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黒焔の復讐者は禁忌を宿して異世界を往く  作者: 美希昌希
第三章:セルディス王国編
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第090話 エミル VS A級冒険者パーティ

「ハッ……ハハハハハッ!」


 A級冒険者パーティ『黒鷲』のリーダー、エンデバーが腹を抱えて笑い出した。


「全員助けるだぁ? 寝言は寝て言うから寝言なんだぜE級! 俺たちA級相手に、テメェごときに何ができるってんだァ!?」


 嘲笑が地下室に反響する。


 そのエンデヴァーの両隣、リザードマンのビルクは、バルディアの首筋に冷たい刃を押し当てていた。巨漢のコンスティは、アヤメの細い首を太い腕で締め上げながら、嗜虐的な目でエミルを見据えている。


 ——状況は最悪だ。


 エミルは歯を食いしばり、周囲を観察した。

 人質はアヤメ、バルディア。そして檻の中の奴隷全員。


 ——最優先で潰すべきはエンデバーだ。

 あいつの雷魔法が奴隷たちへの起爆スイッチ。無力化するには奇襲しかない。

 かといって『空間転移』での同時制圧は難しい、二人が限界だ。コンマ数秒の遅れが、人質の死に直結する。


 ドクン、と心臓が嫌な音を立てた。


 脳裏に、あの日の光景がフラッシュバックする。


 ——『母さん! どうしたんだよ、これ……何があったんだよ……!』


 血まみれで倒れていた母。

 冷たくなっていく手。

 何もできなかった、あの日の自分。


 あの絶望的な無力感が、喉元までせり上がってくる。


 ——嫌だ。

 目の前で誰かが死ぬのは、もう二度とごめんだ。

 おれはもう、あの頃のおれじゃない。

 十年も部屋に引きこもって腐っていた、何もできなかったあの頃とは違う。

 全員助けると誓った。やるしか、ない。


 奥歯をギリ、と噛み締める。


「おい、黙ってねえで泣き言のひとつでも言えよ。それとも、大口叩いたことを後悔してんのか?」


 エンデバーがニヤリと口角を吊り上げ、指先でパチパチと雷光を弄んだ。


「さあ、命が惜しけりゃ土下座して……」


 ——今だ。


 エミルの右手が、床に向けられた。


「『遮覆黒土(ロック・フィルダム)』!」


 ドォンッ!!


 石畳が爆ぜた。


 床から噴き上がった泥流が、エンデバーの右腕に食らいつく。


「ぐっ……! なんだ……これは!?」


 泥は瞬時に乾燥し、鋼鉄のような硬度で固まる。指一本動かせないほどの圧力で、彼の腕を固定する。


 パチ、と微かに鳴った雷光が、土塊の中で虚しく霧散した。


「チッ、雷が通らねえ……!」


 エンデバーが顔を引きつらせる。


 その時にはもう、正面にいたはずのエミルの姿は消えていた。


「次は、お前だ」

「!?」


 ビルクの背後。


 振り向こうとした側頭部に、漆黒の焔を纏った拳がめり込んでいた。


 ドォォォンッ!


「が……」


 衝撃が脳を揺らし、ビルクの意識を強制的に暗転させる。

 白目を剥いて崩れ落ちる手から、カラン、とナイフが滑り落ちた。


「バルディア!」


 崩れ落ちるビルクからバルディアを抱え上げ、即座に距離を取る。


「はぁ、はぁ……。助かったぜ、エミル!」


 腕の中でバルディアが荒い息を吐いた。張り詰めていた緊張から解放され、全身が汗で濡れている。


 そして、ほぼ同時。


 エミルの奇襲にコンスティの意識が一瞬逸れた、その刹那。


「ッ!」


 アヤメは拘束されたまま、全身のバネを使った頭突きを、無防備なコンスティの顎先へと突き上げた。


 ゴッ!


「んぐっ!?」


 脳が揺れ、コンスティがよろめく。拘束が緩んだ隙を逃さず、アヤメは身体を捻り脱出した。


「くそ、逃がすかァ!」


 コンスティが怒号と共に腕を振り上げる。だが、アヤメの視線はそこにはなかった。


 懐から取り出したそれを、宙へと放る。


「バルディアちゃん、これを!」


 宙を舞うのは、保管庫で回収しそこねていたバルディアのガントレット。


「にししっ、ナイスだアヤメ!」


 バルディアがエミルの腕から飛び出し、空中で回転しながらガントレットに両腕を通す。カシャン、と小気味よい金属音が響き、鋭い爪に灼熱の火花が散った。


「やっと暴れられるぜ……! 行くぞオラァッ!」

「はいっ!」


 アヤメが落ちていた剣を蹴り上げて掴み、バルディアが炎を噴射して加速する。二人の同時攻撃が、コンスティに襲いかかった。


「お、お前らあああああッッッ!!」


 後方では、未だエンデバーが右腕の拘束を解こうと喚き散らしている。攻撃を完全に封じられたA級冒険者など、ただの的でしかない。


 戦況は一変した。


 アヤメたちがコンスティを圧倒しているのを確認し、エミルはゆっくりと振り返る。


「ひっ……!?」


 エンデバーの怒声が、引きつった悲鳴に変わった。


 土の拘束を解こうともがいていた彼の眼前に、エミルが音もなく現れていた。漆黒の焔が、静かに揺れている。


「た、助け……」


 言葉が終わる前に、エミルの拳が、容赦なくその顔面に叩き込まれた。

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