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CASE13:BAR EGOISMO《エゴイスモ》

ユニオンの一件から数日後の中立都市ラジスタ。

街を照らす光が陽から街灯へと変わる頃、4人はトーマの行きつけの酒場にいた。

あの一件以来、シェルス機嫌がすこぶる悪かったからだ。

よほど大人への願望が高いようで、「どーせあたしは子どもですよ〜!」を、口癖のように言われたのだ。

これをいい加減にどうにかしたいトーマは、大人の社交場としてのこの場所に連れて来たわけだ。

以前にも連れてきたことはあったのだが、彼女の大食漢は酒場での飲食代を理解出来ないようだったので連れて行くことはなくなった。

味音痴のリンに変わりカイルが料理を覚えてからは、家計のやりくりも非常にやりやすくなったのだ。


「親父、いつものくれ」

「あなたは相変わらず私のことを親父と呼ぶのですね」

ムスッとしながら酒瓶とグラスを差し出す丸眼鏡の店主。

出し終わると再びナイフを握り、眼鏡にかかるほど伸ばした栗毛を揺らしながら素材を切りだした。


「ロイドさ〜ん、白身魚のカルパッチョとバナナシェイク追加してくださ〜い! あっ! あとエビフライと!」

「はいはーい、ただいま! シェルス相変わらずよく食べますね。あの体積が花車きゃしゃな体のどこに入るんでしょうかね?」

見据えた先の机には皿の牙城が築かれ、周りの客もそれに目を奪われている。

カウンターに座る残りのトーマ、リン、カイルはそれぞれウィスキー、ビール、オレンジジュースを片手にロイドの言葉に耳を傾けていた。


「それで――何かあったんですか?」

テキパキと注文の品を作りながら問いかけた。

揚げ物の音が聞こえる中、口にグラスを運びかけた手が止まった。


「何かって何だよ」

「あのねロイド、トーマがシェルスのことを子ども扱いするからスネちゃってね。それで機嫌取りに来たんだよ。ねーカイル?」

ストローが挿されたグラスを両手で持ちながら2,3度頷くカイル。

ロイドはそれを聞いて鼻で笑った。


「トーマ、あなたも可愛いとこあるじゃないですか」

「そんなんじゃねーよ! 最近仕事以外で4人の時間が少ないからたまにはいいかなって思っただけだよ」

トーマを茶化しながら片手にはシェイクの入ったジョッキ、もう片方には出来上がった2品を乗せた皿を持ち慣れた手つきでシェルスへと運ぶ。


「はい、お待たせ」

「ありがとう! さらに追加で――」

「食い気も良いけど、そろそろあっちで話しませんか? その方が大人っぽいと思うけどね」

カウンターへ戻りながら軽く振り向く、その彼の丸眼鏡の奥にはクスリと笑顔を覗かしている。

シェルスはフォークに刺したエビフライを咥え、ロイドの後ろを姿を見つめている。


「カイルにはこれあげましょう」

「何ですかこの葉っぱとピンク色のおだんごは?」

小皿にちょこんと乗せたその食べ物はカイルやトーマの目には不思議に映っていた。


「わっー! 懐かしいな。桜餅」

「桜餅?!」

2人は眉を細めてリンを見た。

ロイドは腕を組みながらいつものスマイルだ。


「うん、小さい頃いた東にある国……今は地区かな。そこのお菓子なんだ」

トーマは言葉を詰らせるも、黒い髪を手グシで解き、明るく振舞う彼女を気遣うように顔を覗きこむ。

カイルは気づいていなかったが、ロイドは彼の行動に気づいているようだった。


「へー桜餅って言うんですね。葉っぱも一緒に食べるんですか?」

「私は取って食べてたけど、一緒に食べる人もいたね」

それを聞くと、葉っぱを取り恐る恐るかぶりついた。

モグモグしながら、みるみる内においしそうな表情がその場に伝わる。


「何食べてるの〜?」

すべて食べ終わった頃、ジョッキを片手にカウンターへと来た。

カイルの横に座ると催促するような目線でロイドを見ている。


「もう無いです」

「ええ! ロイドさんひどいよ〜、あたしの分は残しておいてくれないと〜」

「はぁ――すみません。でも、大人のシェルスにはもういらないと思いまして」

「……そうだよね〜、あたしは大人だもんね〜! 聞いたトーマ、あたしはもう大人なんだってさ!」

「そうだな、お前はもう立派な大人だよ」

返事をするもののあからさまに心が篭っていない言葉だ。表情からは面倒めんどくさそうオーラが放出されている。


「ちょっと! もう少し元気よく言ってくれてもいいじゃんか!」

ワサワサと右へ左へ、相変わらず元気なポニーテールだ。


「大体トーマは――」

「オーッス! 元気かお前ら?」

言葉を遮り、現れたのはテッドだった。


「テッドさんも元気?」

「まぁまぁだ。シェルスちゃんはいつもかわいいな」

シェルスは決まり文句をまともに受け取り喜んでいる。

かまう時はとことんな奴と、かまわれるの大好きな奴。見ていてこれほどバランスのとれた2人がいるだろうかと思える。

そんな風に思いながらトーマは冷ややかな目で2人を見ていた。


「親父! ミルクチョコレート!」

「あなたも相変わらず親父ですか」

ため息を漏らし、材料を取りに店の奥へと消えていった。

クルリとトーマ達を見ると話し出した。


「今度の仕事に人手が足りないんだが、一緒にどうだ?」

「いやだ」

テッドは間髪を容れることなく応えるトーマに腕を回し顔を近づける。


「んなこと言うなよ〜、寂しいじゃね〜かよ。G・O社の資源運搬護衛で1人4万だぞ4万!」

「うるせ〜、お前と一緒の仕事はいつも大変なんだよ」

「私は別にいいよ」

会話を聞いていたリンがあっさりと承諾を出した。


「ちゃんとした理由がないってことはいいんでしょ、トーマ?」

「……わーったよ! 付き合ってやるよ」

「よし! じゃ決まりだな。詳しい内容は明日、フリーランサーで話すよ」

奥から戻ってきたロイドからミルクチョコレートを受け取ると、一気に飲み干し店から出て行った。


「仕事も入ったことだし、そろそろ俺らも帰るぞ。いくらだ?」

「8千です」

「そんなにいったのかよ、シェルスもうちょっと抑えて食えよ」

「あたしは我慢はしないようにしてるの」

「ちょっとは我慢してくれよ……」

財布が一気に寂しくなったのことを感じながら、店から出て行く。


夜が更ける中、4人は自宅へと足を向けた。

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