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CASE9:似ている者

部屋の豪華さに驚き見渡しているリンとは違い、トーマはソファーに腰掛けた今朝の子どもに目を奪われている。


「お前は! 今朝のガキ?!」

「ん? 私はお前のような輩は知らんぞ! それよりダブジ、ほんとにこんな腑抜けに私を送らせるつもりか?」

指差し驚く彼に対して、その小さな足と腕を組むと不満たっぷりな表情を浮かべている。


「腑抜けってこんガキ〜!」

「まぁまぁトーマはちょっと黙ってよ。そんなことよりダブジ、この子が社長なの?」

子ども相手に大人気ない発言をする彼をなだめながら、依頼主である女の子に対しての疑問をダブジに投げかけている。


「やはりな、そこは気になるか。まぁ、信じられないだろうがこの子は…」

「私はワンダラーユニオン社3代目社長、コンスタンス・プリゼ・ファリアスだ!」

ダブジの声を遮った女の子の声に、トーマとリンは驚きの表情を隠しきれないようだ。

いくら社長が若くてもせいぜい10代後半だ。

しかし、社長と名乗る女の子は顔、名前ともに立派ではあるが、どうみても12,3歳なのである。


「こいつが天下の3大企業の1つ、ワンダラーユニオンの社長だって? ダブジお前騙されてるんじゃ?」

トーマが疑り深く彼の詰め寄っている。

ファリアスは腕組をしながら2人のやりとりを聞いている。


「この仕事に依頼主の地位は必要ない。必要なのは正しい情報と報酬だけ。だろうトーマ?」

「わーったよ! 引き受けりゃいいんだろ!」

しばらくの2人の睨み合いの後、トーマが折れた。

彼の言っている事は的を獲ていた。そのためか、案外すんなりと依頼を受け入れた。

何よりトーマには借金という枷のおかげで、断れない状態であったからであろう。


「ファリアス社長、こいつは確かに腑抜けに見えますが、腕は確かですよ。それに、こいつより腕の立つ連中はただいま出払ってましてね。ご不満を抱えるようであれば、ご自身で向かわれることになるでしょうね」

「チッ! わかった。こいつらで構わん!」

少しの間を空けた後、ファリアスは舌打ちをしながら了承をした。

言動一つひとつにトゲがあるのは相変わらずだ。しかし、ダブジの脅しのような言動に対して、一瞬不安そうな顔になったのである。

それを見たリンは、何だか変に切なさを感じた。


「行き先はファリアス社長から直接聞いてくれ。それでは失礼します」

満面の笑みで退室するダブジと、それに逆らうことの出来ない自分に腹を立てている。

それに加え、気品のあるカップに入った紅茶をすするファリアス。

仕事明けだというのに、トーマには最悪の組み合わせだ。


「それではすぐにでも、私を送り届けてもらおうか」

「そうだな、さっさとお前を送って、帰って、寝たいよ! だけどな、装備の点検とヘリの燃料補給に2時間はかかるぞ」

「かかり過ぎだ! この腑抜け! だが仕方が無いな、2時間ぐらいなら待ってやってもいいぞ」

話し始めは常に大きな態度の発言ばかりだが、妥協することが彼女なりの優しさのように思えるのである。


「それじゃ、2時間後に迎えに来るから待っとけよ」

「ちょっと待ってよ!」

彼がドアノブに手をおいた瞬間、リンの声を背中に感じた。


「あのさ、トーマこの子を…」

「ふぅ、全部言わんでもわかる。リン、お前の好きなようにしろ。ただし、そのガキが望むならな」

彼女からは普段、聞けないようなか細い声で続けざまに呟きだした。

それに振り返る事も無く、扉の方を見ながら彼女が言わんとすることを悟り、答えた。

長い付き合いをしていればそのくらい事は出来るのであろう。


「うん、ありがとう!」

彼女の笑顔と元気な返事を聞くと、その部屋から出て行った。

扉が閉まる音が止み、リンは紅茶の表面を眺めるファリアスにゆっくりと歩み寄る。


「よかったらうち来ない? 2時間もこんなところでヒマでしょ?」

「私にかまうな。こんなことしているならさっさと準備しろ」

リンの言葉に動じずそのままの体制で返事を返している。

誘いを突っぱねる言葉とは裏腹に、彼女の腹の虫泣き声が室内に響いた。


「ファリアス社長、来て頂ければ暖かい食べ物もご用意しますよ?」

恥ずかしそうに俯いている顔を覗き込むように再び問いかけている。

赤くした顔でコクリと頷いた。それを見たリンはすかさずニヤリと笑い返した。


「2時間も待ってられないからっ! ただ…その…暇つぶしに話にのってやるだけだからな!」

「はいはいファリアス社長。左様でございましたらわたくしめに付いて来て下さいね〜」

「コニーでいい…」

「ん?」

「何度も言わすな! 名前がコンスタンスで長いからみんなはコニーって呼ぶんだよ!」

リンの手招きに答えるようにコニーも後を追っていたが、またしても赤面を隠すようにリンを抜かし、先に廊下を進んで行った。

彼女は、その特徴あるスカートのなびくさまを追いかけた。とても嬉しそうな顔が伺える。

今まで他者からの干渉を拒む事の出来た空間から、女の子は出たのだ。

それにリンは、この手のタイプの扱いに慣れているようである。

そう彼女もまた同じようなタイプなのであろう。


4人の住まいまでの道のりで、ファリアスはあの男に見られた。

そう、シェルスとカイルが知っているあの男に…。

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