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モノクロ・コード  作者: 来座
≪Activation:始動≫
1/11

00 5年前

 基本的にはクロ視点なのですが、たまに他の人物の視点になるときがございます。

 その際は≪名前≫と表示します。

 この表示が無い場合は全てクロの視点であるとお考えください。

≪榊視点≫



「数値上昇、止まりません! あと1分ほどで暴走状態に入ります」

 異常事態発生を示す赤いランプが点滅し、耳障りなブザー音が響く。榊は耳を覆いたくなるその不愉快な音に顔をしかめた。

 白い壁に囲まれた室内には大量のコンピュータが並ぶ。その一つ一つに白衣を着た研究者たちが座り、必死の面持ちでキーを叩いている。


 それを見ながら、榊は思った。

(無駄なことだ)

 榊のその予想通り。

 モニターには毒々しい赤色で「シグナル拒否」の文字。

「くそっ! あきらめるな!」

 部屋の中央。少し高い台の上で所長が指示を飛ばす。

 それを人事のように聞きながら、榊は自身のモニターを見て呟いた。

「『アダム』。やはり、おまえは人類を憎んでいるのか」

 モニターの中の人影は揺らめくばかりで、何も答えはしない。


 事の始まりはある実験だった。

 政府より出された命令。それは『アダム』の拘束の解除だった。

 榊は耳を疑った。ただでさえ状態が不安定な『アダム』に対し、これ以上の刺激を与えるなど危険すぎた。

 冗談じゃないと思うと同時に。

 榊は政府の認識を再確認した。

 彼らにとって、『アダム』はただの道具であり、意志を持たない都合のいい存在なのだ。

 人の傲慢。

 榊は実験に反対した。

「『アダム』が暴走状態になる可能性があります。実験は中止するべきです」

 しかし、一研究員の意見など聞き入れられるわけも無かった。

 実験は強行。

 その結果、わずか数分でこのアラームの嵐。

 予想通り過ぎて、榊はため息も出なかった。


 諦めたように背もたれに身を預け、画面を見つめる。自分でも意外なことに、脳裏に映るのは3人の同期の顔だった。

 この研究所で出会ったその3人は、みな変わっていた。研究員とは孤独な生き物だ。あまり他者とかかわろうとしないものが多い。

 しかし、彼らは違った。積極的で、社交的で、個性的だった。

 榊は彼等の知性に見惚れた。いつしか、彼らは榊の友になっていた。

 そして、その同期たちはここにはいない。


「あいつらはついてるな。今日に限って上層勤務か。昔から、なんでおれだけ不幸をつかまされるのかね」

 榊は自分の運の悪さを呪わずにはいられなかった。


 榊のいる部屋は研究所内でも最下層とよばれる、地下30階に位置した。この部屋こそが研究所の心臓であり、頭脳だった。

 地下に作られたこの研究所は10階降りる毎に上層、中層、下層と区別され、研究員たちはローテーションで各階層の勤務に当たっていた。勤務地の変更は1週間間隔で行なわれ、今日は榊が下層で仕事をする、最後の日だった。


 今頃、上層では退避が完了しているだろう、と榊は予想した。警報装置が作動して3分。中層以上の職員はマニュアルどおり緊急通路を使い、地上へと出ていてもおかしくない時間だ。


「爆発まで残り30秒!」

 メインルーム内に室長の大声が響き渡った。


 『アダム』になにか問題が発生した場合、証拠を隠滅するために施設を爆破することが決められていた。

 榊は未だ無駄な努力を続ける同僚たちを眺める。

 下層から地上まではエレベーターを使っても10分以上。

 対して、自爆装置の猶予時間は5分。

 はじめから決まっていた。

 脱出は不可能。


「おれも最後の足掻きといきますか」

 榊は≪強化≫と≪結界≫を発現させた。淡い光に体が包まれる。爆発の規模は未知数。この程度の防御で身を守れるかどうかはいささか以上に疑問。しかし、なにもせずに待つよりは気分が楽になった。


「3、2、1」

 室長のカウントダウンが聞こえる。

 そして。

「0」

 その瞬間、榊の目の前が真っ赤に染まった。同時に、強烈な振動と熱波が襲う。体が宙を舞い、したたかに壁に打ち付けられる。


 熱い。肌がただれそうなほどに。


 薄れる意識と霞む視界。

 モニターの中で、『アダム』が笑ったような気がした。


5月14日 修正

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