CASE25:荒れる会議
3ヶ月以上放置でした。
でも、なんとか仕上げましたので、どうぞ♪
「簡単なことだって、よく簡単に言ってくれますね。あなた方、幹部達は」
「俺はのるぜ! 街1つ好きにさせてくれる大規模な作戦なんて、ここ最近なかったからな!」
「ダリル、あなたはもう少し頭を使ったほうがいい」
眉間を指で挟みながら冷静に答える女。それを聞いたダリルは、見るからに荒々しい性格そうだ。馬鹿にされているが、そんな言葉は耳に入っていないようだ。これから始めるであろう実際の作戦会議に目をたぎらせている。
「そうだなアビー。しかし、ダリルの言う通り大規模な作戦も久しぶりだな。それに、上からの直々のご命令とあらば、断る理由なんてものは私にはない」
話始めは顔を緩めていたが、それが進むに連れて真剣な顔つきへと変えていった。
「マック、あなたいつからそんな忠実な犬になったわけ? 昔はもっと私をゾクゾクさせてくれるほど荒々しい男だったのに」
誘うようにマックに色目を飛ばしている。
普段ならその場にいる全員にドン引きされるわけだが、今回は違った。そこにいる全員が彼女の性質をよく知っているし、一々そんなことに気を使っているようでは話にもならない。
「ギャレット、お前もそんな奴じゃなかったのにな。何があったかは知らんが、その話は今する必要はない」
「まぁ、お堅いこと」
つまらなさそうにする彼女をしり目に、ラッツが口を開いた。
「あの〜、私だけかもしれませんが、そちらのお方は? できればお名前を教えていただけませんか?」
独特の笑いを浮かべながらその男に問いかけた。全員がゆっくりとそちらへ目を向ける。
「ルアーチだ。ルアーチ・べインだ――よろしく」
銀髪が目を隠すように覆っている。口元が動くと、静かに重みのある声が聞こえた。
ラッツがもう一度笑いながら様子を伺うが、反応はなしだ。
会議室に少しの間、静寂が包んだ。7人ともそれぞれ何かを考えている。
「このまま休憩にするつもりですか?」
それを破るように口を開いたのは、アビーだった。椅子にゆったりと座り直し、ポッケから出したガムを口に含んだ。
「まさか。さっさと本題に入ろう」
膨らむ風船ガムを見ながら、幹部が話を進める。
「まずは君達の意見を聞きたい。それぞれ我が社でも頭1つ抜けている部隊の長を呼んだつもりだ」
そう言いながらに彼は6人顔を見渡した。
「うちんとこの部隊は全くもって問題ねー! どんな野朗が来ようとも、俺の部隊で破れねーもんなってねーよ!」
威勢よく返答したのはダリルだ。身振りを入れながらの熱弁は自信たっぷりな感じである。隣に座っているマックが思わず仰け反ってしまうほど大きな声だ。
「私の部隊自体にもなんら問題はありません。しかし、ドリエルに進行ということは、あのだだっ広い荒野を進軍する必要がありますね」
仰け反った体を直し、マックが難しそうな顔をしている。
「そうよねぇ。こんな大規模な作戦になると否が応でも目立つものね」
「しかも、あの街付近にはオーダーとミリオンの基地がある。発見次第、防衛ラインが敷かれることは間違いない」
ジュリーの言葉にマックが重ねた。
アビーの風船ガムが破裂する音が響く。
「まぁ、大方の作戦が決まったら教えてくだされば結構です」
腕時計を確認しながらラッツは口を開いた。眼鏡の位置を直し、メンバー全員に目配せをしている。
それだけ言うと立ち上がり、出口へ向かう。そこにいる皆が反応を示した。
「おい、どこへ行くんだ? キザ眼鏡野朗? 話はまだ終わっちゃいねぇだろうが?」
そんな中、アビーは両手を後頭部で組み、彼を見ることなく不満たっぷりな口調で言い放った。
その返答を待つように、ガムが膨らんでいく。他の者は、彼の背中を見続けていた。
「話? そもそも私がこの会議に出席する意味なんてありませんよ」
ゆっくりと振り向き悪びれた様子もなく答えた。
「どういう意味だ?」
マックが続いて質問を投げつけた。
「私の部隊は、特別独立中隊であります。私又は我らが社長でしか命令を下すことは出来ない――。言ってる意味がわかります?」
嫌味たっぷりな口調とその笑みで残るメンバーを一蹴した。
言うまでもなく、彼以外の表情は機嫌を損ねている。ジュリー1人を残してだ。
彼との接点が多いジュリーだから持ち合わせた、耐性なのだろう。
だが、再びアビーが口を開いた
「お前、あの社長にどうやってごま擂った知らねぇが、あんま調子こいてると痛い目みるぞ!」
憎しみを込めてラッツを睨みつけている。
「私のことをどう思おうが、全く構わないですよ。それでは、失礼します」
軽く会釈だけすると、赤い紐リボンでまとめた髪の毛を揺らしながら会議室から出て行った。
「ふぅ、彼のことはおいてといて話を続けましょう」
幹部が椅子に深く座りなおしながら再び話しに戻した。
残された部隊長は皆、不貞腐れた表情をしている。ダリルはその空気に我慢ならないようで席を立った。
「お前までどこかへ行くつもりか?」
マックの鋭い眼光に少しビクつきながら、彼は答えた。
「俺はさっきのクソ野朗やあんた達みたいに頭使うのが苦手でね。正直作戦なんてモンより、現場で臨機応変に動くほうが俺には合ってる」
「だから、お前はバカ扱いされるんだよ」
アビーが横から茶々を入れる。
「バカって言うなよ! バカって! 俺はただ本能に忠実に動いてるだけだ!」
「そういうのをバカってんだ」
あげ足とりのアビーに対して必死で反撃するが、そこは彼女の方が何枚も上手のようだ。
幹部とマックは頭を抱えながらため息を1つ漏らした。2人のやりとりを見てニコニコと笑っているのはジュリーただ1人だけ。
「ふぅ。まぁ、あれだな。どうこう考えるより、一番原始的に正面から戦ってみますか!」
すっと立ちがり、マックが言った。
「飛空艦を使って?」
「あぁ、陸と空とでドリエルへ進行しよう。これほどの大部隊だ。あちらもそれなりに準備が必要になる」
会議室に備えられている、モニターにドリエル近郊の地図が映し出された。ヘファイストが進行するルートは赤い矢印。向かい討つドリエル側は青い矢印で現されている。
「だけど、こんな正面切って進行すればすぐに……」
「発見され、防衛線は敷かれる。そんなことは重々わかっている。アビーそれとも何か、お前とお前の部隊にはそれを破るほどの力と度胸がないのか?」
マックが珍しく挑発するように言った。
「ないさ! このバカほどじゃないけど、私だってそれくらいはできるさ……」
ダリルを指差しながらに答えた。最初の威勢は良かったが、後が少し照れくさそうに何とも女性らしさが残っている。
またダリルとイガミ合っている。こいつら小学生か? と言いたそうなマックであるが、そこは我慢した。
「前衛はダリルと俺の部隊で行く。空はギャレット、任せたぞ。後方支援はアビーだ」
それぞれ承諾したようで、各々返事をしている。元気よく返事する者。投げキス付きで返事する者。しゃーなしと言わんばかりな態度だが、照れくさそうに返事する者。
「残るは…」
ベインという男の方に目を向けた。すると、俯けていた顔を上げると口を開いた。
顔には風格があり、ベテランの部隊長であるようだ。
「今回のこの作戦には、ここにいる部隊しか参加しないのか?」
机に肘を付きながら、話を聞いていた幹部の方を向いた。幹部は口を開くことなく、首を横に振った。その時点で、そこにいる全員がある部隊が参加することを知った。
「情報工作部の部隊か――。もちろんあっちの作戦は秘密事項なんでしょ?」
険しい顔つきをしている。
幹部再び口に出すことなく、首を縦に振るだけだ。明るい会議室にどんよりとした空気が流れ込んでいるように感じられる。
ヘファイストの内部でも、情報工作部の存在を知る者は少ない。単純に企業スパイのようなものをする部署であるという認識しかない。
「残った俺は、非常時に備え、後詰めとしてルアーチさんとダリル君のバックに付こう」
「それでいきましょう」
「話がまとまったようで、何よりです。それでは期待していますよ」
それだけ言うと、幹部である男は奥にある扉から退室して行った。
屋外へ出たマックが空を見上げる。会議室に入った頃は、まだ昼間だったのにすっかり夕闇の空になっている。
大きく背伸びをすると、宿舎へと戻って行った。ただ、顔は険しいままだ。
会議に参加した者なら、あの部隊は目の上のコブのような存在であろう。
「まぁ、命令された以上はやってみんとわからんな」
もう一度背伸びをした。
―ヘファイストの基地内―
通信機にコードを打つ音。しばらくした後――
「もしもし、私です。お久しぶりです。はい…はい。フッ、その件ですが、全て順調に事は進んでいます。ええ、あなた方と再会出来るのも時間の問題かと――。ええ、全て我々の手の平かと――。ええ、はい、はい。それでは、またその時まで――。失礼します――」
この最後の分は電話越しの会話で電話先の言葉を入れておりません。決して1人会話ではありません><: