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第壱拾参章 霞流剣術の修行風景

 今回は修行風景なのでいつも以上に地味です。

 それと視点はしばらくネムス視点となります。

 次の日、ユキコが早朝から勇者とフェイナン君に稽古をつけているのを見かけた。

 勇者とフェイナン君はユキコの指示に従って何度も何度も木剣で素振りを繰り返している。

 何でも剣の道に近道はないそうで、毎日毎日愚直なまでの稽古の繰り返しで型が体に染みつくようになって初めて教えが血肉になるんだとか。

 よくある冒険譚のように、必殺技とかの猛特訓なんてものはユキコの流派には無いんだってさ。

 気の毒なのはフェイナン君で足腰がふらふらになるまで素振りを繰り返しているのに、素振りにキレがなくなってきただの腰が流れているだのと何度も怒鳴られていた。

 どうもユキコは木剣の風を斬る音で判断しているらしい。


「いくら相手から申し込まれた決闘だからって、自分の剣も満足に振り下ろせないなんて相手に失礼だと思わないの?! 素振り五十本追加!!」


「は、はひ……」


「なんだ、その返事は?! そんな情けない声しか出せなくて真剣勝負ができるか!! 素振り百本追加!!」


「は、はい!!」


 道場主とは聞いていたけど、これは厳しいね。

 勇者に対しても昨日見せた慈愛の微笑みはまったく見せずに厳しい表情を見せている。


「見せ物ではない! 貴様らは一つの事を真剣に取り組む者を笑うのか?! そんな心根の貧しい者に見せる稽古はない! 散れ! 散れえええええええぃ!!」


 勇者とフェイナン君の稽古を遠巻きにニヤニヤ眺めている若者達がいたんだけど、ユキコの一喝で蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

 それにしてもよく気付いたなぁ。目明きのボクでも彼らには気付かなかったのに。


「フェイナン殿はそのまま素振りを続けるように……桜花、打ち込んできなさい」


 ユキコの言葉に勇者は素振りやめると、彼女の前で一礼して聖剣の柄に手を添えた……って、稽古に聖剣を使うのかい?


「始め!!」


 勇者は体を少し前に傾けて滑るように間合いを詰める。 速い!


「胴オオオオオオオオオオオオオッ!!」


 裂帛の気合いとともに勇者の横薙ぎがユキコを襲うが、ユキコは杖で受け止めつつ車輪のように回した。

 すると勇者の一撃は力の向きを反らされて、彼女はたたらを踏んだ。


「面ッ!!」


 体勢を崩した勇者の面前で振り下ろされたユキコの杖が止まり、勇者は尻餅をついた。


「桜花、今の霞流『車輪』は見事だったわ。でも『日輪』は幅広の両刃剣、居合には不向きよ。そのせいで『車輪』の威力が半減してしまったのね」


「あ、そうだよね。でも、霞流は居合の技が多いし……」


「そうね、『月影』は居合には向いてるんだけど桜花には使えないしね……無いものねだりするよりも『日輪』で居合刀と変わらないほど抜き付けができるようにするしかないわね」


 ユキコは自分の杖を勇者に渡して少し距離を置いた。


「桜花、大真典甲勢を貸してあげるから、今から『車輪』の型を千本抜きなさい」


「はい!!」


 勇者は杖を腰に差すと、少し腰を沈めて剣を抜き放つ。

 それにしても恐ろしく速い! 構えも初めて見るし、何より威力がありそうだった。

 それにあの剣も独特だ。片刃の剣はたまに見るけどアレほど鋭い剣はないだろうね。

 なんと云うか、ボクの知る剣と違って『斬る』事に特化したアイテムのようだ。


「桜花、刃音がぶれているわよ! ただ千本抜くのではなくて、一本一本“気・剣・体の一致”を心がけなさい!」


「はい、師範!!」


 どうやら勇者は稽古とプライベートを完全に切り離しているみたいだね。

 普段(と云っても昨日知り合ったばかりだけど)のユキコに甘えている様子は見受けられない。


「どうも気迫が足りないわね……今度、刑死した罪人の死骸を買い取って斬らせようかしら?」


 ボクは驚いて、困った様子でとんでもない事を云うユキコの顔を見た。

 彼女の物騒な呟きは懸命に稽古をしている二人の耳には届いていなかったようだ。


『あ、あのユキコさん? いくらなんでも話が物騒すぎるんじゃないかな?』


 ボクは思わずユキコに駆け寄って彼女にだけ聞こえるように小声で云った。


「あら? 聞こえていたの? でも考えようによっては必要かも知れないわ。少なくとも今のままじゃ桜花は危なっかし過ぎるし」


『どういう事?』


「知れた事。魔族を名乗る連中は人とほぼ変わらない容姿をしているそうじゃない? そのせいで桜花が魔族を斬る事に逡巡したらと思うとね」


 ユキコは腕組みをして嘆息した。


「勇者に選ばれたことはともかく、自身も勇者であることを自認して行動している以上、人に近い姿の魔族を斬ることなんてできません、なんて云ってられないでしょ?」


『それにしたって、他に方法はあるんじゃないかな? 何も実際に人を斬らせるなんてしなくても』


 ボクは昨日見た勇者の無邪気な微笑みを思い出して、胸がチクリと痛んだ。

 なにもあの笑顔を壊さなくたって……

 するとユキコはキョトンとした表情でボクの方へ体ごと向いた。


「私だって父様に命じられて刑死した人間を何度も斬らされたし、夜盗や辻斬りなどの凶賊を待ち伏せて実戦を積んだものよ?」


 なるほど、ユキコの剣から感じられる凄味はその恐るべき稽古からきていたのか。


「そうね、手頃な盗賊がいれば云うこと無いんだけど……ネムス殿は心当たりはないかしら?」


 まるで夕飯のおかずは何が良いかと訊くような口調で問うユキコにボクは思わず大口を開けて呆けた。

 この人にとって『命』ってなんだろう?

 いや、それだけの覚悟がなければ剣は究められないのだろうか?


「まあ、この事は夕食の時間にアランドラ殿か、宿のご主人に訊く事にしましょう」


 ユキコはそう云い置いて素振りを続けるフェイナン君へと歩み去っていった。

 ボクはユキコの背中を睨み付ける事しかできなかった。


「その調子です。フェイナン殿。ソレを維持できれば、あと百本で終わりにして結構です」


 なにげに増やしてるのが怖いよね……









「刑場……ですか?」


 夕食後、お茶を楽しんでいた時の事、ユキコが唐突にアランドラ君に刑場の場所を訊ねた。

 アレって本気だったんだ……


「ええ、この子に据え物斬りをさせようかと思いまして」


「スエ……モノ?」


 アランドラ君は訝しむように、勇者の頭を撫でるユキコを見る。


「早い話が刑死した者の躯を桜花に斬らせるのですよ」


 これにはユキコとツキヨ以外の全員が口に含んでいた紅茶を吹き出した。


「ゆ、雪子姉様?! い、嫌だよ! 何で桜花がそんな事を?」


「貴女の為よ。魔族は人に近い容姿、しかも耳が尖ってるの尖ってないのって程度で差異は少ないし、貴女は斬るのを躊躇うに決まっている」


「そ、そんな事……」


 ユキコの云い分に勇者は口籠もる。


「そんな事あるでしょう? それに斬るのを躊躇して魔族を逃がすならまだ良いわ。でも、その隙に魔族が反撃してきたら斬られるのは貴女の方よ?」


 ユキコの凍えるような冷たい口調に勇者は完全に腰が引けている。


「だ、だからって死体でも人を斬るなんて嫌だよ!」


「嫌だと云っても近いうちに貴女は人を斬る事になるかも知れないのよ? 良い? 躊躇えば斬られるのは自分なのよ?」


「ひ、人を斬るってどういう事なの?!」


 勇者はイヤイヤをするように首を左右に振りながら涙目で訴える。


「この後、首尾良くカイゼントーヤから船を借りられるとするわね? でも、海に出てからが大変なのよ」


 ユキコは砂糖を入れてない紅茶を美味しいのか不味いのか判別できない表情で口に含んだ。


「カイゼントーヤ近海には最近凶悪な海賊・クラウン=セカンド一家が出没するらしいの。だから私はアジトアルゾ大陸に向かう航海中に海賊と交戦する事を想定しているわ」


 ユキコの情報に皆は唖然としている。

 ボクも海賊について噂だけなら聞いていたけど、そこまで明確な情報を持っていなかった。


「ユキコ殿はいつ、そのような情報を?」


 アランドラ君も引き攣った表情でユキコに疑問をぶつける。


「昨日の夜、私と月夜でこの街にある冒険者ギルドという所に行って登録してきたのです」


「い、いつの間に……」


 冒険者ギルドとはその名の通り世界中を旅する冒険者達を支援する組織で、そこに登録する事で様々な情報や特典を得られるんだ。

 ギルドが設立された経緯は不明だけど、コンセプトは『今後の世界を担う若者達に世界中を旅して世の中の広さを、厳しさを学んで欲しい。そして、それを糧に成長して欲しい』というものだ。

 世界中の冒険者ギルドは全て繋がっていて、遠く離れた地でも伝書鳩を使って情報を交換している徹底ぶりだ。つまり辺境のド田舎でも新鮮な情報を得られるんだ。

 冒険者は何らかの試験を受け、クリアすることでギルドに認められて登録できる。

 登録が済めばギルドから情報を格安で買うことができたり、またバックマージンこそ取られるけど仕事も周旋して貰える。

 仕事の内容は日雇いの人足仕事から魔物退治、要人警護、変わったのでは好事家に自分達の経験した冒険を物語にして聞かせるというものまである。

 ユキコは昨日の御者から冒険者ギルドの事を聞いていたので、早速登録してカイゼントーヤ近海の海賊の情報を得たのだろう。


「登録する際に自分達の名前の他に、徒党の名前も登録するって事だったから家の姓の霞をイスパニア語に直した『ネブリナ』にしたけど、桜花、良いわよね?」


「う、うん……何でイスパニア語なのかは分からないけど……」


 良いわよねも何も事後承諾じゃ嫌とも云えないと思うんだけど。


「霞家のご先祖様が戦国時代、イスパニア人と交流があったからその名残で霞家当主はイスパニア語の習得が義務付けられているのよ」


「しかしユキコ様、この街のギルド長は堅物で有名なのですが、よく登録を許されましたね」


 厳つい顔に似合わない若奥様が着るような可愛らしいフリフリのエプロンをかけたオーナーがユキコのカップに新しい紅茶を注ぎながらそう云うと、彼女はニコリと微笑んで答えた。


「ええ、確かに、女の冒険者、いないこともないが女には女の幸せってもんがあんだろうが、と怒ってましたけど、コレを見せたら態度を変えましてね」


 ユキコは杖に仕込まれた刃をオーナーに見せた。

 改めて見るとぐいぐい引き込まれそうになる美しく魅力的な刀身だ。

 ボクは何度もその剣に手を伸ばしたくなる衝動を抑えるのに必死だった。

 その剣が欲しいんじゃないんだ。なんとその剣で斬られたくなるんだよ。

 臆病なボクにそこまで思わせるほど恐ろしくも美しい剣だった。


「見たことのない造りですが見事な一振りで御座いますな。なるほどコレほどの業物を見せられてはアイツも認めざるを得ないでしょうな」


 オーナーは刃を納めると、眼福に御座いました、と一礼して杖をユキコに返した。

 オーナーも若い頃は世界中を巡った腕利きの冒険者だったらしいから剣の善し悪しは判るんだろうね。

 昔は『斬れぬもの無き敏腕シェフ』なんて訳のわからない二つ名で知られるパーティ内のコック兼戦士だったそうで、包丁でドラゴンを捌いた事があるとか……


「ええ、それは良いのですが、こんな物を頂いてしまいまして……」


 ユキコはツキヨに何かを云いつけて手甲と小さな盾が一体化した物を持ってこさせた。

 一方は中央に紅い炎を模した絵と周りに幾何学模様が描かれていた。


「こ、これは炎魔の盾?! 炎と魔力を封じた盾でして、炎系のダメージから守ってくれるもので御座いますよ!!」


 オーナーは興奮したように盾を手に取った。


「間違いない本物だ! これは魔法の心得の無い者でも装備すれば中位レベルまでの炎系魔法が無詠唱で使えるようになるのことから、危険物として封印されていたのですよ!」


「それほどの品を何故私どもに?」


「それだけゲイン……ああ、あの石頭のギルド長の名前です。ゲインがそれだけ貴女達を気に入ったのでしょうね」


 オーナーは余程興奮しているのか額が汗でビッショリだった。


「左様ですか。でも、ギルド長は他にも気になることを仰ってました。確か、お前達なら俺が手に入れられなかった『夢』を掴めるかもな、と」


 ユキコの言葉にオーナーは何故かポロポロと涙をこぼした。


「そうか、ゲインよ……お前はまだあの『夢』を諦めてなかったんだな……」


「オーナー殿?」


 ユキコは小首を傾げながらオーナーに声をかける。

 こういう仕草だけ見ればユキコも文句なしに可愛いんだけどなぁ……


「いや、申し訳ありません。ゲインがその盾をユキコ様に託した訳はいずれお分かりになるでしょう。ですが、今はお役目に向けて邁進してください」


「は、はぁ……とりあえずこの盾も私の手甲と同じで重さを感じさせないし、月夜、貴女が使いなさい」


 ユキコの言葉にツキヨは何故か歯を何度か鳴らしてから頷いた。


「さて、話が逸れましたが、肝心の刑場は近場にはありませんか?」


 オーナーはしばらく気難しそうにユキコを見ていたけど、やがて溜息を吐いて地図を広げた。


「これはこの近辺の地図です。そして地図を上下に分断している青く太い線が運河で御座います」


 オーナーの説明によると刑場は確かにスエズンの近くにあった。

 なるべく聖都から離したかったのか、スチューデリアとカイゼントーヤの国境ギリギリに存在した。

 場所はスエズンから運河に沿って西へ歩いて2日の場所だけど、馬車を飛ばせば半日もかからないだろう。


「そう云えば、明日はこの近辺を荒らしていた凶悪な盗賊団の首領が処刑される予定でしたな」


「それは良い! それだけの大物悪党の死骸なら桜花の据え物斬り第一号にふさわしいですわ!」


 オーナーの余計な一言にユキコが嬉しそうに云うと、勇者が噛みついた。


「良くないよ! ねえ、本当に桜花は死体を斬らなきゃいけないの? 桜花だって実戦を積んでるんだよ?!」


「桜花、自惚れないでね? あんな異形の一匹や二匹は実戦とは云わないわよ? 私達の敵はあくまで魔族でありヴェルフェゴールなのだから」


 ユキコはどこまでハードルが高いんだろう?

 確かにモンスターと魔族じゃ比べるべくもないけど、それでもモンスターはニンゲンにとって充分脅威なのに。


「そうと決まれば早速、明日早朝に馬車を借りて刑場に向かうわ。オーナー殿、貴重な情報に感謝します」


「あううう……」


 テンションの高いユキコに対して、勇者はこの世の終わりのような顔をしている。


「話が決まったところで、少し早いけど寝ましょう」


 ツキヨに手を取られて寝室に向かうユキコの背をボクとアランドラ君、そして勇者は呆然と見送るしかなかった。









 次の日、オーナーが手配したのかアンカー亭の前に二頭の艶やかな栗毛の馬に引かれた幌馬車が待機していた。


「この馬車は上得意のお客様の送迎に使っているものです。これならば、ランチ前には刑場に着くことができるでしょう」


 なるほど、アンカー亭の持ち物だったのか……って、オーナーが自ら手綱を引いてるよ。


「思うところがあり、御者は僭越ながら私めが務めます。それでは早速出発致しましょう」


 オーナーの言葉に勇者達は幌馬車に乗り込んでいく。

 メンバーは勇者達三姉妹、アランドラ君の他に何故かボクとフェイナン君まで乗せられた


「ネムス殿、ごめんなさいね? 据え物斬りを体験した桜花は確実に精神的に参るだろうから、貴方の歌で慰めて欲しいのよ」


 ユキコがボクの手を取って申し訳なさそうにそう云った。


『そういう事なら微力ながら手伝うよ』


 もう何を云おうとユキコの考えは変わらないだろうし、それならボクなりに何とかしてやろうと思わなくもない。


「ありがとう」


 ニコリと微笑むユキコは本当に綺麗で、ボクは吸精鬼(サキュバス)に魅了されたかのように一瞬、呆けた。


『い、いや、これくらい……』


 ボクは熱を帯びてきた顔を冷ますように首を左右に振ってそう答える事しかできなかった。


「ところで……何故、私まで一緒に?」


 昨日の素振りで筋肉痛になったのか、ぎこちない動きをしているフェイナン君の問いに答えたのはオーナーだ。


「ついでだ。お前もその据え物斬りとやらをやって明日の決闘に備えろ!」


「そ、そんな……」


 フェイナン君の情けない悲鳴を合図に幌馬車は刑場目指して出発した。









 凄いスピードで進む馬車の中でユキコは震えている勇者の頭を胸に抱いていた。


「桜花、怖いのね? 私も初めて据え物斬りを体験した時は怖かった……肉に刃がめり込んでいく感触が手からなかなか消えなくて何度も何度も胃の中のモノを吐いたわ」


 へぇ、ユキコにもそんな時期があったんだ。

 いや、そういう修行を課せられてきたから今のユキコがあるのかも知れない。


「でも、私の場合は兄様がいてくれたから何とか乗り切れた。兄様も私と同じく初めてだったのに、私を護るために怖いのや気持ち悪いのを我慢して抱きしめてくれた……」


「兄……様? 雪彦兄様? あの優しかった雪彦兄様も据え物斬りを……死体を斬ったの? いつもニコニコと笑って桜花の頭を撫でてくれた雪彦兄様が……?」


 勇者は何か信じられない事を聞いたような驚きの表情でユキコの顔を見上げる。

 ちなみにユキヒコとは、後で聞いた話によるとユキコの双子の兄で、顔立ちはユキコそっくりだったそうだ。けど数年前に大きな火事に巻き込まれて亡くなったらしい。

 彼の実力はなんとユキコ以上で、剣が鞘から抜けきらない内に敵を倒すほどの腕前だったらしい。

 その為、剣術家達から『稲妻』という渾名がつけられていたそうだ。


「兄様が怖くなった?」


 ユキコがいたずらっぽく微笑みながら問うと、勇者は首が千切れそうなほど勢いよく何度も左右に振った。


「そ、そんな事ないよ! どうであれ雪彦兄様は雪彦兄様だもん! 優しくってすっごく強い自慢の兄様だったもん!」


「うん、桜花ならそう云ってくれると思った」


 ユキコは嬉しそうに勇者の頭を優しく撫でていたけど、不意に沈んだ表情を見せた。


「本当に優しくて強くて頼りになる兄様だった……どうして亡くなってしまわれたのかしらね?」


 ユキコは口紅を差しているわけでもないのに艶やかな深紅の唇に指を這わせて、憂い顔をしている。

 意図しているワケじゃないんだろうけど、この色っぽさは何なんだろう?

 アンカー亭の従業員だってこんなに色気はないよ?

 見ればアランドラ君と勇者、フェイナン君は真っ赤にした顔を背け、ツキヨは頭を上に向けて首の後ろをトントンと叩いていた。


「皆様、アレを!」


 不意にオーナーが叫び、前を指差した。

 オーナーの指が示す先には堅牢で巨大な建造物があった。

 これが凶悪な罪人達の収容所にして死刑が執行される恐怖の場所……ジャッジメント・スクエアだ。









 ここで恐るべき修行が行われることになる。

 それによって勇者とフェイナン君は何を得て、何を失うのだろう?

 据え物斬りを愛する妹に課すユキコの思惑がどこにあるのか?

 ジャッジメント・スクエアの中で待ち受けるものとは?

 それはまた次回の講釈にて。


 未だかつてファンタジー物の修行で、勇者に死体を斬らせるヒロインがいましたかねぇ?(汗)

 剣客小説だと割とよく使われてたりしますが、ラノベではあまり見ないかも知れませんね。

 それと私の小説でも冒険者ギルドを出してしまいました。

 一応、コンセプトやあまり見られない依頼クエストを書いてみましたが如何でしょう?

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