部屋の部分から、赤い炎と共に黒煙が立ち上っている。

 怠惰に惰眠をむさぼっていたら、今頃はお陀仏だっただろう。


「さて、と」


 必死の形相で逃げ惑う人の流れに乗りながら、ジョウは周囲に気配を払いつつ炎上する安宿から離れていく。

 その足で向かった先は、安宿を出て右手に三分ほど進んだ場所にある建物。

 先ほどの宿より二つはランクの高い、中級のホテルだ。


「ども。お疲れさん」


 爆発音を聞きつけ、何事が起ったのかと外に飛び出して来たホテルマンに軽く挨拶しながら、ジョウは何食わぬ顔でホテルの中へと足を踏み入れる。

 そこそこ値段の張るホテルだけあって、安宿とく違う落ち着きのあるロビーだ。

 往来する客達は多少、戸惑ってはいたようだが、外で起こった爆発を大きく気にする様子は見られない。


「対岸の火事。ってヤツかな」


 目と鼻の先で事件が起きたというのに、呑気な連中だと周囲を一瞥する。

 所詮は自身に被害の及ばないところでの他人事。これが普通、当然なのだ。

 フロントに近づくとジョウは受付担当を呼ぶように、カウンターを数回叩いた。


「はい」

「ギルド空撃社の者だ」

「かしこまりました。少々お待ちを」


 安宿の受付担当とは正反対の紳士的な態度で一礼すると、後ろに複数ぶら下げられている鍵の中から一つを手に取り、ジョウの目の前に差し出した。


「お預かりしていまいた鍵です。後一時間ほどでチェックアウトになりますので」

「了解」


 鍵を受け取ると、ジョウはその足で階段へ。

 現在進行形で起こっている近隣の爆発事故とは無縁の、静かで落ち着きのあるホテルの階段を三階まで一気に登り、右に曲がって二つ目の部屋の前に立つ。

 ノックをする前に、鍵穴をチェックする。


「強引にこじ開けようとした形跡は無し」


 一応、周囲の様子を確認して安全を確保してから、ドアをノックする。


「俺だ。開けるぞ」


 フロントで受け取った鍵を差し込み、軽く回してロックを解除。

 すると、ジョウがノブを握るより早く、内側からドアが開かれた。

 チェーンがかかり大きく開かないドアの隙間から、訝しげな顔を覗かせるのは、問題の対象であるユーリ・グーデリアだった。

 眠れなかったのか、腫れぼったい目がジョウを見上げる。


「……随分と外が騒がしいみたいだけれど?」

「お前が気にする必要は無いさ。出かけるぞ。さっさと顔を洗って、服を着替えてこい」

「出かけるって、何処へ?」


 指で擦りながらの視線に、明らかな不信感が滲み出る。

 誰の為にやってるんだよ。という感情を飲み込みつつ、ジョウは上を指差した。

 怪しむようなユーリの瞳が、指に釣られて上を向く。


「上?」

「そう。空の旅にご招待、さ」




 ★☆★☆★☆




 人類の技術を劇的に進化させた魔導革命から四十年。

 剣や魔法に成り代わり戦場の主役として戦ってきた魔導機兵も、大陸間の戦争が終結し行き場を無くして以降は、そのあり方も少しずつ変わってきた。


 クラスランド連邦州国家。

 歴史上、初の大陸統一国家は、連邦議会制という形を樹立。

 それにともない、戦後悪化する治安の回復や増え続ける空賊、暗部組織に対抗するべく国家に縛られないギルドが活躍する事になる。

 魔導技術が一般開放された事もあり、魔導機兵達は新時代の冒険者達の剣、あるいは魔法として重用される事となった。


 その中であっても空戦機と呼ばれる機体は、非常に珍しい物だと言えるだろう。

 空戦を想定している為、機体は限界まで軽量化され、一般的な機兵より一回り以上小さいが機兵は機兵。町のど真ん中に置いておくにはデカすぎる。大きい町なら専用のガレージが貸し出されているので、個人の機兵乗りは金を払い場所を借りるのが一般的だ。


 幸いこの町には貸しガレージ屋が存在しているので、ジョウの愛機はそこで預かって貰っていた。

 ギルドから経費が出ているので、貧乏人のお財布にも優しい。

 立ち並ぶガレージの一つから地響きを鳴らして姿を現すは、ジョウの相棒にして愛機。

 背中にM字型のウイングを装着した、黒い装甲の空戦機兵だ。


 ガレージの正面は大きな魔導機兵が自由に往来出来るよう、運動場のような広いスペースになっている。

 そこにポツンと一人立ち尽くすユーリは、首を真上に傾け現れた機兵を見つめていた。

 無愛想で斜に構えた少女と同一とは思えぬほど、瞳を子供のように輝かせて。


「……マークⅦ、バッドラック……まさか、動いている実機を生で見られる日がくるなんて」


 信じられないと、陶酔した声で呟いた。

 そわそわと落ち着かない様子を見せながら、完全に停止したのを確認して、ユーリは待ちきれないとばかりにバッドラックへと近づく。

 きゅぃぃぃんと、機械的なエンジン音とは違う駆動音に、ユーリはハッとした顔をする。


「この音、通常の魔導炉と違う。……まさか、精霊石から作られた純正の魔導炉を使用しているの?」


 ゴクリと喉を鳴らして、ユーリは起動したばかりで、まだ熱の宿らない表面装甲を指でそっと撫でる。

 確かな感触に頬が自然と緩み、もう一度バッドラックを見上げた。


「凄い。このなだらかな感触……装甲の表面にまで、空を飛ぶ事を計算して作られているのね」


 グーデリア重工は、飛行船の製造技術で成り上がった企業だ。

 幼い頃から飛行船や航空機、空戦機に至るまで様々な空を飛ぶ機体と関わって来たユーリだからこそ、バッドラックが如何に空を飛ぶ事に特化し優れた機体であるか、十分過ぎるほど理解出来る。

 同時にこの機体が、如何に尖がったピーキーなモノかも、一目で判別出来た。


「昔見た資料と比べると、デザインが少し違うわね……恐らく、中身もかなりカスタマイズされているのでしょうね」


 空賊と戦った時の、バッドラックの軌道を思い出す。

 バッドラックは三度のトライアウトに失敗した曰く付きの一品。

 だが、ユーリが見る限り、加速力、機動性、様々な面で公表されているカタログスペックをオーバーしているだろう。


「ウィザードの……パイロットの腕も、あるんでしょうね」


 言った後で悔しくなったのか、ユーリは下唇を軽く噛み締めた。

 それでも幻と言われた伝説の空戦機が、カスタマイズされているとはいえ目の前に存在するという事実に、不機嫌さは直ぐに薄れ、再び頬が緩んでしまう。

 傍から見ればユーリは、少し気持ち悪い笑みを浮かべていることだろう。


「いいなぁ……格好いいなぁ……」


 吐息を漏らしながら、ユーリはバッドラックの装甲を撫でまわす。

 堪らず無意識の内に顔が近づき、頬ずりをしそうになった瞬間、外部スピーカーを通してジョウの咳払いをする音が響いた。


「――ひうっ!?」


 我に返り慌ててバッドラックから飛び退く。

 体裁を整えるよう自分の頬を両手で叩いていると、バッドラックの胸部が開閉し、中の操縦席から呆れた様子のジョウが顔を覗かせた。

 見上げるユーリは気恥ずかしさから、より一層不機嫌な表情を作る。


「……何を見ているのかしら?」

「いえいえ。ご満足いただけましたか。お嬢様?」

「――ッ!?」


 恥ずかしさと怒りで顔を真っ赤に染めたユーリは、足元に転がっている石ころを拾い上げ、操縦席に向かって投げつけようとするが、寸前で機体に傷が付くと思ったのだろう。

 歯噛みするよう口をモゴモゴ動かしてから。


「――もうッ!?」


 八つ当たりするように、石を明後日の方向に投げ捨てた。

 先ほどまでのキラキラとした表情は何処へやら。

 これまで通りの無愛想で不機嫌な色を表情に張り付けると、ユーリは舌打ちを鳴らしながらスカートのポケットに手を突っ込んだ。


 魔導機兵の正面に佇む、セーラー服を着た女の子。

 改めて見ると、何とも奇妙な光景だろう。

 そんなに恥ずかしがる事無いのにと、開かれた操縦席の上からジョウが苦笑交じりに肩を竦めた。


「さて、お嬢様。ご機嫌が麗しいようなら、そろそろ出発と参りましょうや」

「……出発? 私を何処に連れ込むつもりかしら?」

 恥ずかしい場面を見られたからか、見上げる視線はより一層険しいモノとなる。

「生憎と愛想の悪いメスガキを苛めて遊ぶ趣味は無いんでね。同じ遊ぶなら、愛想も技術もある商売女としけこみたいモンだ」

「最ッ低!」


 吐き捨てるような言葉に、ジョウはククッと笑ってから身体を起こす。


「冗談は此処までだ……お仕事の続き。お前を親父のところまで連れて行く。ガレージの管理人が追加の請求書を持ってくる前に、さっさと乗ってくれ」

「ぱ……父さんの?」

「そう。パパの」


 耳聡く失言を嗅ぎ付け、からかうような言葉に、ユーリは苛立つように舌打ちを鳴らす。

 それだけで暴言に続かなかったのは、自分でも失言だと理解していたからだ。


「…………」

「な、なんだよ。もしかして本気で怒ったのか?」


 黙りこくる姿に、ジョウは軽く戸惑いを見せる。


「軽い冗談じゃないか。んな目くじら立てんでも……」

「ねぇ」


 言い訳染みた言葉を遮るよう、ユーリは固い口調と共に見上げた。

 そしてジョウに向ける視線をスッと細めると。


「これ、どうやって乗るのかしら?」

「……今お迎えにあがりますよ、お嬢様」


 大きく息を付きながら操縦桿を握り、乗り込みやすい態勢を作る為、バッドラックを動かした。





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