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CASE29:決意

 その頃、ラジスタでは普段通りに1日が終わろうとしていた。街には光が灯り始め、酒屋からは楽しげな声が漏れている。ロイドが営んでいるEGOISMOも同様である。


 最後の客が帰り、丸眼鏡の曇りを丁寧にふき取りながらホッとした表情見せている。カウンターからニボシが入った袋を取り出すと、嬉しそうに口にした。ほっぺを両手でほぐすように揉んでいる。それが終わると、店じまいの準備に取りかかった。

 するとそこに1人の客が入って来た。


「すみません、今日はもう終わりなんです。また明日にでもおこしください」

 申し訳なさそうにしながら入り口の方を見ると、そこにはマーサが立っていた。


「こんばんわ。まぁ、そんなこと言わんとちょとだけでええから飲ましてや~」

 彼の言葉も関係なしにずいずいと進み、カウンターに腰をかけた。先ほどとはまた違う、息の出し方で不満そうに見せた。だが、彼女はおかまいなしにグラスを手に取り彼を手招きしている。彼はそれとは逆に入り口へ向かった。


「ケチー!」

 それから間もなく彼は戻ってきた。後ろ手で入り口の扉を閉め、カーテンを降ろした。


「特別ですよ? たまには付き合ってあげますよ」

「お~、ありがとな~。たまにここで飲みたくなるんよ」

 仕方なさそうな顔で彼女の方を見ると嬉しそうな顔をして、また手招きをしている。ロイドはカウンター以外の照明を全て切った。

 彼がカウンター内に入ると、マーサは無言のままグラスを突き出した。


「最初の一杯だけですよ? いつものラムで?」

「うん、ええよ」

 赤いキャップをはずすと一定のリズムを刻みませながらグラスに注いでいく。

 琥珀色したラムをグラスの中で回し、グイっと一気に飲み干した。少し無理したようで、顔をしぼめている。


「く~! やっぱりよく効くね~」

 グラスをロイドの前に差し出し、変わりに酒瓶を手にした。

 静かにグラスを手に取ると、彼女に突き出した。


「飲んでくれるんや?」

「お客様のお誘いをお断りするわけにはいきませんからね」

 グラスに注がれたラムを初めはちびちびと飲み、後は一気に飲み干した。酒自体あまり好きではないらしく、額を押さえている。


「それで今日は何しに来たのですか?」

「何って? お酒飲み来ただけやよ?」

 とぼけて見せる彼女に大きくため息をついた。


「うそうそ、ちょっとお話があってな~」

「何ですか?」

「うん、実はな~昔の友達つれがなおもしろい話を聞かしてくれてな。ロイドの耳にも入ってるんとちゃうかな~? って思ってな」

「さぁ、私はただのバーテンダー……お客様の注文しか入ってこないですよ?」

 涼しい顔で彼女の問いかけをさらりとかわした。そんな姿を彼女は、普段見せない鋭い目でしばらく見続けた。


「まぁ、今日はそろそろ帰るわ」

 ニコっと笑うと席を立ち、店を後にした。その後姿を見送ると黙々と途中だった店じまいに戻った。

 片づけが終わると、ロイドはカウンターの奥の机前に置かれた椅子に腰を下ろした。整理された綺麗な机の上には、帳簿用のノートPCが置かれている。

 リズミかるなタイピング音と紙をめくる音が室内に聞こえている。一段落すると帳簿とは別の画面に切り替え、先ほどとは違うタイピング音が彼の指からかもし出されている。

 その音は朝まで止むことはなかった。


――ヘファイスト・コーポレーション 本社都市リアマット――

 もうじき朝日が顔を出そうとしている頃、順調に飛空艦へと物資を運搬されている。ワインレッドのマントをなびかせジュリーはその後景を眺めている。そこへ副官のヒメノがやってきた。強い風のせいで、紺色の長髪が暴れるのを手で押さえている。


「大佐! 間もなく積み込み作業が終わります」

「ご苦労様。他の部隊は?」

「全て万端です!」

 強風にかき消されないように声を張っている。 

 そこへ無線が入った。


「ラジスタ侵攻軍全軍に告ぐ! 社長のアルフレッド・オーガスタンだ。我々にはワンダラーのような財力やオーダーのような大した理念などもない! だが、我々はこわずかな農耕地しか作る事のできないこの土地から脱出し、我らの民! 同胞のために進撃し、肥沃な土地を得なければならない。思い出すんだ、この大地に我らを追いやった奴らを! 追いやっただけでなく、さらなら締め付けを奴らはしてくる。私はもう苦しむ同胞達の姿を見たくはない……」

 その言葉に静かに耳を傾ける者や涙する者がいる。6人の部隊長はそれぞれの面持ちで聞いている。先ほどまで吹いていた強風も次第に弱くなり始めた。


「私が諸君らに望むことはただ1つだ! 全同胞のために命をかけてこの戦いに挑んでもらいたい! 諸君! 進撃せよ!」

「おぉ!!」

 無線演説が終わると同時に拍手と雄叫びが基地内に響き渡った。

 夜明けと共に陸上部隊と飛空艦がそれぞれラジスタへ向けて進軍を開始した。


「まさに、壮観な光景ですね。ヴェラス少尉、我々の部隊は一番後から付いて行きましょう」

 相変わらず何を考えているかわからない不敵な笑みをしている。眼鏡を中指で整え命令を下した。

新生活始まりました~♪

更新も頑張るようにします~(笑

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