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CASE16:苦い記憶

物資と5人を乗せたトラックは、シェルスの吐き気以外のトラブルもなく採掘基地へと乗り付けた。

採掘基地は山と並行に建設されている状態だ。

兵士は門番にIDカードを見せ、荷物の説明をしている。彼らは荷物を調べ終えると、ゲートを開け、中へ入れてくれた。

最近建設されたために施設内は綺麗である。


「さっ! ここの指揮官殿に挨拶に行こうか!」

テッドが勢いよくトラックから降りたことを確認し、それにシェルス達も続いた。


「トーマ! 元気ないぞ〜!」

浮かない顔のまま基地内に足を着けたトーマに、シェルスは明るく声をかけながら近寄る。

彼女に適当に返事を返し、リンに目配せをした。彼女も彼同様の行為をしてきたことで、ここの指揮官が誰かということを互いに認知し合った。

いくつかある扉の1つが開き、そこから150cmほどの小さな女が出てきた。オーダー社の腕章は付いているものの、軍服の色は黒色で、羽織っているケープは対照的な白色だ。腰まで伸ばした鉛丹色の髪を揺らし、テッドの方へ近寄っていく。


「いや〜、ご苦労っだったね〜! 山道はひどかったろう?」

「まぁ、それなりに揺れましたね」

「私がこの施設の部隊長のレミリア・スターシャだ。階級は大佐、よろしくっ!」

先ほどの基地の指揮官とは打って変わり、愛嬌のある顔と話し方である。

テッドと握手をしながらトラックの方を見た。握手されている本人は、あどけない顔つきの彼女が部隊長であるだなんて信じられない表情をしている。

女はトーマとリンの存在に気づき目を輝かせ近寄る。


「トーマ、リン! 久し振りだね〜。何年ぶりだろう? 隊を離れて以来だから――」

「10年です。あれから10年ですよ。あなたも変わらず元気そうで何よりです」

トーマは会釈をしながらさらりと答えるが、リンは2人の表情を伺っている。


「で、どうなんだ? お前らの関係は? 進歩したのか?」

リンの首筋に腕を絡ませ、自らの口元まで手繰り寄せると、トーマには聞こえないよう耳うちをした。


「ふぇ!? そんなの今聞かないでくださいよ! っていうか何もありませんよ!」

そう言いながら真っ赤にした顔を隠し、絡まされた腕を解き、後ずさる姿を見てレミリアはニヤリと笑ってみせた。


「それで、例の子ども達が――あの2人というわけか」

愛らしい笑顔で手を振ると、2人もそれに応えている。

マルカムが間を見計らってレミリアへの報告に入った。


「報告します! 先方よりの物資運搬の完了しました!」

敬礼しながら先ほどとは、まるで違う口調でレミリアに伝える。


「ご苦労さま、ゆっくり休むといいよ」

上官らしい軽い敬礼と共にねぎらっている。


「さー! 君達は一応客人だ。私の部屋に来ないか?」

くるりと回り5人を見て、誘いの言葉をかけている。

その呼びかけに反応したのは3人だけで、シェルスとカイルは倉庫内を見渡していた。


「2人はこういうところに来るのは初めてなのかな? マルカム、休憩の前に悪いけどあの子達に施設の案内をしてもらえるか?」

「了解しました」

2人と見ると、うなずき傍へ駆け寄って行った。身振り手振りを入れながら施設見学へと誘っている。


「トーマ! マルカムさんに施設なか見せてもらってくるね」

「おう、バカなことだけはするなよ〜」

「んもぅ! そんなことしないよ!」

トーマの憎まれ口に一々反応してる彼女を見て、レミリアは微笑を浮かべている。

2人はマルカムの後に続いて、開いたゲートへと消えゆき、大人組はレミリアの部屋へと案内されていった。


「おいトーマ。お前にあんな若くて小さな子みたいな知り合いがいるとは驚きだよ。それにしても、若くして昇進したもんだな。大佐だぜ、大佐!」

通路の途中で片腕を彼の肩に乗せ、溜まっていた感想を吐き出した。


「若い若いって言うけどな……彼女お前より2つは年上だぞ」

乗せられていた腕を払い除けると、逆に肩を叩きながら酷な事実を教えている。

マイペースな彼もさすがに驚きを隠せないようで、揺れる長髪とトーマの横顔を何度も往復させている。


「ここだ、色々立て込んでてね。あんまり綺麗じゃないんだけど、一応ここが部隊長室だよ」

機械音をならしながらに扉は開き、部隊長室の姿を現した。

フリーランサーの応接室よりも少し広いスペースには、ソファーとデスクワーク用の机が置かれている。四方は金属の板張りで何とも寒々しい空間にも見える。

ソファーに座るようにと手振りをされたことに従い、3人は順次腰を下ろしていく。


「レミリア大佐殿、こちらに出来ればサインを頂きたいのですが?」

内ポケットから出した報告書をテッドは手渡した。


「OK! すぐ書くからちょっと待っててね」

「いえ、そんなに慌てなくてもかまいませんよ。ちょっと俺も施設内を見たいですし、明日の出立までにでも渡してください」

受け取るや否やペンを握ると机に向かう彼女に対し、腕を突き出しその行為を静止している。


「わかった、では明日までに渡すようにするよ」

「それでは、失礼します」

それだけ言うと3人を部屋に残し彼は出て行った。

室内から出たテッドはタバコに火を付け一息つける。


「はぁ〜、あんな重っ苦しい空間はごめんなんだよ。あーゆーの苦手っていうかメンドーなんだよな〜」

ボサボサの髪を掻きながら、先ほどの場では言えない事を口にし、通路を歩いて行った。。


一方シェルス達は施設内見学を大いに満喫していた。

すれ違う兵士達のなかには、白と黒の軍服を着た者がいるようだ。

それに気づいたカイルは引率の彼に声をかけた。


「マルカムさん、白い軍服と黒い軍服を着た人がいるのはどうしてなんですか?」

「あ〜、あれはね。魔法を使える兵士は黒い軍服を着るように決まってるんだ。白色はそれ以外の一般兵ってこと」

足を止めると、質問に微笑みながら応える声に聞き入るカイル。


「じゃ、マルカムさんは一般兵ってこと?」

「うっ! まぁまーね! そういうことになるかな……」

魔法を使えるほど優位なこの世界では、何ともデリカシーのかけらもない質問である。

彼の元気のない背中を最後尾にして、3人は施設内を再び巡りだした。


「見た目があれだが、中々いい奴そうじゃない。それときたら君達はいつまでそんな顔してるつもりなのかな?」

テッドが去った後に真っ先に口を開いたのはレミリアだった。

何を話せば良いのやらと困惑した表情を2人はしている。


「これはあなたが仕組んだことなのか?」

「ん〜、どうかな〜? 直接的ではないけど、間接的にはそういうことになるかもしれないな〜」

口を開いたトーマは、自分のとってこの不快な状況の説明が欲しかった。

オーダー社にいた頃の上官にこんな場所で出くわすなんて考えてもいなかったからだ。


「あなたは相変わらずそうやって話をややこしくするんですね。失礼します!」

「まだあの事で怒っているのか?」

憤りを感じ、ソファーから立ち上がり扉へ近づく彼の背中に、その言葉が重くのしかかる。

思わず足を止めた自分に駆け寄ろうとするリンを拒んだ。


「あなた方企業は、所詮上っ面だけだ。本意は自分達の利益の事しか考えていない! それに俺は、街1つを他企業に見す見す攻めさせ、それを大義名分に侵略するなんてこともできない! 救えたはずの命がいくつあったと思ってるんだ……」

リンはトーマの声を丸めた拳を胸に当てながら聞いている。


「なるほどね。だからあの子達を引き取ったのか?」

「………」

「それで何が変わった? 世界か? お前の心か? それともあの子達の? ――例えお前の心が変わったとしてもそれは自己満足に過ぎない」

小さな体は立ち上がると、彼を見ながら歩み寄って行く。口から発せられる言葉にはいつもとは違うとげトゲしいものを感じる。


「うるさい! 俺はあんたのそういとこが嫌いなんだよ」

近づくレミリアに強い口調と睨みをきかしている。

その空気にあたふたとするリンにおかまいなしだ。


その空気を変える振動と爆音が施設内を襲った。

けたたましい警報音とともに兵士が部屋の扉を開けた。


「大佐! 敵です! それもかなり接近されてます!」

「なんだって!? またいずれきちんと話をしよう!」

彼の顔を指差しそれだけ言い残すと、レミリアはケープを羽織直し部屋を出た。

2人もその後すぐに部屋から飛び出し、無線の電源を入れた。


「3人とも大丈夫か?」

「ほい!」

「はい!」

シェルスとカイルの声。さらに奥から慌しい兵士達の声が聞こえる。

しかし、テッドの声は聞こえてこない。


「2人共、とりあえず入り口まで来るんだ! 俺達もそっちへ行く」

「OK!」

集合場所を伝え、走ってその場へと急いだ。

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