CASE27:厄日
今回は1ヶ月ぐらいで書けましたね^^:
今回は訛りの強いキャラを出しているので、多少読みづらいかもしれないです。
――再びラジスタ――
トーマ達は工房の前に立っていた。ゆっくりと金属扉を開くと室内には様々な銃火器が棚やショーウィンドウに飾られている。それ以外は殺風景な室内だ。部屋の片隅には珍しい三毛猫ならぬ、三毛犬が眠そうに伏せている。
「あぁ~、この犬かわいい!」
すかさずシェルスが犬の傍に駆け寄った。頭を撫でてやるとお腹を見せて気持ち良さそうにしている。
「おぉ、君はかわいいな」
「へぇ、この犬大人しいわね」
リンも近づくと同じように撫ではじめた。
その犬にも目もくれずトーマはショーウィンドウが並ぶ部屋からさらに奥の部屋へと通じる通路へ向かった。その通路には店内と工房を仕切るように暖簾がかかっている。その暖簾を押し退けて工房へ入ろうとした瞬間、勢いよく工房から誰かが飛び出し、トーマはそのまま押し倒された。
「トーマ! めっちゃ久しぶりやんか~。ずっと会いたかったんやで~! ついさっきまでトーマのこと考えてたんやで。ほんでトーマに会えたっちゅうことは、これは運命や! だから今からあたしと一緒に……」
「どけろ! 重いし、うるさいし、さっさと首から腕を退けろ!」
「そんな重いやなんて、レディに失礼な。でも、トーマやから許したる。そやから――」
おもむろに唇を近づけはじめた。
「やめろ! 顔を近づけるな!」
「今日こそは絶対に――」
彼の顔に徐々に唇を近づいてきた。思いのほか腕力があるようで、一向にがっちりと掴まれた手を肩から振りほどくことが出来ない。
そこに参戦者が現れた。
「いい加減どきなさい!」
リンが彼を襲っていた女を引き離した。三毛犬と遊んでいたシェルスは目の前の状況をぼーっと見ている。
「あぁ」
女の嫌がる声が部屋に響いた。
リンがむすっとした顔で自分を直視していることに彼は気がついた。手をバタつかせ、焦った素振りを見せながらリンの方へ寄って行った。
「違う! 今のは事故だ! マーサが突然抱きついてきたんだから仕方ないだろ!」
「ふ~ん。名前を呼び合うほど仲が良いとはね」
言い訳をする彼を面倒そうに手であしらっている。
「なんや~、今日は恋人と一緒なんか」
「誰が恋人だ!」
残念そうな顔で立ち上がるマーサに2人が間髪入れずに言い放った。少しキョトンとした表情になったが、それは徐々にニヤついたものに変わった。それを見て2人は少し恥ずかしそうにそれぞれ別の方見ている。
「それに今日は赤髪の女の子も一緒か」
「あの、この犬の名前、なんて言うですか?」
「ミケやでぇ、いっぱい撫でてあげてなぁ」
名前を聞いた彼女は、再びその犬を満遍なく撫ではじめた。先ほど同様に気持ち良さそうな表情をするかと思いきや、名前を呼び度に嫌そう表情だ。しかし、彼女にはそんなことはおかまいなしに撫で続けている。
シェルスに愛想よく手を振り終えると、マーサは飛び出した暖簾のかかった部屋へと向かった。
「それで、今日はなんの用なん?」
金色のショートヘアーの前髪を気にするように触りながら言った。その言葉に答えるようにトーマとリンは同じく部屋へと向かった。
部屋の中央には作業台が置かれており、改造途中と思われる銃がいくつか並べられていた。室内はスタンドライトの明かりだけでうす暗い。
「実はな、またこいつの整備をお願いしたいんだ」
雰囲気の変わった彼女の机に、上着の内側から2丁のオートマチックピストルを出した。
作業着のポケットから出した丸眼鏡をかけ、机に置かれた銃を手に取ると素早くいくつかのパーツに分解した。拳銃の黒色がスタンドライトの光を受けて輝いている。
「ふぅ……あんな~あんたまたこれ無茶苦茶な使い方したやろ? まず銃身がいがんどる。これは無理くりにトリガーを引いてる証拠や。この銃はうちが改造した2丁一対の一品物なんやで。もっと大切に使うてんか~」
「すまん、まぁいろ②大変な仕事もあってついやってしまうことがあるんだよ」
トーマは彼女の一斉の訴えに申し分けなさそうにしている。リンはそこらにある改造中の銃を眺めていて、まったくの知らん振りだ。
「リンのも見たろか? どうせトーマと一緒でさしてメンテもしてないんやろ?」
「結構です。私の銃は私できちんと調整してますから!」
独特な口調のマーサに対し、リンは既存とした態度で誘いを断っている。マーサは彼女にゆっくりと近づいた。
「まださっきのこと怒ってんのか? ちょとしたじゃれ合いやんか~」
背を向けるリンに対して、背中から抱きついた。満面な笑みでマーサはじゃれ合っている。だが、からまれている方は鬱陶しそうな顔で、首に巻きつかれている腕を振りほどこうとしている。
「やめなさいってば!」
「たまにはいいやろ? こういうスキンシップも?」
「もういい加減――!」
そう言うと、力いっぱいマーサの腕を離そうとした。しかし、力を入れるほど相手も力の入れ方を変え、こともあろうに彼女の胸を両手で鷲掴みにした。リンは言葉を失った。
「う~ん、リンはあんまり大きないなぁ。うちの方がもうちょっと大きいかな……」
「―-----!」
リンは口をパクパクさせ、顔も赤くなり冷や汗が出ている。しばらくして、我に返るとマーサの腕を強く握り、胸から引き離した。
「調子こいてるといい加減怒るわよ!」
後ろ腰にあるホルスターから銃を抜くと、躊躇なく彼女に銃口を向けた。
「落ち着け、スキンシップや言うてるやろ……。しかも、もう怒っとるやないか」
誤る仕草を見せながら、彼女から後ずさりした。その後景を見ていたトーマが口を開いた。落ち着きを取り戻したリンは銃をホルスターに戻した。少し疲れた表情でその部屋を出て行った。
「バカやってないで、さっさと済ませてくれよ」
「すまんスマン。まぁ、一旦これは預かるし、また取りに来てくれへんか?」
「この前みたいにすぐ出来ないのかよ?」
「悪いなぁ、今手のかかる物があってな」
彼の意外そうな顔に、申し訳なさそうに答えている。メインで使用している作業台とは別の台上には、ねずみ色の布をかぶった長銃らしきものが乗せられていた。
「そいつか?」
その布をかぶった物に指差しながら聞いた。
「せや」
布を勢いよく捲り取った。
そこにはまだ外見こそ良くないが、スタリッシュな形状をした銃があった。
「こんな銃、誰が持って来たんだ?」
「これは依頼品やないんよ」
「は?」
「だから、依頼品やなくて、うちの作品。今日はこの後こいつをいじるんや」
ニッコリと嬉しそうな顔でトーマの疑いの視線をはじき返している。
「それで今日中に無理なんだな?」
「そうや!」
ため息をもらして、ゆっくりとした足取りで出口へと向かった。笑顔で見送りの手を振るマーサは、彼が視界から消えるとウキウキした手つきで例の銃をいじりだした。
「帰るぞ~」
犬を撫でまくっているシェルスが、かがんだまま片手を上げて返事をした。
「お腹空いた~! またねミケちゃん」
立ち上がり手を振り出口へ向かった。リンもシェルスの後に続いた。最後のミケのもとへ行ったのはトーマだった。
「お前も大変だな。あんなやつに飼われてるんだから――。にしても、ミケか。あまり気に入ってなさそうな顔してるが、あいつはあんなやつだから許してやれよ」
鼻から眉間を通り、頭を何度か撫でると、プイっと彼とは別方向に顔を向けてスタスタと部屋端のいつものポジションに戻った。
「かわいくねぇ……」
お昼時の街の流れに変わった通りには人々が溢れている。やけに陽の光が眩しく見えて仕方がない。薄暗い部屋にいたせいもあるが、オフの日中の疲労感で余計に眩しく見えるのかもしれない。