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CASE11:素直な気持ちで…

爆風による粉塵が収まりつつある時リンは重要な事を思い出した。

今向けている銃の弾装マガジンには一発たりとも弾は込められていないことに。

当然そのことにトーマも気づいているはずだ。

カイルはリビングから死角になるキッチンまで引き込むとコニーに対して、立てた人差し指を唇と鼻に押し当てながらじっとしてるように伝えている。


リンの向ける銃口の先には2人の女が立っていた。

1人はウエストラインがはっきりとした黒のレディーススーツにズボン。怖い目つきと口にはタバコ、ショートの銀髪が特徴的だ。

もう1人は、フリフリのエプロンにゆとりのあるロングスカートの服装。世間一般で言うメイド服を着ている。

銀髪の彼女とは対照的に見るからに優しそうな女性である。

ロングであろうピンク髪は1つのお団子にまとめられ、彼女の穏やかさをさらに引き立てている。

だが、どうしても対峙するリンにとってはその良さが伝わってこないでいた。

なぜなら、メイドの手に握られた銃によってそのすべてが台無しになっているからだ。


「痛ったーい! 何がどうなった…の?」

倒れていたシェルスも無駄に元気良く起き上がると自分が今置かれている状況を飲み込もうと辺りを見渡した。ガラス破片は散らばり、レースのカーテンは無残な姿で床に落ちていた。

玄関の方に首を向けるとそこには、買い物帰りに見たあのかっこいい男性が立っている。

両手に持つ拳銃の1つは自分に向けられ、もう1つはトーマに構えながら。


「君はさっきの…? まさか君みたいな子がこんな悪事に絡んでいたなんて」

シェルスに気づいたその男は悲しそうな表情を見せながら、仲間であろう銀髪の女に首で合図を送った。

銀髪の女はシェルスもところまで行くと、袖口から出したナイフを彼女の首に突き当てた。

リンもトーマも目の前にいる相手に注意するのが精一杯で、彼女を庇う余裕が無い状況。

すぐにられるということは無いという確信があった。

そう、殺すなら踏み込んだ一瞬で勝負は着いたに違いないからだ。


「悪事って何のことだ? お前ら人んに度派手な不法侵入ぶちかましておいて勝手な事言いやがって!」

「黙れ! この部屋に我らの社長がいる事はもうわかってるんだ!」

男の社長の一声に反応するコニーを見て、カイルは気づいた。

今いる追っ手の事はこの子はよく知っているに違いないはずだと。


わたくし共も出来れば手荒な事はしたくありません。社長を無事に取り戻どしに来たのであって、他人様をどうこうしに来たのではありません」

「アリエル、お前は甘いんだよ。そんなことよりちょっと痛めつけて聞き出す方が絶対早いぜ! なぁシーマス?」

「ナイン、お前がしゃべると話がこじれる。アリエルが言ったようにそんなことをしに来たんじゃないんだ。だが、あの御方が過ちを犯す前に連れ戻すには多少の手荒な真似は必要か…」

軽く頷くシーマスを見たナインはシェルスを羽交い絞めにし、手に持ったナイフを首元に押し付けた。

短くつまり気味のあえぎ声を上げると、キッチンを背に引きずられて行く。


「あの子の身が惜しければ、その銃を下ろして、社長の居場所を教えるんだ!」

トーマとリンは互いの目の前にいる敵を注意しつつも、彼女を気遣うために視界の端っこに捉えている。

2人空の銃を構えつつもこの状況をどう打開すべきかを必死で考えていた。

この銃が空ということもいづればれてしまうだろう。

そんなことが頭をよぎり出したその時、キッチンより現れたカイルが首元に押し付けられていたナイフを弾き飛ばした。

不意を突かれたナインは一瞬怯んだが、カイルの胸倉を掴むと意図も容易くその場に倒した。

リビングで銃を向け合う4人は、突然の出来事に冷や汗を掻いたに違いないだろう。

シーマスは腰のホルスターからすかさず銃を抜くと、倒れた彼女に対し向けた。

最悪なパターンだ。人質を2人もとられてしまった。


「さぁ! そろそろ終局の時間ですよ。社長を出してください!」

それを聞いたシェルスはトーマの方をチラチラと見ている。

こんな場合は大人しく相手の要求を受け入れることが一番。

そう考えたトーマが銃を置きながら話し出そうとした時、キッチンよりコニーが出てきた。


「社長!」

3人のその声は安堵とも歓喜ともとれるものである。


「ご無事そうで何よりです。早くこんなところからおさらばしましょう。今の内に出口のほう…」

「黙れ…私は帰らない…。私にはするべきこと…やらねばならぬことがあるのだ!」

強気な発言とは対照的に、目は潤ませている。

手には先程ナインから弾き飛ばされたナイフ。迷うことなくその白刃自らの喉下に突きたてた。


「とにかくそのナイフをこちらへ投げてください。ご不満があるならお聞きしますから」

「うるさい! お前達に話したって反対されるから私は社から抜け出したんだ! お前達だけじゃない! 幹部の者だって反対するに違いない。私はこいつにG・O本社まで連れて行ってもらうんだ! そこで…」

「そこであなたは何をするおつもりか! たった1人で!」

「1人じゃない! ちゃんと協力者もいる…それに心には大好きだったパパもママもお祖父様も」

その場にいる全員の視線はコニーに向けられていた。

女の子の呼吸音がやけに大きく耳に入ってくる。

静かに、そして優しく微笑むとシーマスは銃をホルスターになおしながら、ゆっくりと女の子に歩み寄って行く。

さすがにこんな状況だ。トーマ達もどうこうしようとする気は無いようだ。

2人がどうなるかをただ、じっと見つめている。


「それ以上来るな! ほんとに刺すぞ!」

後ずさりしながら震えた声で精一杯抵抗している。

しかし、そんな声は彼には聞こえていなかった。

静かに歩み寄る彼に見せ付けるようにナイフに力を入れた瞬間だった。

彼は刃を素手で掴むと、小さな手から引き離そうとしている。

女の子もナイフを取られないように引くが、ビクともしない。だが、確実に彼の手のひらの肉には刃が食い込んであろう。

ナイフの柄の部分まで滴りだした血がそれを物語っている。

その場にいる一同が驚きの反応を示した。

中でも一番は、不可抗力ではあるが傷つけたコニーだ。


「ファリアス社長。いえ…コニーお嬢様。あなたのお気持ちは十分に理解はしています。ご両親、お祖父様を亡くされた。その悲しみ、怒りをG・O社に向けたいお気持ちもわかります。先程お嬢様が仰られたように、幹部は間違いなく反対するでしょう。もちろん私もです。共同歩調をとっている企業に対して、弔い合戦などすればどうなるかあなたならおわかりなるでしょう?」

「じゃ! どうすれば良かったんだ! 私は悔しい! 3人のかたきがわかっているのに手を下せないなんて、どうにもならないじゃないか!」

「どうにもならないのは事実です。しかし! 何より悔しいのは今日の今までどうして我々に一言もお話しに、ご相談なさってくださらなかったのですか!」

それを聞いたコニーはナイフを手から離すと、シーマス、アリエル、ナインの3人の顔をじっと見つめている。

笑顔で応えてくれる3人。目線がシーマスの顔に戻った時コニーの視界は濁った。

彼の顔をしっかりと見ることが出来ない。


「あなたは賢い。賢さと血縁が故に6歳で社長に就任なさり、その責任感から何でも自分で解決しようとなされた…。しんどかったでしょう? 辛かったでしょう? もっと…我々大人に甘えてもいいんですよ…?」

その途端コニーの目からは大粒の涙が、心は今までの想いがあふれ出した。

どうしても抑えられない、どんな辛い事があっても今まで泣かなかったのに、涙が止まらない。

気づけばシーマスの胸に顔を埋めていた。

彼は何度もコニーの頭を撫でている。

2人を見たアリエルとナインは武器をしまった。

ここの家の主人達も安心の一息を漏らした。

リンは嬉しそうな表情を浮かべながらメイドから差し出された手に掴まると立ち上がった。


「あのよ、お取り込み中悪いんだが、この部屋の修理は誰が持ってくれるんだ?」

「ちょっと! このタイミングでそんな話しないでよ!」

リンの言うとおり、このタイミングで口にする問題ではない。

コニーは涙を拭いながらトーマの下へ近寄った。


「お前達には迷惑をかけたな。修理代は我が社が持つから心配するな」

心なしかぎこちない笑顔だが、彼に対しては始めてのものだった。


「ところで、社長。先程申しておりました協力者とは誰の事ですか?」

「あ〜、そうだ。奴にも連絡をせねば」


このまま大団円で終わるとそこにいる全員が思っていた。

1人の男がこの部屋にやってくるまでは。

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