CASE4:ジョイン&ランウェイ
兵士達が引き金に手をかけた瞬間、カイルが両手を突き出し叫んだ。
「サーキュラシールド!」
次の瞬間彼の正面に円形の魔法陣が現れ、3人を無数の弾丸から防いでくれている。弱弱しくだが温かみのある光を放っている。
それを見たラッツの表情が少しながら強張った。
暗い通路に銃口から目がチカチカするほどの回数の光が発せられた。
「さっすがカイルは出来る子だね〜」
「こいつがいないと俺ら駄目だもんな。家事洗濯もやってくれるし」
二人は頷きながらカイルの存在のありがたさを改めて感じている。それを聞いたカイルは眼球だけを動かし二人を見た。
「そんなことは後でもいいですから、さっさと出口見つけてください。詠唱無しでの即効的な魔法展開ですから効果を持続させるのが難しいんです!」
二人にとってカイルの怒り口調は馴染が薄い。それ故に新鮮さを感じるが、それと同時に少し怖さも感じる。
話しながら頬から汗がつたわせていた。その姿から疲労感がにじみ出ている。
それを感じたトーマはシェルスに指示を出す。
「……しょうがない。やっちまえ」
「了解ボス」
トーマに軽く敬礼するとシェルスは剣を構え、詠唱を始めた。
「我に召集されし炎の息吹よ、剣に宿いて敵を打ち払え!」
刀身から両肩にかけて、帯状で赤色の魔法陣と熱き炎が絡んでいる。
「シェルスさんは隔壁を破る気みたいですね。困りましたね」
「大丈夫ですよ、あの小僧の魔法も段々弱ってきてます。必ずしとめます!」
「別に取り逃がしても構わないんですよ。ただ、破壊されると後々本社から何を言われるかが癪なんですよ」
「は、はぁ...」
部下もあまりラッツの性格を掴みきれていないようで、思わずため息混じりの返事をする。 兵士がラッツを不安を和らげようとかけた言葉も、当の本人にはまるで聞こえていない。
「はあああ!!」
おたけびに近い声で隔壁に向かい剣を振り下ろした。通路に爆風とともに轟音が響き渡った。
爆風に伴って粉塵で視界がさいぎられたため、兵士達は射撃をやめた。
粉塵が立ちこめる中兵士達は銃を構え、じりじりと3人がいるであろう方向へ近寄っていく。
すると立ち去る足音が聞こえた。
兵士達は足音の聞こえた方へ向かう。しかし、そこには無残に骨組みがむき出しになり、突破された隔壁の姿だけ。
素早く破られた通路入り口、両側の壁に背を向け張り付く兵士達。
ゆっくりと通路を覗き込むが、そこに3人の姿は無い。
次の隔壁を突破したような形跡も見受けられない。
そこへ、ゆっくりとラッツが歩いてやってきた。兵士の1人が駆け寄っていく。
「中佐! やつらが消えました。空間魔法を使用して逃げたと思われます」
「空間魔法が使えるのであれば、なぜ初めから使わなかったのでしょうね? ヴェラス少尉」
報告にやってきたヴェラスを横目で見ながらラッツが言い返す。
「ですが他にはどこにも……。まさか! おい! そこをどけろ!」
ラッツに悟らされたのだろう。勢いよく兵士達のところへ行き、その場から退かした。
腕に装着してある端末を操作し始めると、床の一部が持ち上がり地下へ通じると思われる縦穴が現れた。
「馬鹿な! 開くとセンサーが反応するはずなのに……」
「あれほど奥に侵入出来たのですから、センサーを解くことぐらい造作も無いことだったのでしょう」
ヴェラスは顔を顰め、うっすらと明るい縦穴を覗き込んでいる。
「とにかく追うぞ!」
「少尉! その必要は無いといくら言えば分かるのですか? この地下通路は何十という出口があるのですよ。今から追っても無理ですよ」
「――っく! わかりました」
上官の命令は絶対である。だが、ヴェラスは激しい憤りを感じていた。彼には追いつける絶対的な自信があったからだ。
「後のことはよろしくお願いしますよ、少尉?」
「わかりました。どうもお疲れ様でした」
不機嫌なヴェラスとは対称的、いつもの不敵な笑みのラッツ。
ラッツがその場から立ち去ろうとした瞬間、まともや警報音が施設中に轟く。
緩んでいたラッツの顔も再び強張った。そしてヴェラス下に一本の無線が入った。
「少尉! 大変です」
「何だ〜、また進入者か? この野郎。今日はやけに多いな」
けだるそうな表情で無線に応じている。
「敵襲です! 敵戦車隊施設2km地点まで進行中です。おそらくG・O社の部隊だと! その数およそ40! 上空にも魔道士が複数いる模様!」
ヴェラスの顔つきが一気に変わった。
「中佐!」
そこにいた全員が一斉に彼の顔を伺った。
目を瞑り一呼吸おくと口を開いた。
「ヴェラス少尉、持ち場について下さい。地上の敵はあなたにお任せします。お好きになさってください。上空の敵は私が殺ります」
「はっ!」
敬礼し、ヴェラスは兵士達を連れその場を後にした。
「戦車隊をすぐに出せ! やつらはすぐそこまで来てるぞ! それとミサイルは全てSSM(地対地)に変えておけ」
「しかし、空にも敵が!」
「空は大丈夫だ。中佐がいるからな」
ラッツは出口へと歩を進めていた。ネクタイを緩め、束ねられていた髪を解いた。
外では慌ただしく兵士達が走り回っていた。轟音と砂ぼこりとともに黒くコーティングされた戦車が発進されていく。
隆起した大地以外、何もない荒野が金網越しに見える。
撫でるように冷たい風が吹いていた。その風が首筋にまとわり付くのをラッツは感じながら空を見上げると、ニヤリと笑い空へ上がった。
その頃、シェルス達3人はようやくリンとの合流ポイントに到着した。
そこはいたるところで地面が隆起している。
「遅い!」
3人を見つけたリンが第一声を発した。遅れたのは10分程だが、あまり機嫌は良くないようである。
「すまん、色々あったんだよ。すぐ出発するぞ」
「そう、色々あったんです」
男組二人は、見るからにに疲れた顔をしてヘリに乗った。
「いや〜、やっぱりあたしは出来る子なんだよ!」
一方シェルスは、魔法が成功したことがよっぽど嬉しかったのか、意気揚々と黒色をしたヘリに乗り込んだ。
ヘリの中は簡易な供え付きの椅子がある後部と、操縦桿が左右両方の座席についた前部とに分かれている。
「ちょっと! 遅くれた理由をまだ聞いてないんだけど?」
ムスッとしたリンがトーマに聞いた。腕組みをしながらトーマににじり寄る。
「とりあえず、飛ばしてくれ。それから順を追って話すから」
額に手をやり眠たそうに応えた。そして、続けざまに聞き返す。
「お前こそどうして俺ら待っていてくれたんだよ?」
「物よ物! それが無いと帰ろうに帰れなかったの! 別にあんた達を待ってたんじゃないんだから」
目線を逸らし恥ずかしそうに応えたリンを見て、トーマは少し顔を緩ませた。
「ありがとう」
それを聞いたリンは、スライド式のドアを閉め、ヘリの起動を始めた。プロペラの回転音とともに、地面が遠く離れていく。
「さぁ! 聞かせてもらうわよ」
そう言われを遅れた言い訳を始めたトーマ。
それに文句を付けながらも耳を傾けるリン。
「まぁ、いいわ。物も手に入ったし、みんなも無事だったしね」
穏やかにそう言うと、後方の座席を覗き込んだ。
「二人ともおつかれだね」
「ん?」
トーマも覗き込むとそこには肩を寄せ合い、寝息をたてる二人の姿があった。