築35年のアパート
ほんのりホラーです。
築35年のアパートだが、内廊下で雨風が凌げて、バストイレ別、洗濯機も屋内に置ける。日当たりもいい。
ワンルームだが家賃は破格で、会社も徒歩圏内。俺は即決した。
しかも、管理会社はハウスクリーニング会社らしく、共用部の清掃当番はなし。
さらに廊下の照明はセンサー式らしく、誰かが通ると自動で点灯する。
いい物件だと思っていた。
問題があるとすれば、廊下に面した台所の窓だった。
荒い磨りガラス越しに、深夜や早朝、外廊下がやけに明るくなる。
構造上、光を遮るには何か貼るしかなく、廊下の照明で目が覚めることがあった。
パッ。
時計を見ると、2時17分。
誰か夜勤の住人でもいるのだろう。
朝6時起きの身には辛いが、センサーなら仕方ない。
次の休みにでも、カーテン代わりのものを探そうと思っていた。
そんなある日、共用の掲示板に一枚の張り紙が出た。
「住民のみなさまへ
このアパートの廊下の照明は、センサーライト式・時限式ではありません
利用後は、廊下にある照明スイッチを切ってください」
改めて見ると、各戸のドアのインターフォンボタンの反対、蝶番の側に小さなスイッチがある。
なるほど、手動だったのか。
誰かが気を利かせて、俺の帰宅に合わせて点けてくれていたのかもしれない。
そう思ったところで、気付いた。
このスイッチは、一度扉を全開にして廊下に出なければ、押せない位置にある。
廊下に面した窓からも、手が届かない。
俺に気付かれず、押せる人間はいない。
つぎの日、なんとなく帰りたくなくて、遅くまで飲んだ。
酔って歩いて帰ると、通りから見える内廊下は、誰もいないのに明るかった。
誰かが消し忘れたんだ。
そう思うと、気が抜けた。
部屋に入り、靴を脱いでから、
廊下の電気を消していないことに気付く。
ドアノブに手を伸ばした瞬間。
パチン。
すぐ近くで、スイッチを切る音がして、廊下が暗くなった。
俺は酔ったふりをして台所の電気を点け、テレビを点け、
ベッドに潜り込んで頭から布団を被った。
あの部屋には、一ヶ月と少ししか住めなかった。
作者の実体験をもとに書かれています。




