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CASE7:ムカツク子どもと街の異変

テッドの去った後しばらくして、トーマも酒場カウンター席から腰を上げた。

集合場所であるフリーランサーのビルへと行くためだ。


「じゃまたな、おやじ」

「年が同じぐらいなのに、まだあなた方におやじと呼ばれたくありません」

沈黙を保っていたおやじだったが、出口へと去り行く彼の背中に向かって訴えた。

トーマはそれに対して後ろ手に手を振って答えている。

夜中の仕事だったためか、朝日を眩しそうに手で遮りながら足を進めはじめた。

この時間帯になると、酒場に来た時よりも多くの人が街を歩いている。

コンクリートの街路路には電柱の他に、枯れた木々が一定の間隔で植えられていた。

フリーランサーのビルへと続く道を歩く最中、1人2人とすれ違った。

2人とも黒いスーツ姿にブリーフケースだった。朝の出勤しているの姿としては、ごく普通の服装である。

しかし、出社しデスクワークには適しない箇所があった。

そう。彼らは軍靴を履いていた。

もう一度確かめようとして振り返った瞬間、背中から衝撃が襲った。

前のめりに倒れ掛かった彼は、上手く体制を整えると後ろを振り返った。

するとそこにはオレンジ色の髪をした女の子が1人。痛そうに膝を抱えがら座っている。


「おい、だいじょ……」

「貴様! どこに目玉をつけて歩いておるのだ!」

トーマが声を遮るように、女の子は罵声に近いものを彼を見上げながら飛ばした。


「すまん、悪気はなかったんだ。第一、君の不注意でもあったんだぞ?」

「うるさい! 貴様の意見など聞いていない! 馬鹿やろう!」

今度は言葉を遮られることもなく話せた。

彼は自分より年下である女の子に軽く注意をするかのように言った。

しかし、それに動じる様子も見せずに、相変わらずの強気な言葉遣いで言い返している。

服についた土を落としながら、女の子は立ち上がった。

その服装は、クリーム色のタートルネックに、前は膝の長さで、後ろはくる節ほどの長さのスカート。竹を斜めに切ったような形状で、その色は薄くピンク色をしている。

彼は眉間にしわを寄せながらも、ここでキレたら大人気ないため、引きずった笑顔を返している。


「あのな……」

「ところで貴様、フリーランサーのビルはどこにある?」

彼がさらに言葉をかけようとしたが、またしても遮られた。

何と自己中なガキだと思いつつも、早くこの場から立ち去りたい彼は、聞かれたビルのある方向を指差した。

それを見ると、何も言わずにその女の子はビルの方向へ、走り去った。

後ろの丈が長いスカートと、オレンジの髪をなびかせながら。

昨夜の仕事以上の疲れが、彼の体を襲った。

再び歩を進め始めたが、それはとても重い足並みだった。


その頃、満点の日差しを浴びることのできる石畳のベランダでは、カイルがエプロン姿で洗濯物をピッピと伸ばし、青色の物干し竿にかけていた。

風呂場の方からの足跡を聞き取りながら、空になった洗濯かごを手にしながら部屋へと戻っていた。

そこには、お風呂あがりの2人の姿があった。仕事着とは違い、Tシャツにショートパンツというラフな格好である。

それぞれ手には好みの飲み物である、イチゴスムージーとビールが握られていた。


「おいし〜、カイル!」

「それは良かったです」

そんな会話をしつつ、彼はきちんと整理整頓されたキッチンで火にかけられているお鍋のふたを開けた。

中には厚めに切られた肉が、じゃがいもなどの野菜と一緒に煮込まれている。

彼はニコニコしながら鍋を覗きこんでいる。

そんな彼の後ろに回りこんだシェルス。


「駄目ですよ。これは、晩御飯なんですから」

「え〜、お肉の1個ぐらいならいいじゃんか〜」

鍋を守る彼に、彼女を迫っている。

両手には、ナイフとフォークがしっかりとスタンバイされている。


「つまみ食いは許しません!」

普段見られない彼の厳しい目腺に、彼女は恐れをなしたようだ。

肩をがっくりと落とし、トボトボとソファーの方へと帰っていった。

リンはその光景をビール缶を傾けながら、横目で見ている。

缶を机の上に置くと時計を見上げた。

時計は8時50分頃を示している。

約束の時間は9時30分である。


「2人とも〜、そろそろ行くから仕度しなさいよ」

「はいはーい」

「わかりました」

彼女の掛け声に反応した2人と彼女自身、それぞれが部屋に向かった。

数分後一番最初に、部屋から出てきたのはカイルだった。その次にリン、シェルスが続いた。

それぞれ仕事着とは違い、いつもの着なれた服装である。

集まり次第誰が合図を出すわけでもなく、3人とも部屋から出た。

仕事明けにも関わらず、カイルとリンは割とシャキっとしている。

そんな2人をよそ目に、シェルスは眠たそうな顔付きで前の2人の後を廊下歩いている。

窓の景色からは、ヘリが数多く飛んでいるのがわかる。

この街の上空を数多くのヘリが飛んでいるのは至極当然のことだが、今朝は明らかに多い。


「今日ってさ、何かあるの?」

「確かに多いですね。僕は特に聞いてませんけど」

「さー、私も知らない。てか、あんたはもっときびきび歩きなさいよ! 時間に遅れる」

眠たげに目を擦りながらも、それを感じた彼女は前を歩く2人に問いかけた。

しかし、2人とも知らないようである。

相変わらず足取りが思わしくないシェルスの手をリンは引っ張り、先を急ごうとしている。


彼女が見たヘリのうちの1機は、4人の住みビルの屋上へと着陸した。

プロペラ音がまだ鳴り響くなか、着陸と同時に勢いよくドアが開き、3人組がこの地に降り立った。

4人はこの時まだ、この3人組が自分達に降りかかる災いをさらに、悪化させるとは知る由もなかった。

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