CASE15:ドライブ中に聞かされる名
ヘリは1時間ほどの飛行を終えると目的地であるオーダー社の山岳地帯の基地に到着した。
空の旅は快適だったらしく、シェルスは寝息をたてている。隣に座っているリンに体を揺らされると大きなアクビをしながら機内から降りた。
ヘリのエンジンは静かになっており、基地の外には地面がむき出しの山々が見える。
5人を迎えるように1人の男が近づいてきた。オーダー社の白の軍服に白のベレー帽。唯一、靴と肌の部分が白色ではない。男気のある顔つきの持ち主で、トーマよりもはるかにガタイが良い。
「ご苦労、要望通りの人数と――腕をお持ちのフリーランサーの諸君」
男は言葉を詰らすと、女、子供を含むに面子を目にし、馬鹿にしたような口調で話を続ける。
トーマは腕組をしながらその男に見つめていた。
「あんたが想像していた風体と俺たちが違っていたかな?」
「多少な。だが、上からの命令は絶対だからな。不満があろうとなかろうと、俺たちは命令されたことをどんなことをしてでも実行するだけだ。こっちだついて来てくれ」
男はそれだけ言うと歩き出した。5人も追うようにその後に続く。
基地内は至る箇所に戦闘での傷跡が見受けられる。戦車、装甲車、軍用ヘリ、その他物々しい装備を持った兵士がそこらにたくさんいる。すれ違う兵士は立ち止まると、物珍しそうに彼らを見ていた。
こんな敵企業との統括区境に客など滅多来ないからだ。
「何をしている! ぼさっとする暇などないはずだぞ!」
「サー! イエッサー!」
男が鋭い眼光と渇をとばすと兵士達は敬礼とともに、訓練所で何百回、何千回と言わされたであろう台詞を言った。
その声に肩を竦めビクつくカイルの肩をポンと叩くリン。笑顔で彼の不安を取り除いた。
もうしばらく歩くと2台の大型トラックが見えてきた。恐らくこれが護衛対象でだろう。
「お前達に護衛してもらいたいのはこれだ。弾薬、食料、雑貨、その他もろもろこれに積んである。目的地はここから南西へ20km行ったところにある採掘基地だ。契約にもあったが、到着後は向こうの部隊の指揮下に入り、翌日折り返しの荷をこちらへ運んできてくれ」
「たかが20kmぐらいあんたらで運んだ方が良かったんじゃないのか?」
面倒な相手に絡むトーマにテッドは制止させようとする視線を送った。
「――そうだな、確かにその通りだ。本来は本社から私に降りた命令なんだがな、今ここで自分の部隊を割くのは戦略上まずいと判断したんだよ。だから君達を呼んだわけだ」
この基地での上官ということもあってかさっき以上に高圧的な話し方をする。
「運転手はこちらで用意してある。他に質問が無ければとっと働いてくれないかな?」
それだけ言うと男は立ち去った。
5人は運転手である兵士に軽い挨拶をするとそれぞれ乗り込んだ。
空は出発前と何ら変わりない。
「さー、ドライブに行こうか!」
テッドの明るい声が無線に入った。
地図上では20kmだが入り組んだ山道のため通るために数字以上の時間を食ってしまう。慣れない者には辛い道のりなるだろう。
前方を走るトラックにはトーマとテッドが乗り、後ろを走る方に残る3人が乗っている。
タイヤと砂利が擦れ合う音と、エンジンが車内には聞こえる。
山道を走り始めて10分が経とうとした時シェルスに異変が襲った。
「うげ〜、気持ち悪いよ〜」
「水飲みますか? 気分が和らぎますよ」
持参していた水筒を渡すと両手でガッチリ持つとおいしそうに飲み始めた。
兵士も窓を開けて気遣ってくれている。
「ふぅ〜、ちょっとスッキリした。ありがとうカイル」
「良かったです」
「こっちと変わろうか?」
助手席に座っていたリンが声をかけてきた。シェルスはそれに頷き嬉しそうに移動する。
だが、助手席に座ったものの晴れない表情を浮かべていると兵士が声をかけてくれた。
「曲がる先々を見てると酔いにくいよ」
「へー、そうなんだ! ところでお兄さん名前何て言うの?」
「私ですか? 短い間とはいえ、共に行動をするなかですしね」
「そうだよそうだよ!」
運転席を見ながら世話しそうに手を動かすシェルス。
その姿を見た兵士は何かを思い出すかのように、そして、恥ずかしそうに口を開いた。
「マルカム、マルカム・C・ホーキンス」
「マルカムさんか、あたしはシェルス、そっちの男の子がカイルで、あたしの後ろに座ってるのがリン」
「2人ともよろしくです。後もう少しで基地が見えてきますよ」
軽く後部座席を見ながら声をかけると、2人はそれぞれに返事をした。
「それにしても、あなたの上官は最低ね。よくあんな奴の下で動けるわね」
「だよね〜、あの話し方なんだかムカつくよ〜」
腕組みをし不機嫌そうなリンと、唇を尖らし憎まれ口を叩くシェルス。例え嫌な奴だとしてもマルカムに申し訳ないと思い、それ以上は言わせまいとアタフタするカイル。
それを見て、笑いながら彼は話しだした。
「あっ、あの方は私の上官ではないんです。私は今向かっている基地に駐留している部隊の者なんですよ」
「そいつもさっきのやつみたいじゃないよね?」
用心深そうな目でマルカムを見つめるシェルス。
「いえ、大佐は部下想いで優しい方ですよ」
ハンドルから片手を離すと親指を立て、自慢しているようだ。
「ちなみにその大佐の名前は?」
「レミリア――」
「レミリア・スターシャだって!」
マルカムが話そうとする前。先行するトーマには基地の責任者の名前を聞かされていた。
思わず声を荒げてしまい、同乗しているテッドと兵士の目が点になっている。
深く息を吸うとこの依頼請けた事を公開するように大きなため息をついた。
「あ! 見えてきましたよ!」
「レミリア・スターシャか・・・・・・トーマが知ったら大変だろうな」
リンはその名を口にしながら見えてきた基地を見据えていた。