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CASE22:追想ソノ3

 夜も一層深まりつつあるドリエルの街は、静寂に覆われていた。

 建物と建物の間を通る風に、店先の看板が揺れている。

 そんな静寂の中、エンジン音を響かせてトラックが街に入ってきた。

 今朝少女の父親を乗せていたトラックだ。


 毛布を羽織り机にうつ伏せて寝ていた母親は、そのトラック音で目を覚ました。眠たげに目を擦りながら、玄関の方へと足を進めた。

 ドアノブに手をかけた。子どもが目を覚まさないようにゆっくり扉を開けると、冷たい外気が彼女の赤い長髪をなびかせた。

 旦那を迎えようと微笑みながらトラックの方を見た。だが、そこには彼の姿は無い。


『なんなの?!』

 あるのは全身黒の軍服を着て、銃を持った男達がトラックの荷台から続々と降りている光景。

 外気で体が冷えたにも関わらず、嫌な暑さと汗が体中を覆った。

 湿った手でドアノブを掴むと、先ほどよりもさらに慎重に扉を閉め、反射的に鍵をかけた。その途端、街中の明かりが一斉に消えた。

 それと同時に奴らは4人1組の分隊に分かれると、四方に散って行くのが見える。確認出来るだけでも3組はいた。足音からこちらへ向かってくるのがわかった。

 足音が止まると、暗視ゴーグルを装着した兵士が室内を覗きこんでいる。窓から人影がなくなると再び足音が聞こえ、玄関ドアの前でぴたりと止んだ。

 次に聞こえてきたのは外から鍵を開けようとする音であった。それを耳にしながら子ども達が眠っている部屋へと、1歩ずつ後ずさった。



 鍵が開錠され、扉がゆっくりと開いた。

 2人組みの兵士が、暗視ゴーグルを着けたまま銃を構え室内に入ってくる。室内全体に注意を向けている。足裏を地面に着けたまま、台所へ向かう兵士と子ども部屋へと向かう隊員。

 母親である彼女は、子ども部屋へ辿りつけておらず、途中のトイレに身を隠していた。

 この状況をどう切り抜けるかを必死で考えていた。とりあえず、トイレにあったデッキブラシを掴むと力一杯握り締めた。


『どうすれば!? なぜこいつらはこの街に?! 何が目的!? 子ども達が危ない!』

 わからないことはたくさんある。しかし、今は子どもを助けることが最優先。

 子ども部屋のドアが開く音が聞こえる。焦る気持ちを抑え、静かにトイレ扉を開いた。

 銃を構えて入室しようとする兵士の後頭部目掛け、出せる力をデッキブラシへと注いだ。

「メシッ!!」

 木製のデッキブラシの柄の部分が折れる音。兵士が倒れこむ音で息子がベッドから起き上がった。目の前で倒れている兵士と、疲れた母親の姿を見た。

 シェルスは眠り続けていたが、危険な空気を感じ取り、機転を利かし静かに起こした。


「そのまま外へ出て駐屯している軍に連絡するわよ」

 1度だけ頷くと、眠たそうに目を擦っている妹をお姫様抱っこした。そのまま窓から片足ずつ外へ体を出した。

 

「次は母さんだよ」

 そう言いながら部屋へと首だけ向き直ると、もう1人の兵士が引き金を引こうとしていた瞬間であった。

 母親もそれに気づいた。銃弾の発射と同時に、2人を窓の外へと突き飛ばした。


「いきなさい!!」

 時間的には一瞬だが、彼とシェルスにとってはとても長く感じている。徐々に視界から母親の姿消えていくのだ。その顔は悲しくとも、嬉しそうにも見えた。実際はどんな顔をしていたかわからない。あまりに唐突な別れすぎて、母親の表情なんてきちんと見る余裕なんてなかったからだ。


 妹の体をかばい地面に体を打ちつけた彼は、シェルスの手を握ると走り出した。


「お兄ちゃん! ママ? ママはどうするの?」

「大丈夫! ママはちゃんと後から来るから!」

 妹にではなく、まるで自分に言い聞かせている。目が覚めてまだ5分も経っていない。ぼやけた頭をフルに活動させたが、何故こんなことになっているかわからない。

 いつも2人で遊んでいる街中とは違う、異様な空気を2人は感じとっていた。



 街に配置されている兵士達は、未だに敵の侵入に気づいていない。


「あそこだな、電線を遮断後一気に方をつけるぞ!」

 配電盤の配線を切断すると同時に、消音機サイレンサー付きの自動小銃を持った男達が次々とオーダー社、ユニオン社の兵士宿舎に入って行く。

「ピシュピシュ!」という音が2度聞こえる度に、誰かが倒れる音がする。


「オールクリア」

 1人暗視ゴーグルを着用していない男がいた。きりっとした顔立ちで目線がするどい。太ももにつけた飛刀用ナイフを指先で掴むと、報告にやってきた男の顔を掠めるように投げた。


「きちんとチェックしろよ――でなきゃ、後で痛い目みるぞぉ」

 ナイフは見事に首に命中しており、苦しそうに喘いでいる。それを見た他のヘファイストの兵士達は目を逸らさざるを得ない。だが奴は、そんなことはお構いなしに微笑ましい顔だ。


「よし、部隊に連絡。『我、街押さえし』とな」

 通信を終えた兵士が、握りこぶしに親指を立て、OKの合図を出した。


「大隊が来る前にもう一手だな。あっちはどうなってる?」

「それが手間取ってるようで、現在関係者を追跡中です」

「ふ〜ん、それはまずいね。非常にまずい。無差別爆撃の前に解決しないとな。こっちは片がついたし、応援に向かう。では行こうか」

 眉間を指で挟みながら指示を伝えると、兵士の後に外へ出た。しばらく歩き、振り向くことなく爆破スイッチとみられる物に指をかけた。

 その瞬間、兵士宿舎に仕掛けられた爆弾が一斉に起爆した。

「隊長! このタイミングでの爆破は……」

「うるさい、さー時間が無くなったぞ。上からの命令は絶対だ。もし何の手がかりも無しに引き上げてみろ? 俺には想像もつかんほどの罰がお前らを襲うことになるぞ?」

 燃え盛る爆炎をバックに、味方である兵士を脅す顔が先ほど以上に微笑ましい。完璧なるSだ。

 兵士達はいつも以上に足を動かし、関係者の捜索を急いだ。しかし、先ほどの爆音のせいで住民達は起き始めていた。

 路地に入った瞬間、ヘファイストの兵士達と鉢合わせた住民が次々と銃殺されたいる。兵士達も先ほどの、脅しと時間までの街からの脱出が頭をチラついていた。



ドリエル――近郊上空

 リンはトーマの背中にしがみつく格好で、ドリエルを目指していた。


「うう〜、かなり寒いですね」

「だから言っただろうが、もうすぐだから辛抱しろよ」

「わかってますよ。もう少し、優しく言ってくれてもいいのに……」

「え!? なんだって? よく聞こえなかったぞ」

「何でもないです! 寒いんですからさっさと飛んでください」

「はいはいはい――」

 街が見えてくると同時に、空が赤く染まっているのが見える。

 

1週間後に出来ればいいなぁ♪ とか書いてた割に、1月以上経ってからの更新となりました^^: 申し訳ないです。


次はもう少し早めに更新するようにしたいです。

ではでは



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