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CASE18:兵器

 ヘファイストは重歩兵隊を一瞬で失ったことで大きく戦力を削がれた。

「くそ、オーダー社の魔女め!」


 飛空艦の指令デッキでは、体格の良い指揮官の男は眉にしわを寄せていた。

 襟や袖の黒色を除いた深緑色の軍服を身にまとっており、左の胸元には勲章らしき物が輝いている。

 薄暗いデッキ中央に指揮官席に男が座り、左右にそれぞれオペレーターが並び、前方には操舵手をいた。


「だがまだだ! まだ終わってない! そうだろう?」

 男が椅子の肘置きを拳で叩き付けるながら副官らしい男に聞いた。

 

「ええ、我々にはまだこの飛空艦が残っています。それに例の新兵器も搭載しておりますよ、少佐」

 闘争心をあらわにした上官とは違い冷静な口調だ。

 その言葉に指揮官は口元を緩め、満足そうな笑顔を見せている。


「よし浮上後、例の兵器の実験も兼ねて攻撃を開始する」

椅子から立ちがるとデッキにいる兵士に命令を下した。






 飛空艦の大きな船体は静かに、そして圧力のある重低音を鳴らし空へ浮き上がったことに、司令室にいるランバート達がいち早く気づいた。


「大佐、奴ら飛空艦を起動させました」

 彼の声は、彼女の無線から溢れように周囲にも聞こえた。


「大きな声で言わなくてもわかるよ。副官であるあなたがそんなに慌てちゃ部下も慌てちゃうよ」

 薄暗い雲に覆われた空へと上がっていく鉄の塊を見上げ、ため息混じりに返事をした。

 兵士達はランバートの声と姿を現した飛空艦のせいで、周りと互いに顔を見合わせ不安そうな顔をしている。


「うろたえるな! お前達の隊長はそんなにやわじゃないはずだ」

 周りの浮き足立った空気を読み、兵士達に渇をいれた。

 そんな中、彼の姿に一番心を引かれていたのはレミリアである。そう、昔見た光景と重なっていたのかもしれない……。

 

「あとはあんたがしろよ」

 自分を呆けた顔で見ていた彼女に、それだけ言うと基地の前部を覆う魔障壁の内側へと戻った。


「トーマが渇を入れるとこ久しぶりに見ちゃったな」

 その小さな歩幅で彼に追いつくこうと早く動かせた。


「……」

「元軍人としての血が騒いだとか?」

 トーマは彼女の言葉に口を開くことなく、兵士がいる中をゲートへと足を進める。

 違うなら違うと言ってもらいたいものだ。そんなことを言いたげにレミリアは腰に手をやり、彼の背中を見送っている。



 薄暗い空に浮いている飛空艦の装甲が変形し、内側から複数の砲門が姿を現した。

 次の瞬間砲門が火を噴き、次々と魔障壁目掛けて砲撃を浴びせ始めた。

 爆炎と砂ぼこりにオーダー社の兵士は動じることなく持ちこたえている。だが、一方的な攻撃でこちらからは一切手出しが出来ない状況になってしまった。


「みんな大丈夫?」

「大丈夫です、大佐!」

 自分達を気遣う言葉に兵士達は余裕な返事をするが、苦しそうな表情を見せる。

 

 砲撃が止むと、飛空艦の後部より発射された複数のミサイルが飛来し、魔障壁直前で炸裂した。

 杭状の物体が障壁の周囲に降り注ぎ突き刺さった。その先端は赤色に点滅している。

 しばらくのその杭を見守っていると、レミリアと兵士はあることに気づいた。


「障壁の力が弱まっている……?」

 いつもの魔力では障壁展開が難しくなっていた。それがゆえ、魔力の消費も激しい。

 そこに追い討ちをかけるように艦砲射撃が再開された。

 1発着弾するごとに青い光は消え、強度が落ちていくのがわかる。

 

「大佐あれは一体?!」

 状況を理解しようと頭を働かせていたレミリアの耳を、不意にランバートの焦りを感じさせる声が響いた。


「それより、魔障壁陣を後退させて強度を上げるからちょっとまって!」

 爆音で声による指示が伝わりにくいため、ハンドシグナルで後退と防御の指示を出した。兵士達もそれに従いゲート付近まで戻り、障壁の間隔を狭めた。


「ランバート君、これはもしかするとヘファイストは完成させたみたいだね」

「恐らく…そうでしょうね」

 雑音に負けないように、無線マイクにめいいっぱいの声をかけている。

 話を終えると、不気味に光る杭状の物体にきりっとした目つき向けた。






「奴らめ、新兵器に威力を味わったようだな!」

「そのようですね、これからどういたしましょうか?」

「このまま砲撃を続けろ! こちらも間隔を狭めて杭を打ち込んで、釘付けならぬ杭付けにしてやれ!」

 勢いよく立ち上がり、モニターに映る基地に向かい指を差し命令をした。その姿は、残念なことに本人が思っているよりも、かっこいいものではない。

 むしろ変だ。自分のそんな姿を部下達は呆けた顔で見ている。


「さっさとせんか! ………というかわかってるよ! かっこわるいよ!」

 必死に手振り身振りをしながらいい訳する男だったが、シラケタ顔でモニターに向きなおす兵士達の態度に、ストンと腰を落とすと、恥ずかしそうに頭を抱えている。

 それを見て副官の男が近寄り肩を数回叩いた。


「少佐――――あれはダサいですよ」

 間を開けての駄目押しの一言だ。しかも爽やかな笑顔でだ。

 その声と笑顔に体を硬直させ、呆然としている。


「わかったか、砲撃を続けろ! 後部ミサイル発射管装填」

 副官は咳払いを1つすると、威厳のある声で命令を再度伝えた。その横で体格のいい男が人差しの両先端を合わせブツブツと言っている。


「…いやさ…たしかに……ったけどさ…な…こと…いわ……も」

「少佐! モゴモゴ言わないでハッキリ言ってください!」

「いや…なんでもない……」

「だったら次の指示を出してください」

「う、うん……ごめん……」

 どっちが上官だかわからなくなる光景が、デッキでは繰り広げられていた。たまたま、見た目から想像出来ないほど気弱な男の下に、ドSな男がついただけなのだ。


『部下に恵まれないよ……』

 人事部の耳に入ることを祈り、小言を心の中でする外見とギャップのある気弱な指揮官であった。





 目の上のコブである飛空艦内で、そんなことが起きているとはレミリア達は知る由もなく、ただただ苦戦を強いられていた。

 下がった付近にもミサイルにより、次々と杭が打ち込まれていく。


「トーマ、どうしたんだろうね? こんなに下がって来ちゃって。それにあの杭は?」

「さーな、今はわからん」

 腕組みをしながらゲートへもたれかかっていると、後退する兵士を見て不思議そうな顔をしたシェルスが質問をしてきた。

 トーマの表情はいつもの仏頂面だが、目は早足で戻るレミリアに注がれている。

 無線に耳を傾けながら困惑の表情を隠せないでいる彼女にトーマは声をかけた。


「どうしたんだ。こんなとこまで退いちまってよ」

マジックキャンセラーだ」

「M・C?」

 興味あり気な単語に2人は声を揃えて聞き返した。


「我々オーダー社軍は魔力保有者が多い。それを前々から脅威に感じていたヘファイストの連中が開発していたと情報が入っていた。恐らくアレがそうだろう。どういう仕組みかはわからないけど、魔法の魔力結合を弱くする磁場のようなものが発生しているみたい」

 話を進むにつれて、深刻な顔つきになるトーマとは違いシェルスはいまいちピンとこない様子である。


「もっと魔力を強く込めればいいんじゃないの?」

「バカかお前は、それじゃー無駄に魔力を消費しちまうだろうが」

「久しぶりにバカって言ったな!」

「もういいシェルス。バカ談義また今度だ。大佐、あんたがもう一度あの魔法を使って艦を落とせないのか?」

 彼にすかさずダメだしを入れられてしまい、ほっぺを膨らませている。

 話を途中で切り替え、レミリアを見て返事を待った。


「あの魔法は日に1回が限度なの。それに、あのM・Cあると威力もどこまで落ちるかわからないし……」

「リン! この距離からライフルで狙えるか?」

「無理よ! 視界が悪すぎる」

 雲空と同じように暗雲がオーダー社軍に立ち込めた。ずっとゲートを守り続けているカイルの顔からは汗が噴出し疲労感を感じる。

 他の兵士達の魔力の限界も近い。このままだと基地の防衛はおろか自分達の身までも滅んでしまう。


「じゃ、あのM・C? っていう杭を壊せばいいじゃないの?」

「そりゃそうだが、誰があんな砲火の中を壊しに行くんだ?」

「あたしが行くよ!」

 シェルスは元気よく手を上げたが、トーマは顔を覆った。


「お前じゃ駄目だ。不安要素が多すぎる。それに何より危ない。これも生きるためだ。俺が――」

「俺が、視界の良い場所へ出て狙い撃つ? そんな危ないことは私もトーマにさせない」

 銃の点検をしながら障壁へと進もうとした時、レミリアがそれを阻止した。

 服の裾を持たれた状態で振り返ったそこには、首を横に振りニコリと笑う彼女の姿があった。


「私はこれでも大佐でここの部隊長だよ? 部下のために命張らなきゃね♪」

 先ほどと同じ笑顔を振りまきながら、兵士達に手順を説明を始めた。

 いくら魔法の使い手といえど、この砲火ただで生きようなんて無理だ。

 

「いくらなんでも無茶だ!」

「でも、他に方法がない以上は私が行かないとね。それに――私だってあんな想いはもうしたくない」

 寂しげな表情を隠すようにいつもの笑顔を取り繕っているが、不安な気持ちがひしひしと伝わってくるのがトーマにはわかった。


「大佐! やめてください! ここであなたを失うわけには」

「だけど、ランバート君―――」



「そうだぜ、小さな部隊長さんよ〜。方法ならまだ残ってるぞ!」

 沈黙を破るような男の声が無線から聞こえた。聞き覚えのある声だ。


「爆炎や砂ぼこりで視界が悪くたって、俺はどんな的にでも命中させられる。それにもう1人優秀なスナイパーがここにいるしな」

「大佐! 聞こえますか? マルカムです!」

 新しい声の主は、シェルスとカイルに基地内を案内したマルカムだった。


「無線も入れずにお前は今までどこに行ってたんだ? で、今どこだ?」

「狙撃ポイントを探しててな、トーマのアホ面もバッチ見えるぜ〜」

 トーマはこの場を打開する大きな手立てを手に入れたことで苦笑いを見せた。


「それでいけるのか?」

「ったりめーだ。杭の先端の赤い点滅ランプが仇になったな。ここからよーく見える」

 余裕たっぷりな声に緊張が解けた。その声だけでなく、希望が見えたことにより不思議と力が沸いてくるのだ。

 先ほどまで感じられなかった力を魔障壁からは感じることができる。


「M・Cの排除後、全力で飛空艦アレを落とすよ!」

「サー! イェッサー!」

 掛け声と共に白服の銃装兵が、それぞれバズーカ砲を肩に担いだ。

 黒服の魔道兵は、2人1組で並んだ。片腕を突き出し合い詠唱を始めた。

 青い光の玉が徐々に大きくなるのがわかる。


「チャージ完了です!」

 魔道兵の声を聞き、頷くとテッド達に命令を出した。


「始めて!」

「了解!」

 2人の声が無線から返ってくると同時に、1本目のM・Cが壊れた。

 激しい砲撃で視界が悪いが、次々と破壊を伝える無線が入ってくる。それと同時に、レミリアは魔力をいつもと同様に感じていた。

 

 M・Cが破壊されていることに気づいたヘファイスト社軍は再びM・Cミサイルを発射してきた。


「これ以上はさせないよ! ホーリーショット!」

 空中で待機していたレミリアの手の平から、連続して光の波動が飛び、ミサイルを落としていく。


「残りはあたしのもんだー! バーンスライス!」

 すり抜けたミサイルも、剣に込めた半円形の炎の斬撃で打ち落とされた。

 シェルスは爆風を顔で感じ、中々魔剣士として様になった格好になっている。


「撃てー!」

 ランバートの指示で魔道兵、銃装兵が一斉に攻撃をした。

 魔道兵の青い光の波動は一直線に、銃装兵のロケット砲は煙を引きながら飛空艦に着弾した。自分達の砲撃が作った砂ぼこりせいで、迎撃が間に合わなかった。半数近い砲門が大破したうえ、破壊された装甲からは煙が上がっている。


「やったぞー!」

 煙を上げる飛空艦を見て、兵士達の歓声がその場に響いた。

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